アライグマのアライーナはコディアックヒグマに恋をする
アッニマル王国。四足歩行の動物たちが住む国で、アライグマのアライーナも平和に暮らしていた。
(ああ、今日もコーディ君はカッコ良かった……)
学校から帰ったアライーナは台所でとある作業をしながら、うっとりと思い出す。
コーディ君は、アライーナのクラスメイト。コディアックヒグマの獣人である。
大きいのに大人しく、存在感は抜群なのにあまり自己主張をしないコーディ。だからかアライーナも、ごく最近まで彼を意識した事はなかった。
身長60センチそこそこのアライーナからすれば、身長が3メートルをゆうに超える彼はまさしく山の如し。でっかすぎて、そこにある置物のように思っていたという、そんな有り様だったのだ。
しかしひと月ほど前、その心情は激変した。
学校での体育の時間。校庭でマラソンしていた時、突然吹いた突風に煽られ、アライーナはコロコロ校庭の隅まで吹き飛ばされてしまった。
なおかつ、そこに強風で折れた木が倒れて来たのだ。
絶対絶命のピンチ!
そこへ現われたる巨大な影!
最大時速60キロとも言われるスピードで駆けつけたコーディは、アライーナに倒れかかった木を、たったひと薙ぎで粉砕したのである。
そして振り向いた彼は、こう言った。
「えっと……だいじょうぶ? アライーナちゃん。……あ、あれ? どこに――あ、いた」
コーディはでっかすぎるので、自分の膝丈サイズのアライーナをちょっぴり見失う事が多い。
しかし、その時のアライーナにはそんな事はどうでも良かった。
(す、すてき……!!)
いつも大きいだけでぼーっとしている人(と思っていた)の、いざという時の強さ。頼り甲斐。ギャップ。
何より、自分を守ってくれたという事実。
ときめかない乙女がいようか!
この瞬間から、アライーナの頭の中はコーディ一色。まさに常春となった。今2月だけど。
なんとか話しかけようとしても恥ずかしくて声が小さくなり。
なんとか声が届いてもアライーナが小さくて、振り向いたコーディに見失われ「ん? アライーナちゃんの声がしたような……気のせいかな?」と言われてしまう日々。
けれど2月といえばアレがある。
アニマルセント・バレンタインデーが。
アッニマル王国の女子は毎年この月の14日、お目当ての男の子に『合う』チョコレートを手作りして渡す。
(コーディ君はヒグマだから、お肉チョコがいいかしら? それともコーディ君の好物だっていう、ドングリを混ぜてみようかしら?)
果たしてそれはチョコレートなのか、という疑問もあるが聞いて欲しい。
人間の国にはカカオからなるチョコレートがある。しかし、動物の殆どはそういったチョコレートを食べてはいけないのだ。
毒になっちゃうから、決してあげてはいけない。食べられるとしたらネズミ獣人だけと言われているよ!
(喜んでくれるかしら? でも声をかけても気付かれない私じゃ……それに、私はアライグマ科。彼はヒグマ科……。例え結ばれても、子どもは……きゃっ! 私ったら子どもなんて、気が早いわ!)
アライーナの思考は不安と期待と常春の間を行ったり来たりしていた。
なので、ハッと気付けば。
「あっ、いやだ私ったら……。ミンチ肉を洗っちゃってた……」
いつもの癖で丁寧に洗ったミンチ肉は、シンクでバラバラになってしまった。
当然、作り直しとなった。
✵✵✵
そしてバレンタインデー当日――。
この日は学校中が、どことなく浮き足立っていた。
「きりーつ、着席ー、礼ー! 皆さん、さようなら」
「「「 さようなら 」」」
丹頂鶴の委員長、タンチョ君のかけ声でホームルームが終わると、アライーナは急いで席を立つ。
チョコレート(?)を大事に抱えて。
しかし――。
「コーディ君、このチョコレート貰ってくれない?」
なんと、目当てのコーディには既に女子がチョコレート(?)を渡していた。
アライーナはガーンとした。
(しかも、相手は学校ナンバーワン美女、虎獣人のトーラさん……!)
なんでも、コーディがアライーナを守ったあの時、トーラもその雄々しさに好感を抱いたらしい。
「え? え? でも……トーラさんとボク、ほとんど話した事ないよね??」
「だってアナタから話しかけて来るものとばかり思っていたから。この一ヶ月、ずっと待っていたのよ?」
「えぇ……? 学校の人気者のトーラさんにボクから話しかけるのは無理かなぁ……」
「そうね。だから今日、ワタシから話しかけたのよ。ね? チョコレート、貰ってくれるわよね? アナタみたいな強い男なら、アタシのパパも交際を反対したりしないわ」
「えぇ……交際? でもボクは……」
そんな会話を、アライーナは聞いていた。
心が折れかける。トーラは強い美女で、体格もコーディと遜色ない上、ベンガル虎獣人の長の娘でお金持ち。
比べて自分は地味なアライグマ。オマケに小さすぎて、二匹の間近から堂々見上げているのに気付かれもしない……。
諦めて、踵を返そうとした。
その時、トーラが振っていたしなやかかつ強靭な尻尾が顔に当たり、アライーナはよろけて尻もちをついてしまった。
「クゥー!」
「あら?」
「! アライーナちゃん!?」
いつもは気付かれにくいアライーナだが、アライグマ特有の鳴き声が響いた為に体格の良い二匹が気付いた。
コーディが慌ててアライーナを抱き起こす。抱き起こすというより体格差ゆえに彼の両熊手に乗る形となったアライーナ。
「あ、ご、ごめんねコーディ君。トーラさん。邪魔しちゃって……」
「いいよ、いいよ。だいじょうぶ? ケガはない?」
「だ、大丈夫。降ろしてくれる? 重いでしょ」
「全然! ぬいぐるみみたいに軽いよ」
それはそうだろう。3メートル超えの巨漢からしたら、60センチサイズの重さなどほぼ感じないはずである。
コーディはアライーナを両熊手でひょいと持ち上げ、トーラに向かって言った。
「トーラさん、ごめん。アライーナちゃんを保健室に連れて行くから……」
「……あー、ああ、そういうこと……。仕方ないわね。コーディ君、さっき言った事は忘れて頂戴」
「うん、ありがとう」
そのまま廊下をのしのし歩き出すコーディ。
アライーナは首を傾げていた。さっきのコーディとトーラの会話が、よく分からない。
「コーディ君? 私、保健室に行くほどのケガ、してないよ?」
「うん。でも丁度良かったから」
「丁度良かった?? あ、トーラさんを放ってきていいの? だって……」
交際するみたいなこと言ってたし、とは口に出せないアライーナ。
だがコーディは事も無げに言う。
「うーん、でもボク、好きな女の子がいるから……」
「え!!」
またもガーンとするアライーナ。しかし。
「アライーナちゃんの持ってるそのチョコレートから、ボクの好きなお肉とドングリの匂いがするんだー。ボクの為に作ってくれたんなら、嬉しいなーなんて……」
「えっ……」
そ、それって、と真っ赤になるアライーナ。
ただ顔は毛に覆われているので傍目には分からない。
そんなアライーナを、コーディのつぶらで優しい目が見つめていた――。
さて最大級コディアックヒグマ獣人コーディ君と、アライグマ獣人アライーナのその後は。
きっと、こう締め括られる。
大きなクマさんと小さなアライグマさんは、いつまでも末永く幸せに暮らしました。
めでたし、めでたし。
別の種族カップルからは子供が生まれないので、どちらかの家族から養子を貰う事になるかな?
因みに獣人たちは殆どの種族が多産です。
※補足
アッニマル王国:獣人の国。この世界で言う獣人はまんま四足歩行のアニマル姿。他所の人間の国からは密かに、もふもふパラダイスとも呼ばれている。
主人公、アライーナ:
アライグマ獣人。食肉目(ネコ目)アライグマ科。気性が荒いと言われているが、アライーナはおっとりした夢見る乙女。習性で何でも洗ってしまう。
ヒーロー、コーディ:
最大級のコディアックヒグマ獣人。どこかの世界のコディアック島と呼ばれる地では、1トンを超える個体も記録されているとか。コーディは気が優しくて力持ち。アライーナの事は、「ちっちゃくて可愛いなー」と実は気になっていた。温和だが優柔不断ではなく、言う事は言うタイプ。
恋敵? トーラ:ベンガル虎獣人。学校で知らない生徒のない強者で美女虎。父親が強い男でないと交際相手として認めてくれないのでコーディに目を付けたものの、「あ、察し」となり潔く身を引いた。自信家でプライドも高いが、嫌な女性ではない。しかし、婿をどうしようとまた悩む事となる。
委員長、タンチョ:
ちょい役の丹頂鶴獣人。彼を呼ぶ時は注意。丹頂・タンチョ・委員長、と韻を踏む事になってしまう。
お読み下さり、ありがとうございました!




