2. 海運会社 カヴァルッチョ・マリーノ
リヴィアとアンナ、アンナの夫で社長のゲイルが所属しているのは、海馬や小型舟の貸し出し、荷物や人の水上輸送を担う海運会社。
主には海馬の養育と、体調確認がメインの仕事。
ただ、この田舎町ではそれだけでは経営が成り立たない。
最小限の経費で行えるお小遣い稼ぎとして、潜水漁をしている。
もちろん、漁港のお偉い様方から許可取りはした。
海辺のそばにこぢんまりとした事務所がある。
ここが海運会社 カヴァルッチョ・マリーノ。名前の由来は小さな海馬、という意味。
直訳である。レンツァの住民はわかりやすいのが好みなのだとアンナは笑っていた。
社長夫婦と私三人のこじんまりとした、会社。
「ふーっ。やっと終わったぁ」
舟着場に舟を固定し、釣具や道具を片付ける。 それから備え付けのシャワー室へ。
冷たい海水で冷えた体には、温かいシャワーがありがたい。
夏とはいえど海水は冷たい。冷えた体が温まる。海水でバシバシになった髪をシャンプーで洗う。
夏によく使うのはシトロンとエルダーフラワーの混ざったもの。
雑貨店で安い上にシトロンのすっとした柑橘の香りに、エルダーフラワーのやさしい甘さがふわりと溶ける。
夏のシャワーにちょうどいい、お気に入りの香りだ。
あとはは面倒だけどコンディショナーで整える。
シャンプーだけで済ませていたらアンナに怒られたことがある。
紫外線と海水で髪が痛むらしい。
そんなにお手入れしてもなぁ、っていう気持ちが顔に出てしまい、その後さらに叱られた。
同席していたゲイルはいそいそと外に出て行ったのはいまだに許してない。
「(ゲイルさんだって普段、シャンプーしかしてない派閥なの知ってるんだからね)」
水分をある程度拭き取って、肌着のシュミーズの上から、足首までのチュニックワンピースを着て終了。
髪は短いし外は暑いから自然乾燥ですぐ乾く。
「ちゃんとトリートメントしたね」
同じような格好のアンナさんがやってきた。毎度お馴染みのチェック。
「言われてからちゃんとしてますよ」
「そう言いながらあんたはすぐサボるからね」
「だって、コンディショナーってちょっと高くて。あいた」
額を小突かれてしまった。
「全く。せっかく綺麗な珊瑚色の髪なんだから大事におし」
「ただの地味な赤土色だって」
この街の人たちは色の例えがおしゃれで褒め上手。
でもどう見てもリヴィアの髪は地味な赤土色でしかない。
「何言ってんだか。さ、ご飯にしよ」
「はーい」
船着場の近くにはちょっとした掘立小屋みたいなものがあって、簡単な調理と休憩ができるようになっている。
今日は耳の形をしたパスタ、オレッキエッティとミートソース。
「(おいしいの!アンナ手作りの料理は、ほんとうにおいしいの!)」
手抜きの田舎料理だよ、ってアンナは笑うけど、
地元名産の新鮮なトマトで作るこのミートソースは、絶品。 いくらでも食べちゃう。
「あんたまたそればっかり食べて。肉も食べな、肉も」
「ソーセージ!」
他の地域からの交易品でソーセージは肉厚でボリュームもある。
「嬉しそうに食べてくれるねぇ、まったく」
海から帰ってすぐ食べれるように下拵えは済んでいるから、疲れた時にすぐおいしいものが食べれるって幸せ。
リヴィアも飲み物を入れたり食器を出したり少しだけ手伝いはする。
しかし、同じ時間でアンナは素早くセッティングして次から次へと料理の追加が出る。
この町に来て体重が増えたのは絶対アンナの影響。でも止まらない。
「おいしいものは食べれる時に食べ尽くす所存」
「あんたこの前それでお腹いっぱいすぎて動けなくなったろう」
「…ソーセージは2本にします」
「そうしな」
体の中からほくほくとあったまってくる。
「あれ?そういえばゲイルさんは?」
いつもなら、この小屋で一緒に食べているのに。
「あぁ、なんかお客さんらしくてねぇ。先に食べとけって」
言われずとも食べてしまっていた。
「あ、そうそう。食事の後に事務所に来てくれってさ」
「わかりました」
はて、とリヴィアは首を傾げる。
予定なんて聞いていない。
業者さんか、営業さんか。いずれにせよ珍しい。
このあと掃除とか餌の準備があるのだが、事務所に行くことを優先した方が良さそうだ。
いつもと違う。なんとなく、胸の奥がざわついた。




