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呪われた団地(3)

「でも、その推理には穴があると思うんです」

 意外にも、反論したのは(みお)さんだった。

「豆腐屋さんは、不定期に走り回っているんですよね。もし、誰かを狙ったのだとしたら、対象が広すぎませんか」

「そう。それこそが犯人の狙いね。ランダムに被害者を生み出すことでこの団地全体の評判を落とす。そして、土地を安く買い占める」

 アマリ氏が反論する。

「しかし、こは国有地だぞ。民間の土地ならともかく、評判を落としたくらいで買い占めるなんてことはできるわけがない。いいか、公務員というのは頑固に慣例を守る生き物なんだ。だから、評判が落ちたくらいで国有地を売り払ったりはしない。せいぜいがずっと塩漬けにするくらいが関の山だ」

「塩? カルタゴ?」

 メリーさんは混乱している。

 私は、ここでようやく発言することにした。

「とにかく。豆腐を一丁、買ってみましょうよ。曜日と場所を変えて買い続け、検査しまくるんです。ここは自治会に動いてもらうしかないですよ。今の会長は……」

「飛鳥井先生です」

「え? さっきの? 文学部の? 教授の?」

「はい」

……すずねさん、早くそれを言ってよ~

「とにかく、メリーさんの提案は伝えなくちゃいけないわね」

「はい!」

 そして、宮城家から飛鳥井自治会長に連絡が行き、作戦は決行されることになった。


 結果は意外に早く出た。

 結束した国家公務員とその奥さんたちは、一時的な豆腐屋の売り上げ倍増を実現し、そして、豆腐の中からは低濃度の幻覚剤が検出された。

 動機は、裁判官の権威失墜だった。

 豆腐屋は、地下鉄の延伸に伴う地下水の枯渇にみまわれ、その補償を求めて裁判を起こしていた。

 その裁判は長くかかったが、結局、豆腐屋の敗訴に終った。豆腐屋は高裁に上告しようとして弁護士に止められた。高裁は、地裁の判決によほどの法的過失がない限り判決をくつがえすことはないからだ。

 一方で、豆腐屋の親戚が幻覚剤の所持と販売でつかまった。どうやら、豆腐屋は幻覚剤の隠し場所に使われていたようなのだ。

 豆腐屋は、それを使って幻覚剤入りの豆腐を作った。恨みをこめて。

 そして、長年つきあいのある巽合同宿舎で売りまくった。

 巧妙なのは、幻覚剤の入っていない豆腐も同時に作っていたことだ。バンには異なる水槽に両方を載せる。豆腐は、豆腐屋自身がすくって客の鍋に入れる。ここで、裁判所関係者には幻覚剤入りの豆腐を優先して渡す。奥さんたちの会話で、誰がどういう職種の家なのかを把握していたらしい。

 裁判官の不祥事は外に漏らされることはない。裁判官や事務員たちは、たとえ幻覚剤の使用をしたとバレても、僻地への配置転換や療養の名目で司法の表舞台から消え去る。そして、たまに、というかけっこうな頻度で、裁判所とは無関係な家庭にも幻覚剤入りの豆腐が行く。そのせいで、幽霊騒動が広まった。

……という話をすずねさんの自宅で事後報告として聞いた。

「で。メリーさん、それは何?」

 メリーさんは、持参した箱を「パンパンパーン!」と言いながら開いた。

「ここに来るときにケーキの移動販売が来ていたの。おいしそうだから、みんなの分も買ってきたよ!」

「……あ、ありがとう」

「多分、大丈夫よね」

 そう言いつつ手はあまり伸びない。

「おいしいよ! 世界がサイケデリックに光り輝くおいしさだよ!」

 一口かじったメリーさんが妙なことを口走った。


……普通においしいケーキでした。


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