36 怪奇な森と、思わぬ報酬
山を越えた東の地域。
妖精ひしめく魔境であり、怪物の根城になった場所。
そんな所だからゲールも仲間も警戒していた。
どこに何が潜んでるか分からない。
しかし、警戒するほどには危険はなかった。
確かに妖精が制圧してる危険地帯だ。
だが、全ての場所に怪物があふれてるわけではない。
大半は何の変哲もない野原であり、森である。
場所によって起伏がある、いたって普通の自然がそこにある。
隙間無く凶悪な怪物がいるというわけではない。
だが、それでも妖精の制圧した魔境だ。
怪奇な存在はそこかしこに潜んでいる。
油断は出来ない。
実際、最初に踏みこんだ山裾の森。
そこでこの地の異様さを垣間見る事になる。
「なんとまあ」
抜き放った剣で振り払う。
横凪に走る刃によって迫る枝葉や蔦が切り落とされる。
事前にシーンによって警告はされていたが。
この森には植物の妖精が数多く生息していた。
しなって襲ってくる枝や蔦。
足に絡みついてくる草。
毒性のある花粉を飛ばす花。
そこかしこにこんな凶悪なものが存在する。
中にははえ取り草のように獣をとらえる草もある。
巨大なこれは人間一人くらい簡単に包み込んでくる。
ウツボカズラのように、罠に嵌めてくるものもある。
このウツボカズラ、落とし穴のように地中に潜んでるから厄介だ。
避けて通りたいが、それが出来る道は無い。
森全体がこうした植物によって成り立ってると言えるほどだ。
普通の植物もあるのだが、植物の怪物を退けるほどでもない。
結果、危険な植物を突っ切らないと森を通過できなくなっている。
出来る事といったら、比較的安全な所を進むだけだった。
不幸中の幸いというのだろうか。
植物の魔物共は、切れば死ぬ。
切断面から樹液を血液のようにほとばしらせ、干からびて死んでいく。
その様子は植物というより動物のようだった。
また、心臓のような急所もあるようで、そういう部分を突けば一撃で死ぬ。
何度かの戦闘でそれを見いだしたゲール達は、出来るだけ急所を突いて攻撃していく。
手間を少しでも減らすために。
もっとも、急所を狙うことそのものがいささか手間がかかるのだが。
「それでも助かるよ」
振り返ってゲールはねぎらう。
植物型の怪物の急所を見つけたのはサイトだ。
何度かの戦闘を見て、ゲールは植物の形をした妖精共の特性に気付いた。
完全な解明をしたわけではないが、その体の造りにおおよその見当をつけた。
その上で、ここが急所ではないか、という部分を見つけた。
これが分かってからは話が早くなる。
何度も切りつけなくて済む。
運が良ければ一撃で植物もどき共を殺せるようになった。
おかげで歩みが少しは早くなった。
そんなゲール達にささやかなお返しもあった。
植物の妖精が消えていった事への森からの感謝だ。
その声を聞いたシーンは、
「ありがとう、だって」
とゲールに伝えていく。
そして。
「ちょっと待ってて」
そう言ってシーンはとある木の前で止まる。
すると、その木は枝に実をつけていく。
数個ほど出来上がった実は、程よい大きさになったところでシーンの手の中に落ちていった。
「お礼だって」
そう言ってゲールに渡す。
「ありがたい」
思わぬ報酬にゲールの顔が緩んでいった。
しかもだ。
この木の実、ただの果物というわけではない。
食べれば怪我や病気、毒といった体の損傷を治すという。
さすがにどんな怪我でも、どんな異常でも、とはいかないようだが。
なかなかに万能の薬になるようだ。
「大事にしてよね」
「もちろんだ」
シーンの言葉に当然と頷く。
気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を
どうせ書籍化しないから、こっちに寄付・投げ銭などの支援を↓
【よぎそーとのネグラ 】
https://fantia.jp/posts/2691457