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騎士ゲール・ホッドによる討伐伝 ~あるいは、一人の騎士が英雄になるまでのサーガ~  作者: よぎそーと
三章

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34 山越え

「これを登るのか」

 目の前にそびえ立つ山脈。

 近付くにつれて雄大さを増す山岳。

 それを見上げ、ゲール達はため息をもらす。



 森に巣くっていた巨大虫共を殲滅して幾日か。

 ゲール達はゴブリンの足跡を辿り、山に辿り着いた。

 しかし、超えてゆくには峻厳にすぎる姿に足踏みしてしまう。

 行かねばならないのは分かってるのだが。

 行くのを躊躇ってしまう。



 それでも行かねばならないのが辛いところ。

 どこを辿ってゴブリンがやってきたのか調べねばならない。

 避けて通るわけにはいかない。

 進む前に徒労感を憶えてしまっていても。



 幸いな事にゲール達には案内人がいる。

 森の民のシーンは山の向こうに至る道を知っている。

 山の向こう側からこちら側に逃げてきた森の民である。

 自分たちが通ってきた道は代々伝えられてきている。

 そして、新たな道の発見にも余念がない。

 いつか戻るためにと。



 そんな森の民の知識を持つシーンのおかげで、進む道に困る事は無い。

 ただ、それでも山を越えるとなると危険が伴ってしまう。

 道がないわけではないが、標高の高い山脈を越えるのだ。

 簡単なわけがない。

 それでも今回進む道は比較的楽な方ではある。

 なにせ、大人数のゴブリンが通ってきたのだ。

 それなりの道幅は存在する。

 切り立った崖をつたっていくという事はない。



 だからこそ問題もある。

 通りやすい道という事はゴブリン共も通過するという事だ。

 それ以外の怪物も、魔物も、妖精も。

 常駐してるかどうかは分からないが、遭遇する可能性はある。

 だからこそ気をつけねばならない。



「もっと楽な道もあるんだけどな」

 シーンも不満たらたらである。

 ゴブリンが通ってきたのは、道幅はあるが決して楽な道ではない。

 少人数ならもっと楽に通れる場所もあるのだ。

 それをわざわざ困難な道を通るというのだから呆れるしかない。

 しなければならない事情は分かっているが。



「そっちの道は帰りにお願いする」

 ゲールとしてはそう言うしかなかった。

 実際、山の向こうに出たら、帰りは楽な道を使おうと思っている。

 何も無理してきつい道を選ぶ必要はない。

 全ては向こう側へ出る事が前提ではあるが。

「だから、何としても山を越えよう」



 山の向こうへ。

 今回の調査の目的である。

 ゴブリン共の住み着いてる場所。

 そこで何が起こってるのか。

 何が存在するのか。

 それを確かめるのが旅の目的だ。

 何はなくとも一度は山を超えねばならない。



 その山へと踏みこんでいく。

 標高の高さから、既に周囲に木々はない。

 草すらまばら。

 剥き出しの山肌がゲール達の前に拡がる。

 空へと向かう道ながら、その様は死の大地の如し。

 使命の高さと現状の困難さを象徴するかのようだった。



 その道をゲールは進む。

 供をする従士と祈祷師を引き連れて。

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