京都グルメガイド(3)
今回も唐突にグルメ探検ははじまった。
「アフリカ料理が食べたい!」
メリーさんが、例のガイドフックを開いて主張を始めたのだ。
「アフリカ料理だよ! 未知の世界だよ! これぞミステリーだよ!」
「それはそうだけど。エジプト料理とコートジボアール料理と南アフリカ料理とじゃ、全然違うんじゃないかな」と私。
「えっとね、クスクスというお店のタジン鍋料理が食べたいの…… これで意図が伝わった?」
「うん。つたわった」
ガイドを横から見ると、幕末維新館や森繁のすぐ近くだ。
会長がトイレから戻ってきたので、都合をきいてみる。
「うん、いいんじゃないかな。……今日は澪君は来ていないね」
会長は、金庫のダイヤル錠をあけると謝礼の入った袋を取り出した。
「うん、まだ大丈夫そうだ」
澪さんにメールを入れると、明日の発表の準備に忙しくて行けないとのこと。私たちは夕方を待って四条木屋町に向かった。
そこは、いかにもエスニックを絵に――立体にしたような建物だった。
階段状のギザギザ模様の壁に、突き出した各国の国旗。
私にわかるだけでも、ブラジルとネパールとメキシコの国旗が突き出している。
「トルコにベトナム。韓国の国旗もありまーす」とメリーさん。
「ここの地下の左側の二番目だそうだ」と会長。
ガイドブックを手にしたアマリ会長が、メガネをくいっと上げる。近視なので、こうした方が近い物は見えやすいらしい。
ラスタカラーに彩色された一角の扉を開く。
カランカランと、ヤギか牛のベルが鳴る。
「いらっしゃいまっしー」
民族服姿の黒人の小太りしたおじさん(お兄さん?)が、両手を広げて出迎えてくれた。
ラッキーにも席は全て空いていた。会長の引きの強さは尊敬に値する。
「予約してないけど、大丈夫ですか?」
私は、おそるおそるたずねてみる。
「はいー、ぜんぜんOKよー!」
陽気なアフリカ人だ。
「はい、お水とメニューね。注文が決まったら呼んでねー」
壁は黄土色で土壁を模してある。ところどころにくぼみがあって、飾りが置いてある。水タバコの器具に神像らしい彫刻、巨大な盾と仮面。センスがいい。
「タジン料理~♪ タジン料理~♪」
メリーさんが鼻歌で催促する。アフリカ人のおじさんが身を乗り出す。
「タジン鍋、中身が選べるよー。ウシ、ヒツジ、ニワトリ、ひよこ豆。味も、ピーナッツバター、モロッコの海の味、激辛トマトチーズと各種選べるよ-」
これは、全ての組合せを制覇しようとリピートさせる巧妙な戦略だ!
逡巡する女子二人。
見かねたアマリ会長は、勝手に注文をすませる。
「各味を、おすすめの具材で!」
おそるべし、男子の決断力!
「お客さん、ナイスな注文ね! 大好き! あ、お飲み物はなんにさしゃっすかー」
「ビールってありますか」
「もちろん、アフリカのビールね」
「じゃ、それを三種類」
会長の決断は早い。
「はい! カストール、ザンベジ、ライオン。飲んだことありますか?」
「ないでーす!」
グラスが三個出る。
……私も飲みました。おいしかったです。
そして約十分後、タジン鍋が四つ運ばれてきた。
「大丈夫。一つは店からのサービスね。白身魚のタジン」
おじさんはにっこりした。
おじさんがミトンをした手でタジン鍋の円錐形の蓋を取る。
香辛料の香りがむわっと広がる。これはカルダモンだろうか。ローズマリーかもしれない。
肉の塊をいろんな野菜が取り囲んだり覆ったりしている。二個目はクローブ、コリアンダー、ナツメグ、といった感じだ。
最後の激辛鍋は、蓋をとった直後の目への刺激がすさまじかった。
「この赤いの、ガドガド。激辛。日本人は食べない方がいい。食べても当店は一切関知しない。では、ボナペティー♪」
フランス語で締めくくった漆黒のおじさんは、大仰に一礼すると奥に下がった。
「おいしかったー!」
「最初は食べきれないと思ったけど、意外と胃袋におさまったの」
「これは、アタリだな」
アマリ氏が鍋に残った赤い唐辛子――ガドガドを指でつまみ上げる。
「あ、それは危険なヤツ!」
「ダメなのー!」
二人で制止したが、酔った会長を止めるすべはなく……
「意外と行けるじゃないかー、え? 何これ? ヒック、ヒック!」
アマリ氏は突然しゃっくりを始めた。




