30 敵の城を炎で囲む
巨大虫の巣。
それを取り巻くように倒された木々。
枯れたそれらは、倒した熊によって積み上げられていく。
そこにあちこちからやってきた森の民がとりついていく。
彼等もシーンの呼びかけに応えてやってきた者達だ。
必要だからと着火道具も携えて。
そんな彼等は積み上げられた枯れ木に次々に火を付けていく。
「とんでもない事を考えるもんだ」
呆れつつも感心しながら。
鹿や熊の背中に乗っていた彼等は、おりるとすぐに作業にとりかかる。
積み重なった枯れた木々に火を付けていく。
虫の巣をとりまく炎が立ち上がり、それが枯れ木に次々に引火する。
飛び火が駆け巡り虫の巣に近付いていく。
この火は生きてる森には向かわない。
そうならないように、倒した枯れ木を虫の巣の方に移動させてるのだ。
草にも引火しないように、草食動物に間の雑草を食べてもらっている。
そうでなくても炎は枯れ木に向かって進んでいる。
樹液をすすり尽くした巨大虫は、己の所業の報いを受ける事になった。
巨大虫の巣も危険にさらされる。
蟻塚のように土で出来てる部分はともかくとして。
蜂の巣のように樹木なども使われてる部分もある。
こういった部分には引火する可能性もある。
ただ、燃えてる木々と巨大虫の巣の間にはそれなりの距離があるので、燃え移る可能性は低い。
それでも、熱気が巣を襲ってくる。
言ってしまえばオーブンの中にいるようなものだ。
巣の中にも熱気は伝わってくる。
むしろ、熱気が籠もってしまう分だけ、外より状況は酷いかもしれない。
その中で、虫の幼虫は蒸し焼きにされていく。
動きがとれる成虫は幼虫を逃がそうとするが、そんな余裕があるわけもなく。
巣の中で行動してる間に、こっちも蒸し焼きにされていく。
さすがにこのままではまずいと気付いたのか。
巨大虫も逃げ出そうとする。
とはいえ、ゴブリンのように周りを放置して自分と小数の仲間だけ、とはならない。
巨大虫は産卵をする女王を中心とする社会である。
というより、女王が生み出した家族で成り立っている。
そんな彼女らは自分達の女王を優先する。
女王を中心とした独裁国家、こう言えば分かりやすいだろうか。
巨大虫にとって、女王以外は基本的に使い捨ての部品である。
奴隷ですらない、ロボットに近い。
女王を生かすためなら、これらを犠牲にする事をいとわない。
というより、生かすために犠牲にする事に何か問題があるのか?
こう考える者達だ。
そんな巨大虫は、燃え広がる枯れ木の中からの脱出を試みる。
当然、生き残ってる成虫を使って。
労働虫、とでも言えば良いだろうか。
これらが女王虫を脱出させるために使われていく。
そんな労働虫達は、燃えてる枯れ木の中に飛び込んでいく。
そして、燃えてる木々にとりついていく。
もちろん、労働虫は無事では済まない。
炎に飛びついていくのだから、そのまま死んでしまう。
だが、何匹も飛びつく事で、炎は勢いを失う。
完全な消火は出来ないが、熱気を一時的におさえる事はできる。
そうして労働虫は道を作っていく。
虫がとりついて炎が一時的におさまった並木道を。
その間を女王虫は飛んでいく。
わずかな共を引き連れて。
巨大虫はそれほど高く飛べない。
地上より数メートル、がんばっても10メートを超えられるかどうか。
この程度の飛行能力しかない。
なので、燃えてる木々の間を逃げる事はできない。
飛んでも燃えてる木々と同程度の高さまでしか飛べないのだから。
だからこそ、一時的にでも炎の勢いを止めねばならない。
消火は無理でも、飛んでも問題ないくらいの熱気に下げねばならない。
その為に労働虫を大量に投入していった。
おかげで燃えさかる木々が少しだけ落ち着いてくれた。
女王虫がギリギリ飛べるくらいに。
多くの労働虫を犠牲にした道。
女王虫と共の虫はその中を通っていく。
だが、無傷というわけにはいかない。
その身は熱気であぶられていく。
死なずに済むだけで、楽に進めるわけではない。
生き残る事ができても、重度の火傷は覚悟しなくてはならない。
それでも死ぬのは避けられる。
生き残ればこの先もある。
燃えさかる枯れ木の向こうに。
そう信じて女王虫は進んでいく。
生きる事への執念。
それがかなったのかどうか。
女王虫は燃えさかる木々の中をくぐり抜ける事ができた。
無事とは言いがたいが、とにかく生き延びる事はできた。
その羽根は縮れて、既に飛ぶための機能は失われていても。
熱気であぶられた全身は熱を持って体組織が破壊されていても。
まだ生きてはいる。
あとはもっと良い場所を見つけ、新たな巣を作る。
そして、卵を産み、子供を増やし、再び勢力を盛り上げる。
羽根は縮れて空を飛ぶことは出来なくなったが。
地を這ってでも新天地へと向かって。
ここに来た目的は達成できなかったが。
与えられた使命はまだ放棄してない。
それは生きて新たな巣を作りあげれば達成できる。
女王虫はそう考えていた。
先に周辺の様子を伺っていれば。
動物たちの行動も見えていただろう。
あるいは、もっと早く逃げ出していれば。
ここまでの被害を出さずに済んだだろう。
しかし、これらについて女王虫が考える事はない。
そこまで考えがおよばなかったし。
これ以上考えるほどの時間はなかった。
「いたな」
そんな声を聞いた女王虫は、思わずそちらに顔を向ける。
その目に騎乗するゲールの姿をとらえた。
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【よぎそーとのネグラ 】
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