11 駄目な奴から消えてくれて大助かり
翌日。
訓練にやってきたのは3人だけだった。
予想通り、グロスデンに痛め付けられた連中は来なかった。
それどころか。
「いない?」
「はい、村のどこにもいないようです」
村に聞きに行った従士からの報告。
それを聞いてゲールは呆れる。
愕くほど予想外というわけではない。
だが、予想通りすぎて嘆くつもりにもなれない。
それ故の呆れだ。
「まあ、そうなるだろうとは思ったけど」
威張り散らかしてる分際で、根性はない。
無駄に見栄をはるだけのクズ。
そういう輩がたどるのは、たいてい一つ。
逃亡だ。
自分の思い通りにならない場所から。
自分がやっていけない場所から。
堪え性のない、踏ん張る根性のない人間の取る行動はただ一つ。
その場からの逃亡しかない。
今回の件もそんな良くある事態の一つだ。
これが不満や不当を受け入れる価値もない事ならそれでも良いだろう。
だが、我慢をしてでもやり通さねばならない事だったら話は違う。
その先に見合った成果があるのに。
やらねばならない事があるのに。
それでも逃げる者はたいていの場合役立たずだ。
グロスデンに厳しくやってもらった理由はここにもある。
クズを篩にかけて排除する。
その為に厳しく当たってもらう。
そうでなくても態度の悪い連中だった。
性根を叩き壊して組み直すつもりでやらねばならない。
でないと危険で使えない。
戦場において巫山戯た態度をとる者ほど邪魔はものはない。
一般的な仕事でも同じだ。
それがしくじりにつながり、大損害になりうる。
グロスデンが痛め付けた連中にはそんな気配があった。
だから最初に徹底的に叩きのめした。
クズを最初から排除するために。
疑わしきは罰する。
何か危ないと思ったら徹底的に排除する。
証拠があろうとなかろうとだ。
実際に何かやらかす前に対処しないといけない。
でないと、損害が出てから後悔する事になる。
「やらかす前にやれ」
これが大事な事になる。
「まだ何もしてない」というのは言い分けにもならない。
何か起こってからではおそいのだから。
ついでに、こんな事を言う奴も最初に潰しておく。
問題を引き込む原因だからだ。
なおかつ。
まだ何もしてない、と言う奴は、何かが起こっても問題をかばう。
許してやろうと。
馬鹿げた戯言だ。
問題の原因を排除しないでどうするのか。
延々と失敗を積み重ね、損害を増やす。
許しという考えそのものが邪悪である。
そうなる可能性が村の問題児達にはあった。
だから最初に消した。
こういう連中は、たいてい厳しい訓練から脱落する。
逃げずに挑むならまだ可能性はあるが。
そんな根性がある者はまずいない。
まあ、根性があっても困るのだが。
人間性が歪んでる輩が居座るのも困る。
幸い今回は無事に逃げだしてくれた。
頭数が減るのは痛いが、使えない人間が居座るよりは良い。
それに残った者達もいる。
大人しめの者達がだ。
意欲や覇気といったものは感じられない。
だが、昨日の訓練に黙々と取り組んでいた。
こういう実直な人間の方が役に立つ。
そんな3人に訓練を施していく。
やる事は単純だ。
簡単な素振りをさせて、多少は戦闘が出来るようにする。
隊列や隊形、陣形をおぼえさせ、集団で戦えるようにする。
簡単な事しか教えられないが、素人よりはマシという状態に近づけていく。
一日二日の訓練でそう大きく変わる事は無いにしてもだ。
何もしないよりは良い。
ゲールもそんな訓練に付き合っていく。
今後、ゴブリンが攻めこんできた場合に、この3人が貴重な兵力になる。
放置は出来なかった。
訓練のほとんどはグロスデンが行うにしてもだ。
顔をおぼえてもらわない事にはどうしようもない。
「ところで」
訓練をこなしながらゲールは尋ねる。
「逃げだした奴等、どうしてるんだろうな?」
「さて、こればかりは俺にも」
問われたグロスデンは困り顔で笑うしかない。
「まあ、ゴブリンのいる森に逃げたんなら、それで良し。
町の方へ逃げ込んで貧民街に紛れ込むのもです。
勝手にくたばってくれるでしょう」
森ならゴブリンが、貧民街ならヤクザやマフィアが。
それぞれ片づけてくれる。
「ただ、盗賊や追い剥ぎになられると厄介ですが」
「なるかな?」
「やっても、あの程度なら簡単に返り討ちにあうでしょうよ」
どのみちくたばる事に変わりはない。
よほどの事がない限り、逃げだした連中の先は知れたものだ。
良い結果になる事はまずありえない。
場合によっては上手く生き延びて頭角をあらわす…………といって良いかは分からないが。
悪人悪党として生き延びるかもしれない、名をはせるかもしれない。
だが、そうなる事はまれだ。
「ああいう人間として生まれてきたゴブリンは、さっさとくたばってもらいたいもんです」
そういうとグロスデンは残った3人へと向かう。
やらなべならない訓練のために。
ゲールも小さく「まったくだ」と頷いた。
余談であるが。
逃げだした連中は町へと向かっていた。
食い扶持にありつけそうな所がそっちだけだったからだ。
村にはいられない、訓練を放り出したのだから。
親にも既に見限られているので、すがりつく事も出来ない。
全員、ロクデナシとして村の者達に目を付けられている。
そんな者達が最後の情けとしてゲールへの協力をしろと言われたのだ。
それを放り出して村で生きていけるわけがない。
ならばと村から出てどうにかしようとしたが。
町に出向いても仕事があるわけでもなく。
かろうじてありついた仕事もまともにこなせず。
結局貧民街に流れつき、路上で生活する事に。
かろうじて荒事をこなす連中の使いっ走りにされるが。
最後は抗争の捨て駒として使われ、命を落とす事になる。
妥当な最後と言えるだろう。
その死を誰に知られる事もなく、ロクデナシ達は潰えていった。
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【よぎそーとのネグラ 】
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