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ふたつの午後

作者: motimoti

僕愛と君愛を見たあとに思いついて、書いたやつです。当時ははずくて、

ボツにしましたが、おもしろっ!っておもったので載せてみました。

(ちなみに、これを書いたときのアカウント失くしちゃっているので、一部足りないところがあるかもしれません。)

春の放課後、蒼井カナは親友と歩道を歩いていた。

夕日が傾く街角、ふと足元に目を落とすと、小さな石がひとつ転がっていた。

その指先が、石に触れようとした――その一瞬。

世界は静かに、ふたつに分かれた。


Aのカナ ― 石を拾った午後

なんとなく拾ったそれは、ポケットの中で冷たく重かった。

ただの石なのに、握っていると、世界が少し違って見えた。

誰かの表情の奥にある感情が透けて見え、言葉にしない想いが空気の中に染み込んでくる。


それは、リョウに対しても同じだった。

いつも淡々としている彼の声に、わずかな揺れがあることに気づいたのは、あの石を拾った日からだった。


放課後、図書室の窓辺でリョウと交わすたわいない会話。

けれど、彼が本当は「言わなかったこと」を、カナは感じ取ってしまう。


――どうして何も言わないの?

そんな言葉を飲み込むたび、石が少しだけ重くなる気がした。


視界の隅に揺れる、もう一人の自分の影。

それが、石の力なのか、心の奥の迷いなのかは、わからなかった。


Bのカナ ― 石を拾わなかった午後

その瞬間、拾わないと決めた理由はない。

ただ、なんとなく。

けれど、それが世界をわずかにずらした。


次の日から、少しずつ現実が軋み始めた。

母の言葉、ミホの態度、リョウの距離。


LINEは返ってこない。

廊下ですれ違っても目が合わない。


もしかして、彼の中には「別のカナ」がいるのでは――

そう思い始めたのは、夢で見た“知らない自分”の記憶がきっかけだった。


図書室で笑うカナ。

その隣でうつむくリョウ。

自分が知らないはずの感情のシーンが、何度も脳裏をよぎる。


そして気づいた。

――この世界には、私がいない場所がある。


交差する午後

夜、ふたりのカナは、それぞれの部屋でまどろんでいた。

Aのカナは、石をそっと握りながら。

Bのカナは、何も持たない手の中に、記憶だけを抱えて。


そして、夢のなかで、彼女たちは出会う。


窓越しに、お互いを見つけた。

言葉は交わさない。

けれど、ふたりの間にいるのは、リョウだった。


その横顔を、どちらも知っていた。

そして、どちらも、好きだった。


リョウは静かに顔を上げ、ふたりに気づく。

だけど、誰も名を呼ばない。


一瞬だけ、三人の影が重なり、

ふたつの午後は、すぐにまた離れていった。


そして、朝

Aのカナは、石をそっと机に置いた。

重たかった心が、少しだけ軽くなっている気がした。


Bのカナは、空っぽのポケットをなぞった。

その温度を、もう覚えていない。


けれど、どちらも知っている。

確かに一瞬、同じ“好き”を見つめ合ったことを。


そして、ふたりはそれぞれの道を歩き出す。

触れなかった午後。

触れた午後。

どちらにも、同じ春風が吹いている。


(完)

1年前のほうが語彙力あってワロスです。

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