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6 報告書という手紙攻勢とささやかな政治的工作

 村に戻ったゲールは即座に筆をとった。

 報告書をまとめ、この地域を治める領主に伝える。

 また、実家の子爵家にも。

 更には子爵家を通してより上位の貴族、子爵家すらも支配する家にも。

 果ては王家・国家にも事の次第を伝えてもらう。

 その為にも、実家やその上にいる貴族の協力が必要になる。



 これらにあてる書状を書いていかねばならない。

 何はなくてもこの地を治める領主には。

 そして、実家には。

 最低でもこれらが現状を理解してくれないと話にならない。

 ただのゴブリンが相手ではないと知ってもらわねば、今後の対策や対応など出来やしない。



 出来るならばもっと上位の貴族に。

 そして王家にも分かってもらいたいところだ。

 50匹のゴブリンだけが問題ではないと。

 その背後により大きな脅威がある可能性があると。

 もし、それらがいれば、国家存亡の危機になりうる。



「とはいえ」

 さすがにそこまで話を通すのは無理だろう。

 今の段階ではあくまで推測でしかないのだ。

 それも、観察力に長けた従士サイトの予想でしかない。

 確たる証拠があるわけではない。



 しかも、言ってしまえばサイトは小者である。

 日本的に言えば、士分にはなるだろうが、地位は高くはない。

 立場としては、正規の兵士にはなる足軽ですらない。

 身の回りの世話係の方が近い。

 戦場にもついていくのだから、多少は武術武芸は身につけては居てもだ。

 どうしても軽く見られてしまう立場の者だ。



 そんな人間の言葉を受け入れる者がどこにいるというのか?

 地位や身分が言葉の重みや真贋に直結してる社会である。

 まず、発言者の出身で話を聞くかどうかが決まってしまう。

 まあ、これにも理由はある。



 ある程度の知識や教育は一定以上の身分の者にしかない。

 身分が教養と直結してるのだ。

 そうでない者達は、迷信やデタラメを真実と思ってる事がある。

 また、

「嘘をつけばそれだけ信を損なう」

という基本的な事すら知らない者が多い。

 それどころ、

「嘘で騙して利益をぶんどった者は賢い」

という考えがまかり通ってる。

 正直者が馬鹿を見るのだ。



 教養がない者達とは、こういう嘘八百を駆使するくせ者揃い。

 これがこの社会における常識である。

 そういう風聞が流れてるのではなく、実際にこの通りなのだ。

 信用されるわけがない。



 だからこそ、ある程度の教養、ひいては道徳や倫理を備えてる一定以上の身分の者に信がある。

 サイトのような従士だと、ある程度は信じても良いが、まず疑ってかかられてしまう。

 なにせ従士は貴族だけではなく、民衆から取り立てられた者もいる。

 これが従士という身分全体の信用を下げてしまっている。



 付き合いの長いゲールだからこそ、サイトを信用している。

 彼の発言に嘘はないと分かる。

 だが、それを他の者達にも求めるのは無理というもの。

 重要な立場についてる者で、従士サイトを知る者はいないのだ。

 そんな者達に、「あいつは信用できる」といっても首をかしげるだけだ。



 なので、この報告がまともに扱われるのはせいぜいゲールの実家である子爵家まで。

 それ以外にはまず通らないだろう。

 報告書も、子爵家より上に通るかどうか。

 まず受け取ってもらえない可能性の方が高い。

 門前払いよりもっと前の段階で爪弾きになる。

 だが、それも覚悟で報告書をしたためる。

 万が一より小さな確率で受け取られるかもしれないからだ。



 駄目でもともとなのだ。

 上手くいけばもうけもの。

 そのくらいの気楽さ気軽さでやっている。

 それに、「あの時、念のために書状を出しました」という実績も欲しい。

 首をつなぐためにも。



 もし、本当にゴブリンの背後に巨大な勢力がいたら。

 それが押しよせてきたら。

 ゴブリン達を見てそれに気付かなかったのか、とさわぐ者が絶対に出てくる。

 人をおとしめのを楽しみにしてる連中がだ。

 そんな連中を牽制するための処置だ。

「いや、あの時ちゃんと報告は出してましたよ」と。

 それを受け取らなかったのは、そちらではないか。

 そう言うための言い分けを事前に作っておく。

 貴族社会で生まれ育ったゲールだからこそ、この手の工作の重要性をよく理解していた。



 また、今後につなげるための布石にしておきたかった。

 本当にゴブリンの背後に何かがいたら。

 その場合、絶対に調査が必要になる。

 ゴブリン達の来た方面への。

 それを見越して、事前に巨大な敵の存在を感じさせておく。

 いるかどうかは分からない。

 だが、もしかして…………そう警戒してくれれば良い。



 そうなれば、多少は対応を考えるだろう。

 実際に確かめにいかねばならなくなる。

 ゲールとしてはそうなって欲しかった。



 何も無いならそれで良い。

 調べたけど何もありませんでした、ならば問題は無い。

 なにせ、脅威がないのだから。

 安全を確保出来る、平和を確認した事になる。



 だが、もし万が一なにかがいたら。

 急ぎ警戒をして対策を考えねばならない。

 面倒ではあるが、備えが無いよりはマシだ。

 何の準備もなく攻めこまれるのと、脅威を意識して対策をしてるのとでは雲泥の差がある。



 その為の布石を打っておきたかった。

 無駄になるかもしれないが、少しでも可能性を作っておきたかった。

 その第一歩として、報告書である。

 効果は期待出来ないが、出したという実績は欲しい。

 これがどれだけ役立つか分からないが、何もないのとでは大きな差になる。

 なってほしい、とゲールは望んでいる。



 そうでなくても報告は必要になる。

 そのついでに、という思惑であれこれ余計な事をしている。

 端から見れば、何を馬鹿な事を、となるだろう。

 だが、ゲールは信じていた。

 サイトの観察力を。

 あるかもしれない巨大な危機を。



 だからこそ、無駄に終わるだろう工作を行っていた。

 もし万が一、懸念が本当になった場合に備えて。

「何もなければいいが……」

 そうはならんだろうとも思っていた。

 確信すらしている。

 それくらいゲールは信じていた。

 己の従士の才能を、サイトの持ってる観察眼を。



 後にこの時の手紙や報告書が契機になり。

 襲ってきたゴブリンとその他の手勢。

 これらがどこから来たのかの調査へと繋がる。

 ゲールの工作は実を結んだのだ。



 だが、しかし。

 そうして確認された巨大な勢力。

 その調査のための旅。

 これをゲールが担う事になる。

 言い出しっぺ故に当然ではある。



「やれやれ」

 その時、ゲールはうんざりしながらぼやく事になる。

「こうなるんなら、あんな報告するんじゃなかった」

 やむなしとは思うが、納得はしきれなかった。

 実際、それからゲールは苦労を重ねる事になる。



 だが、この冒険が後に巷間にひろまり、大きな名声へと繋がる。

 危険な敵地に分け入り、様々な脅威を倒して道を切り開く。

 その様は英雄物語が現実になったと人々をわかせる事になる。

 騎士ゲールの物語は、こうして始まったといえる。

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