31 女王たる女面虫
虫の女王とその共。
命からがら逃げた彼女らの前に、ゲールが立ちはだかる。
炎の中を突っ切ってくる虫の姿を木々の上で見ていた動物たちからの通報だ。
鳥に猿、猫などが興味半分で見つめていたのだ。
それらが虫の女王達の行動を見ていた。
すぐに騒ぎ出した動物たちの声を、森がシーンに届けた。
そして、ゲール達は急行する事になる。
ゲールも異形の怪物を前にして衝撃を受ける。
巨大虫はここ何日かで何度も切り伏せてきたが。
その親玉となる虫は初めて見た。
しかもだ。
その姿は巨大虫という魔物の中でも異彩を放っていた。
確かに虫は虫なのだろう。
だが、その頭は虫には見えなかった。
人間の女。
蜂のような口をしてるが、顔形は人間の女のものだった。
それ以外の部分は虫に近いが。
それでも一般的な虫とは違いが大きく見えた。
全体的な形は虫そのものだ。
頭・胸・腹の三つの部分から成り立ち。
胸と腹の間から6本の足が生えている。
しかし、真ん中と後ろの4本の足は長く、女王虫の体をほぼ垂直に立たせている。
腹ばい状態になりがちな多くの虫とはここが違っている。
そして、前足は腕にように自由に使える。
カマキリのようにだ。
さすがに前足が鎌のようになってるわけではないが。
細くしなやかなそれは鞭のように素早く動いている。
体も大きく、全長は200センチもあろうか。
特に腹は長く太い。
卵を作って産む為だろう。
その大きさは堂々たる女王虫というべき印象を与える。
その脇を固める共をしていた虫も、今まで見たものと違う。
全長は150センチほど。
女王に比べれば小さいが、全長100センチほどだった他の虫よりは大きい。
これまた女王虫ほどではないが長い4本の足で直立するように立っており。
前足2本が腕のように自由に動く。
しかも、女王虫と違い、こちらの先は釣り針のように曲がった鉤爪がついている。
口についた顎も大きく、生身で噛みつかれたら肉を引きちぎられそうだった。
見ただけで女王虫を守る護衛、戦闘用の虫だと覗える。
「厄介そうだな」
今まで倒してきた虫とは格が違う。
それを見取って、ゲールは気を引き締める。
ただし、慎重にはならない。
気をつけながらも、前に踏みこんでいく。
攻め手をゆるめにわけにはいかない。
しかも親玉が目の前にいるのだ。
逃げるという選択はない。
それに、目の前にいるものおぞましさは許しがたいものがある。
木々を枯らし、森を痛め付けた存在だから。
ゴブリン達と共にやってきた脅威だから。
そういった理由ももちろんあるが。
顔だけ中途半端に人間の女のものであるという違和感。
森を枯らしていったのがこんな奴等だという事実。
全てがおぞましく思えた。
この場で倒さねばならない。
ゲールの中で強い思いがこみ上げてくる。
それは自然に反する存在への嫌悪だった。
特に女王虫に感じた。
女面虫。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
そこだけ女の貌をした巨大な虫。
存外悪くない呼び方に思えた。
「あいつらを倒す」
抜き放った剣を突きつけて仲間に伝える。
「いくぞ!」
叫びながらゲールは快活号を走らせる。
名馬は主人の指示に従い、足を走らせていった。
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【よぎそーとのネグラ 】
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