5 観察、推測、行動の予想と予測
幸い、この日はゴブリンの襲撃はなかった。
相手もまだすぐに動くつもりはないようだった。
だが、いつまでも大人しくしてるわけもない。
集結してるゴブリンのする事は一つ。
人里に押し入り、暴行・略奪の限りをつくす。
殺害・強姦など当たり前だ
特に残虐な虐待、必要のない拷問を加えて人をいたぶる殺すのを愉しみにしている。
そんな連中なので放置するわけにはいかない。
見つけ次第殲滅しておかねばならない。
そんなゴブリンが村に近付いた時のための対策を提案し。
少しでも村の防御力をあげるよう尽くしていく。
また、老人達に子供を連れて逃げるよう手はずをととのえていく。
これと同時にゴブリンの様子を探りにいく。
今の状態を確かめる必要がある。
何かあった場合、すぐに村に報せるためにも調べておく必要がある。
ゲールはこちらの方に参加していく。
狩人を道案内とした調査隊は小数で出発する。
ゲールと従士、そして森になれた村人も共に。
今回の目的は、ゴブリンの集団に指導者的な存在がいるかどうかの確認。
ゴブリンの足跡などからどのくらいを行動範囲にしてるのかを探り。
見つからないように見張りが出来るようにして、動きがあれば即座に村に連絡がいくようにする。
これらを出来るだけこなそうとしている。
さすがに襲撃をして殲滅、などとは考えない。
村人全員で押しよせるならともかく。
今回の調査ではわずかな人数しか行動しない。
何十匹ものゴブリンと戦えるわけがない。
そんな事をするほどゲールは無謀ではない。
欲しいのは情報である。
それ以外はついでに手に入れば良い。
無理して手に入れるものではない。
危険な博打をして全てを失うわけにはいかない。
可能性に賭けるには今ではない。
そんなゲール達は、狩人に従ってゴブリンの所へと向かっていく。
出来るだけ音を立てず、姿を見せず。
ゴブリンの巡回路を避けるように動いていく。
森を庭としてる狩人のおかげでこれは難なく出来た。
普通なら通らないような所も通り、ゴブリンに見つからないように動いていく。
そうしてゴブリンが居着いてる場所の近くまでやってくる。
といっても、よほど目が良くなければ分からないくらいには遠いが。
「どうだ、大丈夫か?」
「これくらい木が開けてれば」
腰を落ち着けたゲールは、伴ってきた従士に尋ねる。
心地よい返事をする従士は、手にした望遠鏡を使ってゴブリンを覗き込む。
「分かりやすい行動してますね。
中心にいるのもすぐ見付けられるかと」
「なら、頼む」
そう言ってゲールは従士にあとを任せた。
この従士、いささか特殊な役目を担っている。
騎士に同行しての戦闘や、騎士の身の回りの世話の為にいるのではない。
彼の身につけてるある種の能力でもってゲールに重用されている。
その能力を今、存分に発揮しようとしてた。
その能力とは、分析。
相手の行動や言動から、本心を見抜く。
その正確さはおどろくほど高い。
とはいえ、魔術や超能力の類いではない。
並外れた観察力によるものだ。
この観察力によって相手の行動を読んでいく。
誰が指揮官で、どういう行動をしていくのかを掴んでいく。
常に正解というわけにはさすがにいかないが。
かなり高い確率で重要な部分を見抜いていく。
今回もこの能力でゴブリンの動きを見抜いていく。
どいつが中心にいるのかはすぐに分かった。
そして、集団の行動から何が目的なのかも予想していく。
更に重要な可能性にいきあたる。
「こいつら、これで全部ってわけじゃなさそうです」
「……というと?」
「おそらく、こいつら以外にも同じように行動してる連中がいるはずです。
こいつらはその別働隊。
それか、先遣隊なのかと」
「後ろに本隊がいるって事か」
「おそらく」
厄介な事になった。
戦争として見れば妥当な行動だ。
本隊より先に、小数の偵察隊を出す。
情報を持ち帰り、今後の展開に役立てる。
また、相手が小数ならば攻撃を加えて勝機を得るという強行偵察も行う。
戦争においては常套手段である。
だが、怪物や魔物たる妖精が行うとなれば話は変わってくる。
通常、こんな事をしてくる連中ではない。
怪物は小規模の集団で行動し、互いに連携するようなものではない。
気が強いというか荒い連中だ。
独立独歩といえば聞こえは良いが、ようは誰かの風下につくのを嫌う我の強い連中だ。
共同作業など出来るわけがない。
なので、だいたいが10匹未満の小さな集団で行動する。
大きくても、今回のような50匹になるかどうかという集団が出てくる程度だ。
それが、これ以上に大きな集団がいるという。
こうなると、もはや軍勢と言ってよい。
それだけの規模の集団など、伝説や伝承、歴史の中にしか存在しない。
「まさか」
「おそらくは」
その可能性に気付いたゲール達は顔を強ばらせていく。
「引き上げるぞ」
ゲールは即断した。
出来ればもっと情報を確保したい。
より長く深く観察させて、何かを更に掴みたい。
だが、そんな事をしてる場合でもない。
急ぎ情報を持ち帰り、報告を届けねばならない。
近隣の領主にではない。
ゲールの生家である子爵家でもない。
それよりもっと大きい、国に、王家に。
事はそれくらい重要な問題になりうる。
「情報の方はどうだ?」
引き上げる前に確認する。
目の前の連中を観察していても、もう情報は得られないのか。
もう少し見てれば何かが得られるのか。
時間は惜しいが、情報も欲しい。
そこで観察者に尋ねる。
「あと少し見てれば何か分かるなら、もう少しここに残るが」
「そうですね……」
望遠鏡を覗きながら、観察者は答える。
「特にはないですかね。
出来れば、あいつらに指示を出してる奴の姿とか見てみたかったですけど」
それはここに来なければ分からない。
これは相手の出方次第になるので、ゲール達の努力でどうにかなるものではない。
やって来るまで待たねばならない。
その時間がない。
「なら、引き上げるぞ」
ゆっくり、静かにその場を去る。
様子を伺うために二人を残すが、それ以外は一次的に撤退をする。
なお、帰る途中に連絡用の鳴子などを設置していく。
ゴブリンに動きがあった場合、すぐに報せられるようにだ。
こちらは狩人に設置してもらう。
罠の仕掛けで慣れてるので適任だ。
こういった仕掛けをしつつ、ゲールは村へと帰還する。
「帰ったら報告書を書く。
お前も付き合ってもらうぞ、サイト」
「はい」
観察力に長けた従士サイトは早足で付き添いながら頷いた。
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【よぎそーとのネグラ 】
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