痴漢アカン!
(あ〜、生き返る。最近、めっちゃ暑くてかなわんわ〜)
大熊猫は吊り輪を両手で握りしめながら、電車で東京方面へ向かっていた。
季節は夏。30度越えの気温が連日続いていた為、車内のクーラーが身体に染みる。今は人が少なくて良いけれど、次の駅でいつも大勢の人が雪崩れ込んでくるので、大熊猫は今の時点で憂鬱な気分になっていた。
(東京ってなんでこんなに人が多いんや。痴漢に間違われたら嫌やから、このまま吊り輪を両手で握りしめとこ……)
これが大熊猫流の痴漢対策である。痴漢したでしょ!? と疑われて警察に捕まりたくないし、疑われたくもない。だから、電車に乗る時は常にこうしているのだ。
そんなことを考えているうちに次の駅に到着した。扉が開いた瞬間、人がダーッと流れ込んでくる。幸いにも大熊猫の周りにはスーツ姿の男性ばかりだった。
(よっしゃ、俺の周りに女性客はおらんわ。化粧臭くないし、加齢臭もないし、汗臭くもない。汗ばんだ肌で押し競饅頭状態は嫌やけど、こればっかりはしゃーないよな)
夏だし、東京方面に向かっているのだし、満員電車やし、仕方ない……そう思っていた時だった。
突如、サワッ……とした謎の感触がしたのだ。
触れた部分は尻ではなく、股間。つまり男の大事な所。所謂、チ●コである。
大熊猫の頭上に疑問符が浮かんだが、満員電車なのだから変な所に手が当たってしまう事くらいあるだろう――そう思っていた。
気にしないようにしていたが、サワサワとした感触が一向に止まらなかった。むしろ指先で引っ掻くように触り始めてきたので、気持ち悪さで鳥肌が立ってきた。
(え……まさか、男が触ってきてんのか? そうやったらマジでキモいんやけど……)
顔見知りの男に真っ正面から堂々と触ってくるんだったら、百歩譲って許す。(それでも嫌だが)
けど、それが見知らぬ男だと思うと気持ち悪くて仕方がなかった。けれど、今は満員電車。手を振り払おうと思ってもできないのが辛い。
(くっそー。痴漢ってこんなしつこく触ってくるもんなん? ほんまに気持ち悪いんやけど)
大熊猫は次第に腹が立ってきた。しかし大熊猫はある事に気が付く。指が股間からユ●クロのストレッチパンツの脇ポケットに移動し、ポケットの中に指が滑り込んできたのだ。
「……は?」
突然の事に大熊猫は目を見開いた。余裕ぶっこいて吊り輪を握っている余裕はなくなり、即座に身体を捻る。
しかし相手もプロなのか、大熊猫の様子を伺いながら、何度も何度もポケットの中に指を忍ばせてきた。
(しつこい奴やな!! なんでポケットに手を忍ばせてくんねんっ!! 俺の恋愛対象は女なんや!!)
大熊猫は心の内で憤っていた。
次の駅で人がダーッと降りるはずだ。どこのどいつか知らんが、この後に及んで俺のチ●コを触ってくるのであれば容赦はせん……。必ず、警察に突き出してやる! 俺の貞操を守る為にな!
※念の為に言っておきますが、彼は身長180センチ、体重110キロの現役スポーツマンです。