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43 妖精と共にある人間達

 オーガが人間を生け贄にして。

 巨大虫が人間を卵の苗床にして。

 ゴブリン達が人間を奴隷として扱っている。

 これらも不愉快極まりない。

 だが、ある意味理解も出来る。



 人間と妖精、相容れない存在だ。

 互いに殺し合うように作られてる、そうとしか言えない間柄である。

 ならばこそ、相手に対してどこまでも残虐になれる。

 ならねばならないとも言う、生き残りたいならば。



 だが、これらはあくまで人間と他種族との事だ。

 異種族同士、どうしても対立が避けられない。

 しかし、かつて様子を見にいった者達が見たのはこれだけではない。

 人間を虐げてる者の中にはそれもいた。



「同じ人間がな」

 妖精や怪物・魔物といった者達の中に。

 虐げられてるのと同じ人類がいた。

 他の種族ではなく、紛う事なき人間が。



「最初見た時は信じられなかったらしい」

 何度も見間違いかと思った。

 人間に似た別の種族なのではないかと。

 だが、観察する限りでは、それらは間違いなく人間だったという。

「人間が共にあったのだ。

 怪物や魔物、妖精と共に」

 それだけでも驚くべき事だ。

 だが、おぞましいのはそこではない。

「そんな人間が笑ってたのだ。

 虐げられてる同族を見て」



 奴隷として使役されてる者達を。

 虫の孵化を助ける苗床にされてるのを。

 命を生け贄にされてるのを。

 他の怪物や魔物、妖精と共に、それらを見て笑ってたという。

「心の底から楽しんでいたそうだ」

 調査に赴いた者達にはそうとしか見えなかったという。



「馬鹿な……」

 信じがたいことだった。

 思わずゲールはそう漏らした。

 もちろん、相手の発言を否定するためではない。

 事実だとしてもすぐには信じられない、そんな思いが口からこぼれた。



「同族なのに。

 同じ人間なのに。

 なぜ…………」

「分からん。

 我らにも分からん」

 ゲールの言葉に村長も気持ちを見せる。

「なぜなのか、全く理解できん。

 だが、事実なのだろう。

 調査隊を信じるならば」

 そして、村長達は調査隊を信じた。

 たとえ理解しがたい、信じたくない内容だとしても。



「それは、ある意味理想なのかもしれん」

 村長は遠くを見るような目で語る。

「誰もが対等に、平等に。

 肩を並べて笑い合える。

 種族の垣根を越えて並び立つ。

 理想ではある。

 その理想を、良くも悪くもかなえてる」



 村長の言うとおりである。

 本来、相争う間柄の人間と怪物・魔物・妖精である。

 それが争う事無く並び立ち、笑い合っている。

 平和というならそうなのかもしれない。

 多様性に富んだ、、素晴らしい世界なのだろう。



 だが、果たしてそうなのか?

 だとすれば、なぜ虐げられてる人間がいるのか。

 なぜ人類で悲惨な目にあってるものと、笑顔で幸せに生きてるものに分かれるのか?

 かたや、生命を常に脅かされてる者達がいて。

 かたや、平穏に幸福に生きてる者がいる。



 どうしても差が出てしまう事もある。

 それは生まれの違いだったり。

 持って生まれた才能や能力の違いだったり。

 積み重ねた努力の差であったり。

 幸運の巡り合わせだったり。

 こういった様々な要員で一人一人の違いが出てくる事もあるだろう。



 だが、妖精達の支配する空間はそうではない。

 生命への尊厳や尊重すらない者達がいる。

 侵してはならない領域を踏みにじっている。

 山のこちら側の人間達は、禁忌を犯してるようにしか思えなかった。



 それが証拠に、彼等は笑ってたのだ。

 同族である人類の苦境を。

 どうしてそう出来るのか分からないが。

「もしかしたら」

 村長は思いを口にする。

「同じと思ってないのかもしれんな。

 虐げられてる者達が、自分たちと同じ人類だと」



 妖精の国で生きてる人間達。

 彼等にとって、同族や身内は人間ではなく。

 怪物・魔物・妖精なのかもしれない。

 だからこそ、これらと対立する人間は敵なのかもしれない。

 敵だからどこまでも残忍になれる。

 それか。

 身内でないから、どうなろうと構わない。



 同族と思えばこそ、それらが気付くのは身を切られるような辛さを味わう。

 しかし、そうでない者達なら、何がどうなろうとかまわない。

 どれだけ虐げられようと気にしない、気にならない。

 それどころか、殊の外楽しむかも知れない。

 子供が無邪気に虫を踏みにじるように。

 これ以上ないほどの笑顔で楽しみながら、命を奪うように。



「そんな気持ちなのかもしれん」

 村長の言葉が不気味に部屋の中に満ちる。

 否定したい、だがそうかもしれない。

 そんな思いが皆の胸に満ちていく。

「それは…………」

 そんな中でゲールが重い口を開く。

「認めたくないですね」

 たとえ事実であってもだ。



 だが、これで幾らかこちらの状況が分かった。

 難を逃れて隠れ住んでる者達がいる事。

 彼等が見聞きしたこちら側の人外達の事。

 そこで虐げられてる人々がいること。

 …………そんな人々を見て楽しんでる人類がいる事。



「でも、そいつらはいったいどうやって妖精にとりいったんでしょう」

 ふと思い付いた疑問をゲールは口にした。

 仮に人間側から離反したとしてもだ。

 どうやって人外の存在に近付いたのか。

 どうやって相手の仲間になったのか。

 相反する存在であるのにだ。



「そこは分からん」

 村長もそこまでは知らない。

「だがな、言い伝えによればだ。

 裏切った連中がいたという」

 人類を裏切り、怪物や魔物と手を取った。

 妖精の仲間となった。

 そんな連中がいたという。

「その裏切りのせいで、人々は内部から崩壊したとな」

「そんな事が」

 ゲールの中で怒りが生まれた。

 騎士として決して見過ごせない。

 裏切りという言葉に。

 それをなした者達に。

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