表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

冒険者ギルド酒場のリサは、なびきません~常連さんたちの甘さは過剰です~

冒険者ギルド酒場のリサは、なびきません~討伐帰りの人気剣士と特製肉巻きたまご~

掲載日:2026/07/11

前作にブックマークや評価をしてくださり、とっても感激でした。

シリーズ化して一話完結連作でしばらく進めていこうと思っております。


応援どうぞ宜しくお願いいたします。

夕方の「ねぎらいの酒処」に、討伐帰りの冒険者たちが一息つきにくる。


 ここは、王都冒険者ギルドの受付横にある酒場だ。

 

酒を注ぎ、小皿料理を出し、冒険者たちの愚痴を聞く。

疲れて帰ってきた人が、ほっと寛げる場所にする。

 

それが、看板娘リサ・コーエンの仕事である。

 

前世で睡眠も休日も仕事に捧げてきた私は、三十代の日本人だったはずだ。

 

今は、魔法と冒険の異世界で生きる二十六歳。

 

「リサちゃん、ただいま」


「おかえりなさい、アルバルさん。今日は討伐参加組でしたよね」


 大型マジックリザードの群れが出たとかで、朝からギルドは騒がしかった。


 討伐組が無事に戻ってきたなら、今日のねぎらいの酒処は忙しくなる。


「そうそう。大型マジックリザードの群れ。大変だったよ」


「お疲れですね。今日はエール、控えめにします?」


「エールのために頑張ったんだよ」


「ではすぐお持ちしますね」


「おう」


 アルバルさんは冒険者歴の長い常連だ。

討伐や重要任務のあと、ここで一息ついてから、

奥さんと子どもの待つ家へ帰る。

辛かったことも、大変だったことも、まずはエールで喉を潤すのも必要だ。


「今日のおすすめは、肉巻きたまごです。半熟卵とタレを絡めた肉がおいしい一品です」


「んじゃ、それといつもの!」


「アルバルさんのいつものは角煮ですね」


「覚えてくれてるねえ」


「常連さんの胃袋は、だいたい覚えています」


「胃袋つかまれちゃ男は弱いよ」


「そんなつもりではありません。居心地のいいお店になるようにしているだけです」


「ははは、助かるよ」


 アルバルさんが豪快に笑う。


 私は木杯にエールを注いだ。


「エールです。

あと今日は、討伐達成記念にみなさんへモレさんから酢の物をごちそうします」


「モレ! ありがとな!」


 厨房から、店主兼料理長のモレさんが顔を出した。


「何、みんな頑張ったんだ。酢の物は疲れに効くぞ」


「酒じゃなくて酢の物ってところが、この店らしいな」


「酒も出す。だが、明日動けなくなるほどは飲ません」


「はいはい、分かってるよ」


 討伐帰りの冒険者たちが笑う。

 疲れていても、傷があっても、帰ってきて、食べて、飲んで、笑える。

 

「リサちゃん、この卵最高」

 

「でしょう。エールに合いますよね」


「そういえば、レオが後処理してから来るぞ、」

 

私は手にしていた盆を、少しだけ抱え直した。


「レオさんも討伐だったんですか?」


「ああ。リサちゃんに会うって楽しみにしてた」


 レオさん。

人気剣士で、うちの常連。

銀髪に黒く輝く瞳。いつも軽口を言いながら、カウンターに座る。

冒険者パーティ「シルバーライオン」のリーダーだ。

顔がよく、冒険者を初めギルド職員やここのお客さんの女性達に人気がある。


そして、特製肉巻きたまごが好きだ。

半熟卵を、肉でくるりと巻いて、甘辛いたれを絡めた小皿料理。


レオさんの、「いつもの」やつだ。


「肉巻きたまご、仕込んでおいてよかった」


「なんだ、あいつのためか?」 


「たまたま常連さんの好物を用意していただけです」


 アルバルさんがにやにやした。


 私はすんとした顔で、アルバルさんに水の木杯を追加した。


「レオだ!」


「後処理お疲れ!」


 冒険者たちの声が上がった。


 私は顔を上げた。


 入口に立っていたのは、レオさんだった。

 

銀髪は少し乱れている、頬にも小さな傷があった。

 

ちゃんと、帰ってきたことが嬉しい。


「リサ」

 レオさんは私を見つけると、少しだけほっとしたように笑った。


 疲れているのに、絵になる表情。

 こういう男は酒場の彫刻として飾っておくのが一番安全だと思う。


「レオさん。おかえりなさい。討伐、お疲れ様でした」


「ただいま」


 その声が、いつもより少し低く甘かった。


「今日のおすすめは、レオさんのいつものですよ。」


 レオさんの顔は満面の笑みだった。


「リサ」


「はい」


「俺の疲れ、今どこかに去っていった」


「私に回復魔法は使えません」


「俺ために好物を作って待っててくれるのが最高」


「お客様のためです」


「照れてて、すごくかわいい」


「熱いだけです」


 アルバルさんが横で噴き出した。

「リサちゃん、おされている」


「レオさん、先に水を飲んでください」


「うん、分かった」


 急に素直になるのも、なんだか心臓に悪い。


「どこに座りますか?」


「カウンターの端。リサの近く」

 はい、流します。

 私はカウンターの端に水を置いた。


「エールと、いつものをください」

 レオさんは椅子に座ると、私の方へ体ごと向けて、楽しそうに笑った。

 その笑顔に、討伐帰りの疲れが少しだけ混ざっている。


「かしこまりました」

 

私は厨房へ向かい、モレさんから皿を受け取った。

特製肉巻きたまご。仕上げに黒胡椒を振りかける。

肉の香ばしさと卵の甘みが、エールによく合う。


「お待たせしました。エールと特製肉巻きたまごです」


「これ、食べたかった」


 レオさんは笑って、肉巻きたまごを一口食べた。


 そして、低い声で言う。

「うまい」


「それはよかったです」

色気が少しもれていたことは流しました。


「笑顔のリサとこれを見ると、帰ってきたって感じがする」

 その言葉に、私は少しだけ動きを止めた。


「だから今日も会いたかった」

 真面目な甘さは困ります。


「いつもの卵が待ってますから、帰ってきてくださいね」


「リサに会いたかったのに」


「この酢の物は、モレさんからです」


 私は酢の物を置いて退散した。


 ええ、そういうことかなとは思いましたけども。

 そんな甘い言葉には太刀打ちできません。

 

私は酒場の看板娘だ。

帰ってきた人に、おかえりなさいと言って、食べたかったものを出す。

それだけのこと。

なのに、顔が熱いです。


「リサ、白エールちょうだい」

振り向くと、ギルド受付職員のルカが立っていた。

仕事終わりらしく、制服の襟元を緩めている。

私の幼馴染だ。


「お疲れルカ。ちょっと待っててね」

 

ルカの視線が、カウンターのレオさんに向いた。


「レオ、戻ってたのか」


「よう、ルカ」


「討伐お疲れさん。報告書は?」


「帰ってきて最初の言葉がそれ?」


「一番目は労いだったぞ。レオは報告書がいつも遅い」


「今日はいいだろ。皆に甘やかしてもらいてぇ」


「仲がいいですね」


 私が白エールと酢の物を置くと、ルカは笑顔で答える。


「リサ。そう聞こえる?」


「もっと仲良くなりたいのは、リサなんだけどな」


 ルカが白エールを飲む横で、レオさんが素直に甘さを放つ。


「おい。無事に帰った冒険者は労う。リサを困らせる男は牽制案件だ。」


「ルカ、俺はリサを少し困らせて意識してもらいたいんだ」


困った。レオさんの心の声であってほしいものが聞こえてくる。

 

レオさんはエールを一口飲んでから、私を見た。


「リサ」


「はい」


「今日、頑張ったご褒美がほしい」


「肉巻きたまごを出しました」


「それも嬉しい」


「では何を?」


 レオさんは、少しだけ真面目な顔になった。


「レオって呼んでほしい」


 カウンターの空気が、一瞬止まった。

 

ルカの白エールの杯も止まった。


「……急に何を」


「前から思ってた」


「お客様を呼び捨てにはできません」


「ルカはルカだろ」


「ルカは幼馴染なので」


「じゃあ俺も、もう少し近くなりたい」


「その近さは俺枠だ。あきらめろ」


 まっすぐだ。


 この人は、軽口がうまいのに、こういう時は逃げない。


 ずるい。


 私はお盆を抱え直した。


「名前呼びは、

討伐から無事に帰って、ちゃんと水を飲んで、ごはんを食べて、報告書を出してからです」


「報告書もなの?」


 ルカが静かに頷いた。

「さすがリサだ」


 レオさんは笑って、肉巻きたまごをもう一口食べた。


「じゃあ、全部やる。でも、今呼んでほしい」

 

私は少し黙った。

 

討伐帰りの人が、ちゃんと帰ってきた。

水を飲んで、食べたかったものを食べて、嬉しそうに笑っている。


それだけで、今日は少し甘くてもいい気がするのだが。


危険な考えだろうか。


「……今日は、頑張ったので」

 私は小さく息を吸った。

 

ただの名前。

ただの二文字。

でも、呼び方が変わると、距離まで変わる気がする。


「おかえりなさい、レオ」


言った瞬間、レオさんの顔が溶けた。


疲れた人気剣士が、子どもみたいに嬉しそうに笑う。


「もう一回聞きたい」


「駄目です」


「じゃあ、次もちゃんと帰ってくる」


「無事に帰るたびに呼んでほしい」


 軽い声なのに、言葉はまっすぐだった。


 ルカが小さく息を吐く。


「それは、悪くないな」


「ルカ?」


「無事に帰る理由があるのは、悪くない」


 ルカはレオさんを見た。


「ただし、一日一回だ」


「リサがもっと呼びたくなるくらい、ちゃんと帰ってくる」


かってに決めないでいただきたい。


 私はお盆で口元を隠した。

 恋にはなびきません。

 なびきませんとも。

 

でも、帰ってきた人に「おかえり」と言えて。


 その人が、私に名前を呼ばれて嬉しそうに笑うなら。


 それくらいは、酒場の看板娘として、少しだけ嬉しくても仕方ない。

 たぶん。

 

 そういうことにしておきましょう。


 ☆☆☆

 仕事終わりの至福の時間。


「モレさん、今日のエールは体に染みます」


「今日も二人は勢いがあったな」


「そうなんです。真正面から来られるのは困ります。ほんと……」


「肉巻きたまごを所望します」


「え? そっちになびく?」


「がつっと高カロリーで癒やされたいだけです」

 

ただ、たった二文字にドキドキした自分が不覚でした。


私は肉巻きたまごを一口食べた。

甘辛いたれと黒胡椒が、エールに合う。

 

おいしすぎる。





前回登場しなかった冒険者のレオを登場させられて嬉しいです。

ライバル君たちの視点のお話、一人一人をじっくりとなど物語を進めていこうと思います

とりあえず不定期ですが、できるだけ楽しんでいただけるように頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ