乙女の秘密ですわ
この国では学園で首席者に対して卒業式で国王陛下が一つだけ願いを聞いてもらえる風習がある。大体は王宮に入りたいであるが、稀に姫との婚姻もある。
薬草学で首席である子爵家の令嬢である、ルリッタは、公爵家の三男との婚姻を願った。
周囲は騒然した。それは子爵家の令嬢が公爵家の三男との婚姻を願ったからではない。
公爵家の三男が、顔の半分が爛れ、杖がないと歩行が難しく、婚約破棄され、家の支援でどうにか生活している元騎士だからだ。
国王陛下は一瞬だけ驚いた顔をしたが、ルリッタの願いを聞き入れた。
一人娘であるルリッタの夫になった公爵家の三男は、この瞬間、子爵家に婿入りが決まったのだ。
公爵家の三男は侯爵家に婿入りが決まっていた。
麗しいだけではなく、騎士としての腕もあった。
アーサーレオン。
英雄の名前に相応しく成長した。
侯爵家の令嬢とも愛を育んでいき、周囲から羨まがられる仲になった。
それが一変したのは、アーサーレオンが魔物との討伐中に仲間を庇って大怪我を負ったことが始まりだった。
王宮の医務室にお見舞いにきたかと思えば、顔の半分が爛れているアーサーレオンに対して、激しく罵り、一方的に婚約破棄を言い放ったのだ。
そして庇った仲間と婚約してしまった。
捨てられた英雄。
哀れな英雄。
そう呼ばれるようになった。
唯一救ったのは、家族が見捨てなかったことだ。
見捨てられていたら、自害していたかもしれない。
「何故、私なのか、聞いても、よろしいか?」
顔の半分を包帯で巻いているアーサーレオンの傍らには杖がある。
向かい合って紅茶を飲んでいたルリッタはカップをソーサーに置く。
「それは」
ルリッタは思い出す。
甘いお菓子ばかり食べて太っていたときに、王妃様のお茶会に呼ばれ、母親と参加し、子供たちだけになったとき、体型のことで笑われて、人気がない所で泣いていたときに、お茶会の護衛だった若きアーサーレオンが声をかけてきたのだ。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったのに、顔色変えることなく、ハンカチを差し出したのだ。
「汚れてしまいます」
「差し上げますので、気になさらず」
ルリッタはアーサーレオンにクスリと笑う。
「乙女の秘密ですわ」
いつだってルリッタの宝物は、差し出されたハンカチなのだ。
アーサーレオンは一瞬、涙と鼻水でぐちゃぐちゃに泣いていた令嬢を思い出した。
「そうか」
アーサーレオンは乙女の秘密のまま、それ以上は聞かず、そう答えるのだった




