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世界を知ってしまった日

作者: 王十
掲載日:2025/12/29

疲れていた。

心も体も悲鳴をあげていた。ずっと。ずっと。

学校では、教師に犯され。

家では、両親から邪魔者扱いされ。

最初は、辛かった。

でも、幾らか太陽が沈んで昇ると、そこには疲労感しか残らなくなった。

こんな体も顔も、持ちたくて生まれてきた訳じゃない。

ただ。ただ疲れていた。

居場所が欲しかった。でも、居場所なんてなかった。

逃げ出したい。終わらせてしまいたい。

ふとその考えが浮かぶと、頭にこびりついて離れなかった。離れてくれなかった。

それを実行に移すまで、3日もかからなかった。

死に場所はとっくに決まっていた。

街を一望できる、あの場所。

初めて自分の生きる世界の大きさと小ささを知って場所。

ここから飛び降りれば、楽になれる。

少なくとも、この地獄からは抜け出せる。

柵を乗り越えた。

死は目の前で待っている。

小さな一歩。だけど、その一歩はとても大きい。

ふと、街並みに目を向けた。

なんて綺麗で、穢れた場所なんだろう。

皆が仮面を被って、歩いていた。

仮面の形は人それぞれ。

笑っている仮面。泣いてる仮面。

でもいつしか、その仮面が自分の素顔になっていく。

仮面の外し方がわからなくなっていく。

少しおかしくなってきた。

こんなにちっぽけな街の中で、私は生きてきたのか。

こんなにちっぽけな街のせいで、私は死ぬのか。

不思議と、覚悟が決まった。

くだらなく思えてきた。

私の仮面はいつだって、笑っていた。

にこにこ。にこにこ。

だから、笑み以外の表情を忘れてしまった。

それは、必然だった。

心の底から泣けなくなって、心の底から怒れなくなって。

「我が人生に、一遍の悔いあり!」

それは、心の底から自分の感情をさらけ出せなかったこと。

足を踏み出した。

体が一瞬浮いた。でも一瞬だった。

気がつくと、私と同じくらいの年の男の子が私を必死に、落ちないように支えていて、いつの間にか私は地面に寝転がっていた。

「なんで。なんで、、なんでよ。なんで助けたの?」

私を助けた男の子に尋ねた。

「我が人生に一遍の悔いあり!って聞こえたから」

自分の死に際のセリフを聞かれて恥ずかしい気持ちと、そんなことで自分を助けた彼が可笑しい気持ちが同時に襲ってきた。

気づくと、仮面の下から笑い声が聞こえてきた。

嘘じゃない。これは、私の、声だった。

「あなたの名前は?」

死のうとしていた人が急に笑いだしたかと思えば、名前を尋ねられたことに驚いているようだった。

「灰島。灰島大輝。あんたは?」

「霧島穂花。これからもよろしくね?」

少し高圧的に言うと、思いのほかすんなりと同意してくれた。

もっと渋ると思っていたんだけど。

私の容姿に少しでも感謝できたのは、これまた初めてのことだった。


だから、その後彼と付き合って、1年ほどがすぎた時、余命がもう半年もないと告げられて、驚いた。

どうしてこうも、世界は私に試練を与えるのだろうか。

入院中、彼は毎日のように見舞いに来てくれた。

私の前では一度も涙を流さなかった。

でも、彼が見舞いに来る時は毎回目元が赤くなっていた。

仮面を着けるのが下手くそなところも、彼の良いところだと思う。

だから、少しでも励ましてあげたくて、彼が見舞いに来た時は笑顔を絶やさなかった。

これは、仮面ではないと思う。

それでも、彼は怯えているように見えた。

私の命がどこかに行ってしまうことに。

だからせめて、彼に私の命を捧げたかった。

犯罪だとか、倫理だとか、そういうのはどうでもよかった。

そんなものを重要視する気持ちは、とっくに私の中から消え失せている。

彼が私の首に手をかけた時も、私は笑っていた。

彼を励まそうとか、そんなものではなく、ただただ笑っていたかった。

彼が教えてくれた、一番の贈り物だったから。

焦点が定まらなくなっていく。

意識が遠のいていく。


次に目が覚めた時、私は病院のベッドの上にいた。

「なんで。なんで、、なんでよ。私も、連れてってよ」

私の病は、奇跡的に完治していた。

ご都合主義すぎる。

ああ、世界よ。

貴方はどれだけ、残酷で儚く、穢れていて美しいのですか?

きっと見てくれている彼のため。

全力で幸せをつかみに行くことを、天に誓った。

この世界で、必死にもがく、私を見ていてね。

どうも、王十と申します。

今作は、前作の「世界が始まり終わった日」の補完となる物語となっています。

個人的に、少し暗くて切ない終わり方が、好きなので、偏った作風になってしまうかもしれません。

次作はハッピーエンドにしてみようかなとも思っています。

最後に、今作を読んでいただきありがとうございました。

彼女の「世界」を少しでも知って貰えたなら幸いです。

それでは、また。

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