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ミツバチと花籠(2)

 私は、ふりかえるとメリーさんをぎゅっと抱きしめた。

「でも、ありがとう。助けに来てくれて」

彩月(さつき)…… 怖かったね!」

 感動の再会…… と言いつつ、あれ、お腹に当たるこの硬い物の感触は?

「ボルカニック・リピーティング・ピストル。わたしの相棒よ!」

 四一口径、六インチ・バレル、最大十連発。メリーさんご自慢の逸品だ。

「こちらの、これは?」

「バール、のようなもの。正式名称は『力点と支点のある硬質素材を用いた先端に鉤型の部分がある名状しがたい工具』」

「スカートの中にも何か隠してるよね」

「携帯型無反動対戦車擲弾発射器、とその弾」

「えっと、密閉されたところで使えそうな物、持ってないかな……」

「……尿瓶(しびん)

 さすがに殴りたくなった。これならまだ、大人用オムツの方がましだ。

「というのは冗談で。ア・バオア・クー」

「宇宙要塞か!?」

「の、元ネタの方でーす」

「っても、さっぱりわからないのだけど……」

「いわゆる這い寄る混沌系の怪異ね。日本で言う、ぺとぺとさんみたいなものよ」

 運転手が用事をすませたのだろう。トラックが動き出した。

 メリーさんは、前の方で尿瓶――もとい、何かを封じた硝子瓶の封を切る。

「さあ、闇よりいでし禍々しきア・バオア・クーよ、この先にいる者の心を喰らいに行のまだ!」

 ぬふふふ、と笑っている。

 暗闇でなにかもわもわっとした何かがうごめき、壁の向こうへと消えていく。

「それで、どうなるの?」

「運転手が、得体の知れない恐怖に襲われるの。ただでさえやましい事をしてるでしょ。その恐怖がどんどんどんどん増幅されていく」

 これまでの安定走行と違って、速まったり遅くなったりし、車線も頻繁に変えている。

……えっと、どんどん運転が荒くなってるんですけど。

「恐怖に耐えられなくなった運転手は、やがて早くこの世から消え去りたいという思いが高まっていき……」

「は?」

 どん!

 トラックは、何かにぶつかったようだった。

 ぐしゃっ……

 私たちの命を救ってくれたのは、例の段ボール箱だった。


 歪んだ扉から外の三日月が見えていた。

 海の潮の臭いもする。この臭いは、死んだプランクトンが発しているのだと言う。トリメチルアミンやジメチルスルフィド、だっけ。

 同時に、ピーポーピーポーという救急車のサイレンと、警官の笛の音が耳に入る。

「さ、わたしはドロンするね。何せここにはいないはずの人なんだから」

「う、うん。またマンションでね」

 メリーさんは、私の手を握ってから段ボール箱の影がつくる暗闇へと消えていった。

……怪異って便利だなあ

 その時、トラックの扉の隙間から懐中電灯の光が差し込んできた。

「誰かいますか?」

 隙間から、防弾チョッキの「京都府警」の文字が見える。

「います! 助けて下さい。私、霧島彩月(さつき)です。誘拐されたんです!」


 婦警さんに付き添われて、地元の病院で診察を受けた私は、刑事さんから事情聴取を受けた。

 私は、花売りのおばさんに注射されたらしいこと、家電の配達員を装った若者とおばさんはグルだったろうこと、気がついたらトラックの中にいて、メリーさんに電話をしたこと、を話した。

「メリー・ウィンチェスターさん。ええ、その人が通報してくれたんです。そこで、港の手前で検問をしたんです。そしたら、止まっていた車列にトラックがぶつかってあなたが見つけられたという次第です」

 刑事さんは、聴取に使っていたタブレットをスクロールしながら説明した。

「犯人は、どうなりました」

「安心して下さい。別の病院に入院しています」

「組織的な誘拐に思えたのですが……」

「その件については、目下捜査中です」

 刑事さんは、タブレットの蓋を閉じた。

「ご協力、感謝します。どうぞ、お大事になさって下さい」

 刑事は立ち上がると病室を出て行った。


 私は病院にもう一泊した後、帰宅を許された。

 帰りの旅費がきつかったです。


 


 




 

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