↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

黒いロングブーツ

作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
掲載日:2026/09/16

ネット通販の箱を開ける瞬間の高揚感は、時にとんでもない裏切りと痛みを連れてやってくる。

これは、勝負日に向けて新調した一足のブーツと、思いがけぬ敗北を喫した私の、少し切なくも愚かな冬の記録である。

 ベルベット調の黒いロングブーツが届いた。

 履いてみるとサイズ違い。踵(かかと)の部分がどうしてもはいらない。

 非常に悔しいが、返品交換の方法もわからない。サイズ違いを入力してしまったようだ。あるいは先方の採寸ミスか。

意地でも押し込もうと力いっぱい引っ張ったら、思いきり手が滑って自分の鼻頭を強打した。痛みと虚しさで、思わず一筋の涙を漏らす。

 勝負日に履いていく予定だったのに。これからやって来る寒い季節に向けて新調したのに。

 こうなったら、一冬、ビーサンで過ごしてみるか?

 いや、それは現実的な方策ではない筈だ。

ならば採寸をしっかりしてから『もう一度買う』をポチるか?経済的に苦しくなるぞ。どうしたって現実的な方策が考えつかない。

結局、その晩の私は冷やし中華の残りを啜りながら、ネットで「靴 サイズ違い 自力で伸ばす」という不毛な検索に没頭することになった。

 検索結果に従い、新聞紙をギューギューに詰め込み、ドライヤーの熱風を当てて革を伸ばそうと試みる。狭いワンルームに充満する、温められたベルベットと新聞インクの怪しい匂い。リビングの真ん中で、片手にドライヤー、片手に冷えピタを貼った己の鼻頭というあまりにも情けない格好で立ち尽くしていると、ふと我に返った。

 勝負日に履いていくはずだった靴と、勝負前に負傷した鼻。

 ……まあいい。足が入らないなら、せめて部屋のオブジェとしてこの冬を一緒に乗り切ってやることにしよう。翌朝、玄関に鎮座する片方だけの漆黒のブーツに「おはよう」と声をかけて出社した私の足元は、当然のように履き古したスニーカーだった。


     【了】


ちなみに後日談ですが、鼻の腫れが引いた頃に諦めてワンサイズ上のものを買い直しました。玄関に並ぶ二足の同じブーツを見つめながら、今年の冬は買い物の「確認画面」を三回見直そうと心に誓った次第です。皆さまもネット通販のサイズ選びにはどうぞご注意ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。