5-18.「明日になったら」
それからリクニさんやルゥちゃんが教えてくれたことは、どう記憶を辿っても私の身に覚えのないことばかりだった。
途中までは一致するのだ。
リオナさんがまるで小さな太陽みたいに大きな炎塊を落としてきて、私はそれをありったけの魔力を込めた魔力砲で迎え撃つ。
そしたら視界いっぱいにバーンとなって、なんとか相殺できたのは覚えている。
でも直後、間髪入れずに、リオナさんが2発目を投下してきて。
その時点で、私にはもう対抗する力なんて残ってなかった。
だから反撃は諦めて、せめて防御に徹しようと残る力をふり絞って――。
そこでぱったり記憶が途絶えていたから、てっきり防ぎきれずに敗北を喫したのだろうと、最初はそう思ったのだけれど……。
聞いていると、何かおかしいのである。
まったくと言っていいほど、その先の話が噛みあわないのだ。
また心配をかけてしまいそうで、その場では咄嗟に合わせてしまったけれど。
やっぱり、いくら記憶を辿っても心当たりがない。
私がリオナさん相手に大立ち回りを演じて、しかもゼノンさんからレフェリーストップ的に止められた挙句に強制退場させられただなんて。そもそもゼノンさんが来ていたということすら、そのとき初めて知ったことで。
ともかく大事をとって、数日はここに入院という旨を伝えられた。
明日も来るからね~と言ってくれた2人に、おやすみと手を振って別れる。
いったい、どういうことなんだろう……?
その後もなかなか寝付けず、一人モヤモヤしていたところコンコンとなぜか窓サイドからノックが。
ここ地上階じゃないのになんで!?
すぐにもオバケが過ぎってヒィィとなったけど。
もしかしてゼノンさん!?
シャっと思い切ってカーテンを開けてみれば思いもよらず、そこにいたのはリィゼルちゃんだった。
「り、リィゼルちゃん……!?」
「なんだ、思ったより元気そうだな」
どうやら人目を盗んでお見舞いに来てくれたらしい。
珍しくヘンゼルを脱いでたので聞いてみたら「だって目立つじゃねぇか」とあっさり。
「でも、どうやって来たの? ここ結構、高いと思うんだけど」
「んなもん、どうとでもならぁ」
ひょいと窓枠に乗っかって足を組み、ヘンとふんぞり返ってみせる。
相変わらず逞しい子だった。
それでしばらくお話しもしたのだけれど……。
リィゼルちゃんが教えてくれたことも、やっぱりリクニさんたちの証言と一致している。
どうやら覚えていないのは本当に私だけみたいで。
「覚えてない? なんだそれ、アタマでも打ったんじゃねぇか?」
思い切って打ち明けてみたところ、そんな感じに呆れられてしまった。
でも実際のところもう、それくらいしか説明が付かなくて。
「なんだか気味の悪ぃ話だが……」
「どうしちゃったんだろう、私。頭おかしくなっちゃったのかな……?」
「それは割りと最初からだったろ」
「ひどい!」
「冗談だっつの。とにかく今日のところはもう休めよ。明日になったらケロッと思い出してるかもしれねぇぞ」
「そうなのかな……」
「そうだって、じゃあボクはもう行くからな。またヒマで気が向いたら来てやるよ。じゃあな」
そのままリィゼルちゃんも、ピョンと飛び降りるようにして行ってしまった。
明日になったら思い出すかも。
そんな言葉を頼りに私も気持ちを切り替え、今夜はもう目を閉じることにする。
そうならなかったら折を見て、ゼノンさんには相談してみよう。
そんなことを考えながら――。
――そう。
明日のことを考えると、今さらながらウキウキが抑えられなかった。
当たって砕けろ的に臨んだ魔女狩り試験だったが、それなりに結果は残せたと思うのだ。
ともすれば『アリス』の存在が少しでも認知され、ゼノンさんに立っている悪いウワサだって多少は落ち着くかもしれない。そうならなかったとしても、私にはこれまでよりもっと自信たっぷりに金魚のフンできるというだけで収穫だった。
しかもその奮闘を、ゼノンさんも見ていてくれたのだという。
今日はお話こそできなかったけれど、明日になったらきっと顔を出してくれるはずだ。
そのときゼノンさんは何と言うのだろう。
喜んでくれるだろうか。
びっくりしたぞとか、まぁおまえにしては頑張った方じゃないかとかって、照れ臭がりながらも褒めてくれるだろうか。今から想像するだけでウフフが止まらなかった。
あぁ、早く明日になればいいのになぁとソワソワすらしてしまう。
そうこうしているうちに、スヤスヤと深い眠りに落ちて。
そう、私はそのときを心待ちにしていたのだ。
入院している間、ゼノンさんが来てくれるその日をずっと。
ずっと――。
パート5はここまでです。
次話からパート6に入っていきます。
あと毎度のことですみませんが・・
ブクマ、評価、スタンプ、とても励みになってます。
気の向いた方は是非にお願いいたします(人ω<`;)




