44 区切りを付けて帰還を目指す、だがしかし
話を聞いて山を越えた東側の状況は分かった
どれほど悲惨な状況なのかも。
実際に目で見たわけではないが。
ゲールの目的である調査はある程度達成されたと言える。
これ以上が知りたいなら、山を下りて怪物がはびこる妖精の国に潜入する事になる。
さすがにそこまでの余裕はない。
まず、食料などが限界にきている。
途中、森からの恩恵で幾らかの果樹や木の実などを得る事は出来たが。
それだけでは食料が足りない。
この先に行くなら、より多くの食料などを持ち込む必要がある。
食料だけではない。
人も道具も必要だ。
この先に進むとなると、危険が伴う。
そこかしこに怪物や魔物がいるのだ。
そんな所に突入するとなれば、高度な人材が求められる。
様々な道具や器具も。
今のゲール達の手持ちだけでは心許ない。
そもそも調査を続けるのかどうか。
ここまで情報が集まればそれで良し、とするならばここで引き返すべきである。
まだ全然情報が足りないというなら、更に敵地に踏みこむ事になる。
だが、どちらにせよ一旦は帰って報告しなければならない。
手紙で済ます事が出来れば良かったのだろうが。 残念ながら、手紙だけでは伝えるべき事をおさめきれない。
そもそも、山を越えて森を抜けて手紙を届ける手段がない。
一緒に来た誰かに頼むとしても、誰に任せるべきか?
第一、報告はゲールの口からせねばならない。
この一行の隊長なのだから。
騎士という身分でもある。
この世界、身分や地位がものをいう。
どれほど優秀でも一般人出身の雑兵では相手にされない。
ホッド家はそこまで堅苦しいわけではないけど。
やはり、ゲールが顔を出す必要がある。
(このあたりが頃合いか)
先に進めば報告が遅れる。
一度帰るならこのあたりが限界だろう。
そう考えてゲールは、一度引き返す事にした。
(森の民の事も伝えたいし)
山を越えて逃げてきた者達の子孫。
シーンの同胞の事も伝えておきたかった。
山に近い森は、ほぼ手つかずの土地である。
人里から遠く離れてるし、標高も高い。
出向くだけで一苦労だ。
山の向こうとの交易があるわけでもなく、好んで住み着く者もいない。
このため、今までほとんど誰も近付かなかった。
おかげで逃げてきて定住した森の民の事を誰も知らなかった。
彼等をどうするかを決める為にも、一度戻って報告するべきだろう。
今後どのように扱うかは分からないが。
出来ればよりよい形で保護。
決して奴隷や棄民のように扱わないように。
国民・臣民として認める事は出来ないにしてもだ。
友好的な民族としての扱えるようにゲールは進言したかった。
これは、森の民が他国の人間だからというのがある。
外国人を簡単に自国に引き込むわけにはいかない。
様々な問題が発生している。
これは山の西側にある各国で起こってる問題だ。
大小様々な摩擦や衝突、軋轢は避けがたい。
この為、森の民はあくまで外国人として扱い。
その上で、穏便な対応するのが適切だろう。
これには、一応は貴族に身を置くゲールが進言をしておく必要があった。
ここでも身分や地位が無いとどうにもならない。
色々諸々を片づけるためにも帰還は必須だ。
しなくて済むなら良いのだが。
そうも言ってられない状況である。
何より、旅だってからそれなりの月日が経っている。
森に入って山を越えてこの隠れ里までやってきた。
これだけで一か月は経っている。
戻るとなると同じだけの時間がかかる。
あわせて二か月。
何の報告もないのもまずいだろう。
「色々話を聞かせてくれてありがとう」
村長から話を聞き終えたゲールはそう言って腰をあげた。
「我々は一度帰ってここの状況を報告する。
それからどうなるかは分からないが。
こちらの状況、決して見過ごすわけにはいかないとは考えてる。
何らかの対応は考えておきたい」
実際に何をする、とは言えないが。
あくまでゲールがこうしたいという希望という形で伝える。
何も約束出来ないのはつらいが。
下手に取り決めを作ってしまうと、それこそ問題になってしまう。
そんなゲールに、
「分かりました」
と村長も頷く。
「ただ、次があるかは分からんがな」
「……というと?」
「来てるんですよ、奴等が」
同席していた祈祷師が口を開く。
「風が伝えてきてるんです。
邪悪な者達が迫ってると」
ゲールと仲間の顔が強ばった。
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