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7-1.「ものの見事にキックバック」

パート7始めていきます!


 というわけで。

 まぁ、経緯はもろもろあったわけだけれど――。


 こないだようやっと勝ち取ったばかりの退院から1週間と経たず、ものの見事にキックバックをもらってしまった私である。とくにやることもできることもない入院生活の退屈さは、早い話が前回のき直しだった。


 なにせもう、大抵のことはやってしまった後なのだ。

 奇抜な散歩コースを選んだり、普段はなかなか使わないようなワードでしりとりをしたり。この余りに余ったヒマを少しでもしのごうと、思いつく限りやってみたなけなしの試行錯誤はすでにやり尽くしてしまった。


 しかも前回のときと、病室やベッドまで同じという徹底した再現ぶりだ。

 ともすれば今さら目新しい発見なんてないし、アイデアも思いつかない。

 そんなこんな――。


「退屈だぁ……」


 ベッドにボフンとなって、グデン。

 ちょっとだらしない恰好になりながら、体いっぱいにヒマを持て余す私だった。


 体をダイノジに広げながら、トホホと涙をちょちょ切れさせる。

 なして自分がこんな目に合わなければならないのかと。

 正直そこはもう、ツいてなかったで割り切るくらいしか処置がないとは分かっているけれど。


 ちなみにこの無限ループのような日々に舞い戻ってから、早3日が過ぎた。

 そのあいだにテグシーさんが事情聴取の続きにやってきたり、ルゥちゃんもそれは足しげくお見舞いに通ってくれている。(先日ペット禁止令により、ついに締め出されてしまったウィンリィを連れて。)


 そこはもう感謝しかない。ないけれど。

 それでもヒマなものはヒマだった。

 どうしようもなくつまらなくて、はぁと天井を見上げながらため息をつく。


 何より想定外だったのは、こないだリクニさんから申し訳なさそうに言い渡されてしまったことだ。聞けばなんと、ゼノンさんはまたしばらくこの病院には来られないとのことらしい。


 すかさずどうしてとなった。

 だってゼノンさんはこないだの別れ際、確かに言ってくれたのだ。

 近いうちにまた来ると。


 それだけではない。

 ゼノンさんはあの日それ以外にも、私にたくさんの約束をしてくれた。

 もうしないこれからはと、ちゃんと血のかよったとても真摯な言葉の数々を。


 それがどうして。

 まさかゼノンさんに何かあったのかと思ったら。


 落ち着いて大丈夫だからと、なだめるようにリクニさん。

 そう、冷静に考えれば当然のことだった。


 単純な話だ。

 いまここに入院しているのはアリシアであって、『アリス』ではない。


 そこにゼノンさんが頻繁に出入りしてしまっては、どうしたって周囲から不自然に思われてしまうだろう。だからもうゼノンさんは、表立ってここへは近づかないようにしているのだと。


「約束を破る形になってごめん、でも退院する日にはちゃんと迎えに行く。待ってるからって、ゼノンから伝言。アリシアちゃんにくれぐれも伝えてくれってさ」


 そんなぁとなる。

 こればっかりは仕方がないとは分かっているけれど。

 たまらずカレンダーを見やれば、入院期間はまだたっぷり4週間近くも残っているわけで。


「お婆ちゃんになっちゃうよ……」

「うん、ならないけどね」


 途方に暮れてショボン、ベッドで項垂うなだれるしかない私だった。

 そんなこんなで、なかなか過ぎ去ってくれない日々を悶々(もんもん)と過ごしていたのだけれど。あくる日の夜。


 そのとき私が読んでいたのは、こないだルゥちゃんが面白いよと持ってきてくれたホラー小説、その終盤だ。鬼気迫る脳内イメージにゴクリと生唾を飲みながら、世界観に没入していたところ。


 ゴンゴンといきなりあらぬ物音があって「ひゃぁ!」。

 本を放り上げるくらいの勢いでバッタンと仰け反ってしまう。


 何分それは病室のドアとは反対で、すぐ傍らにある窓側からだったのだ。

 直前まで浸っていた世界観が戦慄もののホラー展開だっただけに、いったい何事とアワアワしてしまったわけだが。


 待てよと、眉根を寄せながらすぐに思い直した。

 そういえば前にもこんなことがあったなぁと。


「もう驚かせないでよ、リィゼルちゃん」


 でもまた来てくれて嬉しいなと、カーテンを開けたら。

 そこにあったのは黒い影。どこかバツの悪そうに片手を上げている。


「よぉ、元気か?」

「ゼノンさん!?」


 だった。

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