2 思ったよりも村の状況は深刻かもしれなかった
「ようこそ、おいでくださいました」
心配を胸にしながらも、ゲール達は村に到着する。
そんな一行を村長が村の入り口で迎えた。
既に先触れを出していたので待っていたのだろう。
地位や身分が上位の者を迎えに出ないのは無礼となるからだ。
まして今回は危機の調査に出向いてきてもらっている。
徒や疎かには出来ない。
「出迎え御苦労である」
ゲールも返礼をする。
相手は下賎といえども村の代表者。
まして不安にかられてる者達である。
横柄な態度などとれるものではない。
それに、今は礼儀をとやかく言ってる場合ではない。
「早速だが話が聞きたい」
「はい、どうぞこちらへ」
そういって村長は自宅へと招いていく。
馬や従士達の世話も指示しながら。
村の中では豪勢な、しかし貴族の舘には遠くおよばない村長宅。
その応接間にゲールと従士は通された。
既に近隣の地図が広げられ、説明が出来るようになっている。
「早速説明を」
「頼む」
ゴブリンを目撃したのは二週間前。
森に入った狩人が発見したという。
数匹で騒がしくまとまっていたのですぐに気付いたという。
それから身を隠して様子を伺い、それを村長にしらせた。
それから村は警戒体制に入り、領主への通報を行った。
同時により詳しい情報を手に入れるために森の調査が行われた。
他にもゴブリンはいないか、いるとしてどこに潜んでいるのか。
少しでも多くの情報を手に入れようとした。
幸い、これらはさほど難しくもなかった。
ゴブリンは足跡などを隠す事無く残していたからだ。
警戒心がないというか、そこまで頭が回らないというか。
その愚かさが大きな助けになる。
そうして痕跡をたどって狩人がゴブリンの集落を見付けたのだが。
数は大雑把に見積もって30匹以上。
それらが一カ所に集まっていたという。
「見回りに出てる者もいるかもしれないので、実際にはもっと多くのゴブリンがいるかもしれませぬ」
村長はそう言って知りうる事を伝え終えた。
「なるほどな」
容易ならざる事態である。
ゴブリンが最低でも30匹。
最悪の場合、これが50匹くらいに膨れ上がるかもしれない。
となれば、村の防衛も難しくなる。
もしこれらが一声に襲いかかってきたら、村が壊滅的な損害を受けるだろうからだ。
村の人口はおおよそ120人。
数だけならゴブリンを上回る。
しかし、これは女子供に老人を加えた数である。
体力的に戦力になり得るのはこの半分の60人。
その中で働き盛りの青年壮年は30人から40人。
ゴブリンを下回ってしまう。
とはいえ、負ける事もないだろう。
そうはいってもゴブリンは弱い。
人間の子供と同じくらいの体格で、背丈は120センチから140センチくらいまでしかない。
体力もそれに応じたものだ。
多少数が多くても、真っ正面から戦えば確実に勝てる。
ただ、無傷では、とはいかない。
勝つにしても、死亡者も負傷者も出る。
やり方次第だが、死人が数人出てもおかしくない。
負傷者はその数倍以上は出る。
その中には体の一部を失い、社会復帰が不可能になる者も出る。
村も無傷とはいかないだろう。
家や田畑が破壊される。
家畜も殺される。
その損害は経済的に村を疲弊させる。
壊れたものを修復するのに、それなりの時間と費用がかかる。
ただ戦えば良いのではない。
損害を出さずに勝たねばならない。
今後を考えるならばだ。
しかし、30匹以上のゴブリンというのは、それを困難にする。
それにゲールには抱いてる懸念がある。
問題はゴブリンだけではない。
「一つ聞きたい事がある」
「なんでしょう」
「見付けたのはゴブリンだけか?
他にも怪物や魔物、妖精はいなかったか?」
「はて。
そのような話は聞いてませんが」
「ならいいのだが」
ゲールの心配はここにあった。
「通常、これだけ大きなゴブリンの群れとなれば、指導者がいるものだ」
これはゴブリンの特性ともいうべきものだ。
ゴブリンは怪物・魔物・妖精の中では最弱といわれる。
その為、より強力な怪物・魔物・妖精に率いられる事がある。
大人数の時は特にそうだ。
「ゴブリンは、怪物・魔物・妖精の尖兵だ」
それがゴブリンの立ち位置と見られている。
怪物社会の最底辺。
魔物達の最下層労働者。
妖精の中でも最も下等な生物。
だからこそ、ゴブリンはより強力な存在の手下として使われる。
これが5匹から10匹程度なら、ゴブリンだけで行動してる事もあるが。
今回のように何十匹ともなれば、より強力な存在が率いてる可能性がある。
「そういう存在は居なかったのだろうか?」
「さて、そう聞かれると……」
村長はそこまで考えていなかった。
ゴブリンにだけ意識が集中していた。
こうなると人間はそれ以外は見えなくなる。
思い浮かばなくなる。
失念してしまう。
これは致し方ない事、村長に罪があるわけではない。
年若いゲールであるが、こういった心と頭の動きもよく分かる。
なので追求や糾弾はしなかった。
「いや、色々気苦労も多かった事だろう」
村長への気遣いを見せる。
「恐れ入ります」
村長もただ頭を下げた。
「とはいえ、改めてたしかめる必要もある。
領主への続報を届けねばならぬ。
今暫く奮起してもらうぞ」
「心得ました」
頷く村長。
そんな彼は目の前の若き騎士に頼もしさを感じていた。
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【よぎそーとのネグラ 】
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