54 追跡の断念と、跳ねっ返りの動き
追いかけるオーガ兵と人間魔術兵。
これらを率いる指揮官とその側近。
彼等は先頭を走るゲールを追いかける。
快速号を走らせるゲールは風の誘導を受けていく。
望んだ場所に向かうために。
土地勘の無い場所だ、望んだところに到着するには案内が必要になる。
その案内を風に任せている。
祈祷師の願いを聞きつけた風は、その望みの通りにゲールを導く。
進むのは敵を迎撃する場所。
わずかな仕掛けを施したそこが決戦の地になる。
果たして上手くいくのかどうか。
不安はある、不安しかない。
だが、今はそこで相手をどうにかするしかなかった。
幸いにも残ったオーガ兵達は負傷をしている。
戦えないほどの損害を負ったのはわずかだが。
それ以外にも出血を強いられた者は多い。
これが少しでも有利に働くよう願うばかりだ。
そんなゲールの思惑など知るよしもなく。
オーガ兵達はゲールを追いかける。
頭に血の上った彼等に冷静な判断力などない。
中には例外もいたが。
それらも目の前にいる敵に集中してしまっている。
他の事を考える余裕などなかった。
ただ、さすがに指揮官は違う。
「おかしい」
走りながら違和感を感じる。
オーガ指揮官は何かがおかしいと思っていた。
それが何なのかは分からなかったが。
だが、彼はバカではなかった。
それに過去の経験を大事にする性格だった。
過去においてもこうした思いを抱く事があった。
それは良い事もあれば悪い事もあった。
だが、えてして浮かんだ思いに従えば、良い方向に向かっていた。
そんな思いが今浮かんできている。
それは直観というものだった。
「止まれ!」
大声で指示を出す。
「止まれ、止まるんだ!」
その声に何匹かのオーガが止まった。
勢い余って何歩か進んだ者達も立ち止まる。
それらはオーガ指揮官を振り返る。
「何かがおかしい」
オーガ指揮官は配下に伝える。
己の考えを。
「敵の動きが妙だ。
おそらく何かがある。
これ以上の追跡、深追いは危険だ」
言いながら悟った。
自分たちは誘導を受けてると。
誘い込まれている、危険な場所へと。
襲われて冷静さを失い分からなくなっていたが。
敵の動きは自分たちオーガ兵をどこかに誘い込むものだと。
「敵は我々を引き摺りまわしてる。
最初からな。
おそらく今もどこかに誘導してるのだろう。
この誘いにのるわけにはいかん」
ついていけば、必ず損害を負う。
それは避けねばならなかった。
「あの騎兵はこの場限りで放置する。
それよりも、本来の任務を優先する」
言われてオーガ兵は「あっ!」と驚いた。
あらわれた敵への対処で忘れていたが。
彼等がここに来たのは襲ってきた敵を殲滅するためではない
山で起こった火事。
その原因の調査だ。
そして、その原因になった存在を特定する事。
それが出来ないまでも、証拠や手がかりを手に入れること。
おそらくそこに人が絡んではいるだろう。
かつて逃げ出した人類の末裔が潜んでるかもしれない。
もしそうであるならば、居場所を特定して殲滅する。
殲滅出来ないまでも、隠れ家を特定しておく。
敵を見つけたら襲いかかる強行偵察。
それがオーガ兵達の任務だ。
つきつめれば、偵察と調査が主任務だ。
襲ってきた敵を追いかける事ではない。
そんな事にうつつを抜かせば、本来の任務を踏みにじる事になる。
実際、逃げる騎兵を追いかけて山の中を走り回ってしまった。
今どこにいるのかも定かではなくなっている。
このまま追いかけても山の中で迷うだけ。
追跡する理由は無い。
オーガ兵達がするべきだったのは、目的地に向かうこと。
山火事が起こった場所を目指す事。
その上で、周辺に何か痕跡がないか探すこと。
襲ってくる敵は鬱陶しいが、それはその都度撃退するしかない。
受けた損害は甚大ではあるが。
その報復に熱を入れるべきではなかった。
可能であるなら、攻撃してきた奴等に身の程を教えてやるべきでもあるが。
冷静になったオーガ兵は指揮官の言い分を聞いて頭を冷やした。
そして、指揮官の言うとおりに道を戻っていく。
本来の目的地である山火事の発生場所を目指す。
敵の攻撃を警戒しながら。
その動きはゲールにも伝わる。
風がとらえた敵の動きは、祈祷師からゲール達にもたらされる。
それを聞いてゲールは胸をなでおろす。
オーガが思ったより冷静で助かった。
もしあのまま追いかけてきたら、数十匹のオーガを相手にする事になった。
そうなったら、ゲール達は壊滅していただろう。
幾らかのオーガを道連れにしてもだ。
「助かったな」
相手の判断のおかげで生き延びる事が出来た。
それに、時間も稼げた。
このままいけば避難民の最後尾も洞窟に入る事が出来る。
被害者を出さずに全員の避難を完了させられる。
目的は十分に果たした。
あとは殿をつとめるゲール達が脱出するだけだ。
さすがにまだ逃げるわけにはいかない。
オーガ兵がそこにいる以上、避難が完全に終わるまではこの場に留まるしかない。
相手が考えを変えて襲いかかってくるかもしれないのだから。
再びゲール達の緊張と警戒は続く。
そんなゲールの読み通りというか。
オーガ兵達の中から離反者が出る。
ゲールへの追跡中止に納得がいかない連中だ。
それらは互いに目配せしあいながら少しずつ隊列から離れる。
一匹、また一匹と。
それを見逃すオーガ兵もいる。
離れていく者達の思惑を察し、影ながら賛同する者達だ。
こういった協力者のおかげで、血気にはやるオーガ兵達は隊列から離れてゲールを追いかけた。
その数、10匹。
これに指揮官達が気付く事はなかった。
トビウオもどきで何匹かが離脱したからだ。
その為、正確な人数も把握出来てない。
進軍の途中で何匹かが抜けてもすぐに気付く事は出来なかった。
そして、飛びだした10匹はゲールが逃げた後を追いかける。
逃げ出した方向を思い出し、かすかな足跡を見つけて。
この動きは風によってすぐに把握され、ゲールに伝わった。
「こう来るか」
敵の隊列から分かれた小数。
これらが指揮官の指示によるものか、勝手な行動なのかは分からない。
だが、終わったと思っていた敵の攻撃が、形を変えて続いた事にうんざりする。
数は減ったとはいえ、それでもオーガが10匹。
強敵である事に変わりは無い。
そんな連中を相手に、今の兵力で勝てるかどうか。
幸い、敵は仕掛けをした場所に向かってきている。
そこでなら少しは有利に戦える。
その利点に賭けて、ゲールは迎撃に出向く事にした。
ここで食い止めておかねば、脱出口が露見する可能性もある。
それは避けねばならない。
あともう少しの間だけは。
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ファンティアにて新しい話を出してる。
時代劇っぽい何か
見本は活動報告にもあげてるので、そちらをまずは見てもらえれば
↓
時代劇風味のお話「 一子相伝 」の販売開始、および見本
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