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56 足取りは重く、でも気持ちは楽にしていこう

 他に避難民に続いて洞窟に入ったゲール。

 シーンの言っていたとおり、ある程度進むと内部は拡がっていた。

 そこまでいけば、流れる水にさらされない足場もある。

 そこに上がって、ゲール達は先へと進んでいった。



 ただ、山を貫くほどの長さのある洞窟である。

 一日で通り抜けられるわけもない。

 比較的平坦ではあるが、上り下りもある。

 慣れていても二日はかかるというので、脱出はそう簡単でもない。



 もっとも、山を登ってこえれば数日はかかる。

 それに比べれば楽なものだった。



 幸いだったのは意外に明るい事。

 洞窟といっても、全てが土の中に埋もれてるわけではない。

 割と色々なところに地上に剥き出しの場所がある。

 そこから光りが差し込み、思った以上に明るい。

 おかげで明かりはさほど必要なかった。



 もう一つありがたいのは、危険な生物がいない事だ。

 山の東川にいたような、肉食のカエルや襲いかかるトビウオもどき。

 こういった怪物がいない。

 どういうわけかは分からないが、山の中のこういった場所では繁殖してないようだった。



 そんな洞窟の中を進み、ゲール達は山の西側に到着した。

 まだここから森を抜けねばならないが、見知った場所の近くだ。

 少しだけ安心をおぼえる。



「あ、来た来た」

 洞窟から出ると、シーンが迎えたくれた。

 彼女によれば、先に到着していた隠れ里の民は森で受けいれてるとの事。

 簡易的なものだが、天津湯を凌ぐ小屋も作ってる最中だとか。

 だが、このままでは食料の問題が出てくる。

 さすがに森で全員分を確保するのは無理との事。



「だから、ゲールの家の方でどうにか出来ないかな」

「父上に掛け合ってみる」

 もとよりどうにかするつもりだったので、ゲールは引き受ける。

 ただし確約は出来ないとあらためて伝える。



「うちもそんなに余裕がないから」

「まあ、それはしょうがないよ」

 無理強いも出来ないのでシーンも強くは言えない。

「でも、出来るだけ協力して」

「出来るだけの事はする」

 確約できないのが申し訳なく思いながら、ゲールは曖昧な返事に終始する。



「ただ、出来れば森の民の代表者もついてきてくれ。

 俺だけじゃどうにもならん」

「もちろん。

 里長が行くって言ってるから」

「そいつは助かる」

 代表者が直々に出向くなら話も通しやすくなる。



 こうして森に到着したゲールは森の民の代表者達と共に帰還をする。

 ゴブリン退治から始まった旅はひとまずの終わりを告げる。

 思ってもいなかった程大きな問題を明らかにして。

 山の東にあった、妖精共の国。

 そこで虐げられてる人類。

 そして、妖精側についた人類。

 判明したこれらだけでもかなりの大きな問題だ。

 今後どう対応するのかを決めねばならない。



 こいつらが山を越えてきたら。

 とんでもない事になるだろう。

 前回のゴブリンどころの騒ぎではなくなる。

 放置は出来ない。



 かといってこちらから打って出るのも難しい。

 敵は巨大だ。

 簡単に倒せるわけではない。



 まがりなりにも国といえるような集団・社会を作りあげている。

 これと戦うとなれば戦争になる。

 国が総力をあげねばならない。

 そんな余裕があるのかと考えると悩ましい。

 攻めこまれれば迎撃するしかないだろうが。

 こちらから積極的に攻めこむ余裕は無いだろう。



 だが、放置しておけば敵が攻め込んでくる。

 その可能性は高い。

 実際、ゴブリンの集団がやってきた。

 あれが意図的に送り込まれた軍勢なら、今後山の東側の連中は侵略を開始する可能性がある。

 その先遣隊とみるべきだろう、前回やってきたゴブリン共は。



 そうなる前に攻めこみたい。

 敵に損害を与えたい。

 ゲール達が生き残り、安全に暮らしていく為にも。

 でなければ、山の東側の人類の多くのように悲惨な境遇におとされる事になる。

 例外的に人を虐げてる側にまわった人類もいるが。

 全員がそうなれるわけもないだろう。



 まともな生活を保ちたいなら、敵を倒すしか無い。

 平和的な交渉も考えづらい。

 やるなら、相手の殲滅。

 でなければ、山の東側の国がそうなったように、ゲール達の国も滅ぼされるだろう。



「大変な事になったな……」

 森の中を歩いてる途中、ゲールは先の事を憂い居てため息を吐いた。

 予想通りではある。

 山の向こうにはゴブリンに武器を渡すような組織がある。

 これはものの見事に当たってしまった。

 だからこそその厄介さにも思い至ってしまう。



 この問題をどう解決するのか?

 今は全く答えが出せない。



「なーに難しい顔してんの」

 悩むゲールに気楽な声がかかる。

 どこで手に入れたのか、果物をかじってるシーンは暢気な表情をしてる。

「悩んだってどうにもならないよ。

 だから、無駄な気苦労な捨てなって」

「……お前は気楽だな」

「まあね。

 どうにもならない事に悩んでも辛いだけだから」

 気楽な口調ながら悟りきったような事を言う。

 そんな言葉に少しだけ反発をおぼえるも。

「……それもそうか」

 間違ってもいないと思い直す。



 確かにその通りだ。

 悩んでも迷っても答えが出るわけではない。

 考えを止めるわけにはいかないにしてもだ。

 何も苦悩を抱えながらである必要は無い。

 そんな状態でよい答えが出るわけもない。



 あえて悩みを忘れる。

 辛い現状を無視する。

 そして、やりたい事と望む結果を思い浮かべる。

 そこにどうやって辿り着くかを考える。

 案外それでよいのではないかと思った。

 少なくとも、悩んで苦しんでストレスを抱えるよりはよい。



「天気はボクらでどうにかなるもんじゃないんだから」

 隣でシーンは言葉を続ける。

「だから天気に合わせてボクらが動かないと。

 そうすれば、まあまあ何とかなるもんだから」

「まあな」

 その通りだった。

 状況はどうしようもない。

 だから自分たちが対応するしかない。

 その方法が分からないから悩むのだが。



 でも、無理をしてもしょうがない。

 天気を動かせないように。

 そうではなく、自分に出来る事をやっていくしかないのだ。

 それで案外上手くいくのも確かなのだから。



「何とかするか」

 山の向こうの敵の事。

 今すぐどうすればいいのかは分からない。

 だが、出来る事を見つけて実行しよう。

 そう思うとゲールの気分は幾らか晴れた。



「ところで」

 それはそうと、隣のシーンに目を向ける。

「お前、本当にうちに来るのか?」

「もちろん。

 何度も言ってるでしょ。

 こっちの人達がどうやって生活してるのか気になるし」

 シーンはとにかくお気楽だ。

「生まれてから森の中ばっかりだったから。

 興味あるんだよね、人が集まってる場所ってのが」

「物見遊山のつもりか……」

「まあね。

 折角の機会だから有効活用しないと」

「森の民の代表をなんだと思ってるんだよ」

 ゲールは呆れるしかない。



 森の民の代表団。

 これらの中にシーンも何故か入っていた。

 腕の確かな祈祷師だからとか。

 まあ、そういう人間も必要なのだろうとはゲールも思うが。

 どちらかというと、「若い奴に色々見せてやりたい」という森の民代表の言葉の方が大きな理由に思えた。

 確かに世間が狭くならないように広い世界を若者は見るべきかも知れない。

 しかし、シーン本人は実にお気楽極楽な調子だった。



「お前は緊張とか無いのか?」

「無いよ」

 あっさり答えるシーン。

「だって面倒な仕事は大人がするし。

 ボクに出番なんてあるわけないじゃん」

 純朴そうに見えて、しっかり大人のあれこれを見抜いてる。

 彼女の言うとおり、政治的な交渉は森の民の大人達がするもの。

 シーンの出番はほとんど無いだろう。

 それこそ、物見遊山が目的で連れてきてるようなものだ。

 将来を担う若い世代に世間を見せるという目的があってもだ。



 だからこそ、今は責任のない立場で色々見てまわらせる。

 それが森の民の目的なのだろう。

 若いながらも優秀な祈祷師であるシーンはうってつけだ。

 また、ゲールとの繋がりを利用しようとしてるのかもしれない。

 共に旅をした仲間ならば、そう悪い扱いもしないだろうと。

 交渉を有利に運ぶ材料になるかもしれないし。

 ──そういう思惑があってもおかしくはない。



 それを無下にする気もゲールにはない。

 ゲールからしても森の民の協力は必要だ。

 山の東側にいた隠れ里の者達も。

 これらの言い分もある程度は受け容れねばならない。

 それが妥協できる範囲内であって欲しいが。



 そんな政治的な思惑がどうしても絡むが。

 今はシーンの言うとおりに気楽にやっていこうと思った。

 悩んでもどうにもならないのだから。



「でも、うちも田舎だからな。

 遊べるような所はないぞ」

「えー !」



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 というわけで、一旦ここで停止します。

 書き溜めがなくなったので。


 続きがたまったらまた投稿するので、それまで気長に待ってもらえれば。



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 見本は活動報告にもあげてるので、そちらをまずは見てもらえれば


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 そんで最後にもう一度。

 この話が────気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を。


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 投げ銭・チップを弾んでくれるとありがたい。
登録が必要なので、手間だとは思うが。

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お話も少しだけ置いてある。
手にとってもらえるとありがたい。


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