32 騎士の剣、虫の女王を成敗す
駆け出すゲール。
それを遮ろうと、女面虫のお供が前に出る。
虫としての本能なのだろう。
女主人である女面虫を守ろうとする。
その姿に、怪物ながら天晴れとゲールは思った。
しかし、容赦は一切しない。
立ち塞がる敵は倒すのみ。
それもまた騎士たる者のつとめである。
馬を走らせながら、剣を下段に構える。
無造作に腕と剣を垂らすように。
そのままゲールは虫の前を走り抜ける。
すれ違いざまに剣を敵に当てる。
走る勢いのままに敵は切られていく。
高速を用いた一撃離脱戦法。
騎兵ならではの攻撃だ。
馬で駆け巡った戦場で何度も繰り返したやり方である。
今度も同じように敵を倒していこうとする。
そんなゲールに立ち塞がる女面虫のお供であるが。
それらはゲールが辿りつく前に射貫かれていく。
エドの弓によって。
エドの弓は相変わらず百発百中の命中率を誇る。
そんな矢は、人間や動物であれば的確に急所を射貫いていく。
だが、さすがに虫となると勝手が違う。
いかに優れた強弓でも、虫を殺すには至らない。
虫は首を切られても即死はしない。
体の一部が傷ついてもだ。
そんな虫に矢が突き刺さっても致命傷にはならない。
普通ならば。
今、エドの矢にはとある薬品が塗られている。
シーンが森からもらったものだ。
いわゆる殺虫剤である。
植物には除虫菊のように殺虫成分を持つものもいる。
そんな植物からもたらされた成分がシーンにもたらされていた。
これを矢に塗る事で、一撃で虫に致命傷を与えることが出来るようになっている。
そんなエドの弓は、虫相手に猛威をふるっていく。 さすがに即死にはならないが。
射貫かれたものは殺虫成分によって避けられない死に向かっていく。
そんな虫を通りすがりに切り倒し。
ゲールは女面虫に向かっていく。
大将同士の一騎打ち。
ゲールは剣を握り治して駆け抜けようとする。
しかし、敵もさるもの。
射貫かれ毒におかされてなお立ちあがるお供の虫が立ちはだかる。
やむなくゲールはそんな虫を切り捨てていく。
お供の虫は反撃も出来ずに切断されていった。
だが、我が身を盾として女王たる女面虫を守っていった。
敵は倒したが攻撃に失敗したゲール。
そんなゲールは方向転換をしながら、大きく回っていく。
走る勢いを消さないようにし、再び敵にかかっていくために。
女面虫達は何とかそれを回避しようとする。
出来る事なら逃げようとするのだが。
それもかなわなかった。
理由はその羽根だ。
熱気の中を通ってきたせいで、その羽根は使い物にならなくなった。
葉脈の浮いていた羽根は熱気の中で縮れてしまい、再生もかなわない。
今の女面虫達は足を使って歩く以外に移動手段がない。
その足は決して鈍足ではない。
普通に歩いても人の早足くらいの速度を出せる。
しかし、もともとが空を飛んで移動するのに適した形態をしている。
地上を長時間這い回るのは得意では無い。
騎兵相手では分が悪い。
それでもどうにか逃げようとする。
迫るゲールを阻み、その間に女王たる女面虫を逃がそうと動いていく。
お供の虫が壁になり、その反対側に女王が逃げようとする。
だが、そんな彼女らの周囲を猛烈な火の粉が来るんでいった。
「逃がすか!」
森に助力を願ったシーンによるものだ。
森の木々はその願いに応え、枯れ葉や花粉を女面虫達に向けて固めて飛ばした。
それらは近くにある猛烈な火から引火し、盛大な火花になった。
殺傷力はさほど無いが。目くらましには十分だった。
これのおかげで女面虫共の目や触角が塞がれた。
一時的に彼女らは盲目状態になる。
隙が生まれる。
それを見て動いたのはカイルだ。
ゲールの露払いをするべく、イノシシに乗って突進する。
文字どおりに猪武者となって直進したカイルは、虫の中を駆け抜ける。
その途中で手にした槍でお供の虫の頭を貫いていった。
ゲールの邪魔になりそうなものを選んで。
頭を砕かれた虫共は、まともに動けなくなる。
死にはしないがその場に倒れてもがいていく。
露払いが終わり、女面虫が孤立する。
そこにゲールは突進し、とどめの一撃を加えていく。
相手も長い前足を振ってゲールを凌ごうとする。
剣を阻むほどではない。
快速号の上で腕を大きく振り上げ。
すれ違いざまに横に一閃していく。
鋼の刃は繰り出された前足を切断し。
そのまま女面虫の叩くように切断していった。
女のような顔が、上下に分かたれていく。
それでも女面虫は即死はしない。
他の虫がそうであるように、切られてもまだ体は生きている。
完全に死ぬまで数日はかかるだろう。
だが、能動的な行動は不可能になった。
ここに、森の中に救っていた怪物・魔物たる妖精は潰えた。
燃えさかる炎の前で。
気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を
どうせ書籍化しないから、こっちに寄付・投げ銭などの支援を↓
【よぎそーとのネグラ 】
https://fantia.jp/posts/2691457




