10 必要なのは調教であって、教育では無い、人であって人でないのだから
この従士、名をグロスデンという。
民衆から兵士として勤め続け、従士に取り立てられた男だ。
まだ30歳であるが、人生の半分以上を兵役に費やしてる。
まさにたたき上げで生え抜きの軍人だ。
それも、軍略や知略ではなく、戦場でしのぎを削る方面で。
なので武器の扱いと腕力はゲールの家でも上位に入る。
そして兵隊の扱いも心得ている。
つまりはロクデナシ共のだ。
兵隊になるような者達はたいていはクズである。
他で仕事が出来ず、ならば使い捨ての兵隊として軍務をさせた方がマシ。
そんな人間があつまる。
もちろん例外もいるが。
目立つのは、行き場の無いクズばかりである。
そんな連中に言葉は通じない。
必要なのは暴力である。
痛め付けて調教するしかない。
従わないとこうなると。
荒っぽいが他に方法がない。
村から送り込まれてきたロクデナシも同じだ。
指示を出しても従うわけがない。
だから最初から適切な方法をとる。
グロスデンによって叩きのめす。
痛め付けてから指示を出す。
短時間で言う事を聞かせるにはこれが一番だ。
実際、グロスデンによって叩きのめされた者は、
「何すんだ!」
と反発をする。
そして、グロスデンに飛びかかる。
その全てがグロスデンに弾き飛ばされていく。
拳で、蹴りで。
村のロクデナシどもは全然かなわない。
そうして暫く叩きのめされて、ロクデナシ共も察する。
こいつに逆らってはいけないと。
そもそもとして、指示はしっかり聞く。
無駄な反発はしない。
こういった発想が出てこないのが問題であるが。
そこまで考える知性や理性、能力がない。
犬や猫と同じケダモノと同じだ。
しかしグロスデンの調教によって、少しはマシになった。
ヨロヨロになりながらも言われた所に集まる。
それを見てゲールは指示を出していく。
「これからゴブリンとの闘いに備えて訓練をする。
全員、そのつもりで動け」
「……はい」
集まった者達から気の声が返ってくる。
無言で頷くだけの者も。
だが、これは別に問題は無い。
まがりなりにも返事をしてるのだから。
問題なのはグロスデンに叩きのめされた者達。
返事もつらいほど痛いのだろう。
顔をしかめてるところからもそれが分かる。
だが、考慮してやる必要は無い。
もとはといえば、指示に従わなかったのが悪い。
その結果酷い目にあってるだけだ。
最初から素直であれば、何の問題もない。
なので、
ドゴン!
とグロスデンの拳が飛ぶ。
「ちゃんと返事をしろ」
痛みに顔をしかめていた連中が、更に苦痛に顔をゆがめる。
だが、
「ば……い……」
濁った声でどうにか返事をする。
そんな彼等に拳が更に叩き込まれる。
「もっと大きな声で!」
「ばぁい!」
「まだまだ!
まだ声は出るぞ」
「ばあい!」
こんなやりとりが何度か続く。
返事をする度にグロスデンの怒号が飛ぶ。
叩きのめされた連中はひたすら声をあげる。
そうしてるうちに、ようやくグロスデンの望むくらいには大きな声になる。
そこまで来て、ようやくグロスデンの声も止まった。
「それじゃあ、これから訓練を始める」
ゲールもようやく本題に入る。
「知っての通り、ゴブリンが近くに来てる。
それを撃退できるようにする。
時間がないから、気を抜かないように」
「はい!」
かすれた声で返事が上がった。
そして訓練が開始される。
槍の代わりの棒を握らせ、ただひたすらに振らせる。
槍は基本的には突くものだ。
だが、その長い柄で相手を叩く事も出来る。
むしろこの方が基本的な使い方にもなる。
相手を叩いてひるませ、それから穂先で突く。
この方が確実だからだ。
また、長い柄で叩けば遠心力も加わるので、骨を砕く事もある。
相手がゴブリンなら、これで致命傷を負わせる事も出来る。
なので、訓練はただひたすら素振りをさせる事になる。
短時間で少しでもまともに動けるようにするために。
この日はただこれだけで終わった。
終わる頃には全員の手の皮がむけていた。
全員の手が血でにじんでいる。
さすがにそのままというわけにもいかないので、簡単な治療魔術をかけていく。
従士の一人である衛生兵が行っていく。
傷が即座にふさがるわけではないが、半日もあれば治るくらいに治癒能力があがる。
明日の訓練には十分間に合う。
「今日はここまで。
あとは明日だ」
そういってゲールは終了を伝える。
解放された村の者は黙って家にむかっていった。
その背中を見て思った。
「明日は何人来るかな?」
一人でもいてくれればいいけど、と思いながら。
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【よぎそーとのネグラ 】
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