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7-5.「倹約家というわけではないのです」


 ともあれ。

 それからの取り調べでまぁ、大方のことは白状させられた形になる。

 なぜかその後もお着替えを許されず、メイドさんの恰好のままを強いられたことはさておきだが。


 あそこで何をしていたとか、いつからだとか。

 せめて反省の色を示しつつ、私は正直に答えた。

 その目的も。(リィゼルちゃんのところだけは、やんわりと回避させてもらったけれど。)


 ちなみにゼノンさんらがあそこにいたのは、私の外出がこの頃妙に多かったのを不可解に思ってのことらしい。それで今朝がたリクニさんに「おまえら最近、何やってんだ?」と確認を取ったところ、当然ながら話が噛みあわずに「え、なんのこと?」となってしまう。


 それでこれは何かあるぞと私の魔力を追跡して、あの近辺を探していたのだそうな。ちょっと嬉しかったのは、『テリア』の正体が私ということにゼノンさんも少なくとも出会いがしらでは気付けていなかったということ。


 あそこで私があんなに分かりやすくトンズラしなければあるいは的なことを言われて、またちょっぴり気持ちがうわついてしまっている私がいた。


「おいおまえ、またちょっと喜んでるだろ」

「よ、喜んでませんよ!」


 まさかまたニヤけていたのかとハッとし、慌てて顔をムニムニさせて誤魔化したが。


「つっても、そんなに笑いごとでもねぇんだからな」

「そうだよ、アリシアちゃん。ただでさえ、あんなことがあったばかりなんだから」


 改めてそうたしなめられてしまえば、私も深く詫びいるしかない。

 お世話になってばかりでは申し訳なくて、必要なものくらい自分で働いて調達したかった。


 そんななけなしの自立心みたいなところは、一応分かってもらえたけれど。

 でもそのためにゼノンさんたちに、こんな手間をかけさせてしまったのでは本末転倒だ。少しも本意ではなくて。


 もうしませんどんな罰もつつしんでお受けしますと、こうべを垂らしていたときだった。


「つーかおまえ、1つ聞きてぇんだけどよ」

「え?」


 どこか釈然としなそうに頭をガリガリしながら、ゼノンさんからそう切り出されて――。



 ◇



 ここで1つ、訂正してお詫び申し上げなければならないことがある。

 いや決して、悪気があって黙っていたとかではないのだけれど……。


 早い話が、私はぜんぜん無一文とかではなかった。

 お金ならちゃんと持っていたのだ。


 それも一応、それなりにまとまった金額を。

 正確な総額までは把握していないにしろ、パッカンとお菓子を入れるような箱が少なくとも3つほどいっぱいになるくらいには。タンス預金ばりに、クローゼットの奥に溜めこんでいて。


「なんだこりゃ」

「ええ……」


 中身を見るなり、ゼノンさんたちからヒかれてしまった。

 ちなみにこれは今まで、私が2人の仕事を手伝ったときにもらっていたお小遣いみたいなものになるのだが。それがさっき――。


『おまえ、そのカネはどうしたんだ? 全部使いきったのか?』


 なんて失敬なことを聞かれてしまったので、まさかと仕方なく公開したわけだ。

 見ての通りびた一文も手を付けず、ちゃんと全部残ってますよと。

 すると当然。


「いやいやいや」

「全部残ってますよじゃねぇよ。バイトなんかしねぇで、これ使えばよかっただろうが」


 次なる疑問はそれだろう。(だから黙っていたわけだが。)

 でもその答えはちょっと複雑で、私のポリシーみたいなものになる。


 簡単に言えば、こうだ。

 私は2人にとてもお世話になっている。

 感謝してもしきれないくらい、恩赦おんしゃのローンが溜まりっぱなしなのだ。


 それこそ住まわせてやってるんだからとタダ働きをいられたって、文句も言えないくらいに。だから仕事を手伝うのなんて当たり前なのに、いくら要らないもらえないといっても「それはダメだ」と聞き入れてくれないから。


 だから私は意固地になって、このお金には絶対に手を付けないと心に決めていたのである。そんなカクカクシカジカを、ありったけの想いと自信たっぷりに熱弁したのだけれど。


「ゼノン、そういえばこの子ってもともと孤児院にいたんだっけ……?」

「そうだが……。それがどうかしたのか?」

「いや、ちょっと思っちゃってさ。それもあって必要以上に倹約精神がみついちゃったとかなのかなって」

「偏見だろ、それは。単に性格の問題じゃねぇのか、こいつの。にしたってを越してると思うが。どうすんだこれ。貧乏性とかそういうレベルじゃねぇぞ」


 とりあえず、ちっとも伝わってなさそうなことだけはすぐに察した。

 というか、今ちょっとけなされたような。


「とりあえずお金の教育とかになるのかな。それも使う練習をさせないと」

「そうだな。だが街に出るとなると、俺は……まだちょっとな。悪ぃが、頼めるか」

「いいよ。ちょうどこれからルゥとも待ち合わせる予定だったし、一緒にショッピングといこう。ということだから、行こうか。アリシアちゃん」

「え、どこに……? わわっ!」


 そのままよいせと、リクニさんに担ぎ上げられる。


「さぁて、今日は盛大に使いっぱなそうね~。働く喜びを謳歌おうかしようじゃないか」

「お前が言うとロクでもなく聞こえるな。まぁともかく――。服以外にも必要なものがあるなら買ってこいよ」


 そんなよく分からないことを言われながら。

 どこへ行くのか。なんで私のへそくりも持っていくのか。

 分からない。分からないけれど。


「とりあえず着替えさせてえええっ!」


 手足をワタワタさせながら、何よりまずはとそう訴える私だった。

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