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1-4.「そして下された判決は」


「たぶんもっと他にやりようはあったと思うんです。でも私もパニックになってしまっていて……。どうしていいか分からなくて」

「最初についた小さなウソが雪だるま式に膨らんで、後に引けなくなった。そんなところか」

「はい……」


 なるほどなと魔女狩りさんが頭を掻き、暖炉の火がパチパチと弾ける音だけが残った。俯きがちに黙り込んでいた私だが、沈黙に耐え切れなくなって切り出す。


「あのそれで、私はこれからどうなるのでしょうか……?」


 自分なりに調べてみたことがあるのだ。

 魔女が辿ってきたその歴史について。なんでもその昔、魔女の出没頻度は今よりずっと多く、各地で猛威を振るっていたらしい。それに対抗すべく結成されたのが現在の魔女狩り協会だ。


 個々として力の強い魔女たちだったが、そもそもの数が少なく結託しないことが弱点だったのだという。以降、魔女狩りたちの活躍によりその数を減らしていったそうだ。


 ということはつまり、私もその歴史にならって末路を同じくしてしまうと、そういうことなのだろうか。いつかこんな日が来るのかもしれないと、考えたことはあった。でもすごくぼんやりしていて、現実味なんてまったくなくて。


「あの私、本当に何もしてないです。確かに冒険者の人たちを追い払ったりはしましたけど、なるべく怪我とかさせないように気を付けてました」

「最近、妙にこの付近の魔物が強くなったとかって街でウワサになってたがな」

「し、知らないです! 私にそんな力はありません、信じてください! 悪いことなんて本当に何も、あっ……」

「あっ?」

「さっきも言いましたけど、ここ私の家じゃないのでその、不法侵入……?」

「……あぁ、そうだな」

「あっ、あと」

「まだあんのかよ」

「この森に来るまでのあいだにどうしてもお腹が空いちゃったことがあって、その……。畑から野菜を盗ったことが、あります……」

「…………」

「で、でもそれ以外は本当に何もしてなくて……! 信じてください、お願いします!」

「おいやめろ、くっつくな!」


 てんやわんやになりながら、私は魔女狩りさんに食い下がった。

 ちょうど手を縛られているのでお願いのポーズみたくなっているけど、媚びいるつもりなどは毛頭ない。とにかく必死だった。


 わざわざ生け捕りにしてこうして話まで聞いてくれたということは、あるいは情状酌量じょうじょうしゃくりょうの余地もあるのではないかと信じて。狩られたくないあまり、躍起になりすぎてしまったらしい。


「だぁ、うぜぇ! いいから落ち着け、俺の話を聞け!」

「ひぃーっ!」


 振り払われてしまった。そのとき壁に頭をゴチンとぶつけ、それがデキたてのタンコブにクリーンヒットしたみたいでヒィコラなっていると。


「いいか、おまえまず根本的に勘違いしてんだよ。たぶんあれだろ、自分が魔女だからって俺がおまえをヤりに来たとか思ってるんだろ?」

「えっそうですけど、違うんですか?」

「ぜんぜん違ぇよ。相手が魔女だったら誰彼構わずなんて、そんなのは一昔以上もまえのことだ。そっちの数が減りすぎて、そんな時代とっくに終わってんだよ。だからこうして話も聞いてやってんだろうが。それでさっき言いかけたことだが、おまえロマールが出身だとか言ってたな?」

「あっはい、そうですけど」

「あの辺りは確か、過去に魔女の被害を相当受けた地域のはずだ。おまけに年寄りも多い。だから無理もねぇつったんだ。そこも含めてツいてなかったんだよ、おまえ」


 ええと、つまり……? どういうこと?

 私は狩られずに済むと言うこと?

 そこが聞きたかった。


「それともう1つ、ついでだから言っとくけどな。さっき言ってた不法侵入の件はまぁ、気にしなくていい」

「えっ、どういうことですか?」

「ここは俺んちだからな」

「俺んち……へっ?」


 キョトンとなってまもなく、それが衝撃の発言なことに気付く。

 ええええええええええ、となった。



 ◇



 これで1つ、謎が解けた。


 少し不思議に思っていたのだ。

 気絶した私を運び込むとき、どうして魔女狩りさんは此処が私の住処だと分かったのかと。だけどそれも本来の家主だと言うなら、おかしなことは何もない。


「ここが魔女狩りさんのお家……!?」

「あぁ、つってもしばらく使ってなかったが」

「ご、ごめんなさい私……勝手に住んでましたっ!」

「さっき聞いたっつの」


 まさかの事態にオロオロしながら、ベッドの上から必死になってヘコヘコするしかない私である。すると魔女狩りさんは、はぁとため息。椅子で足を組み、こめかみをグリグリしながらわずらわしげに続けた。


「ったく、おかしいと思ったんだ。久しぶりに帰って来たのになんつーか、妙に小ぎれいだったからな。生活感があるっつーかよ」

「それでさっき、その……驚かれた様子だったんですね」

「そうだよ。他に寝かすとこもなかったから仕方なく連れてきてやったんだろうが。あ、じゃあ何か? おまえからしたら『なんでこいつが私の家に』とかそんな感じだったってことか!?」

「ご、ごめんなさい」

「まじかよ」


 正直に謝ったら愕然がくぜんとされてしまった。恩を仇で返してしまったようで申し訳ない。あと、心底思った。「あなたも同罪ですよね」とか、間違っても口走らなくてよかったと。


「あの、なるべくモノとか動かさないように使ってましたので。家具もベッドとかお風呂とか、最低限のものだけ……」

「言い訳になるかよ」

「はい、すみませんでした」


 弁明の余地はなかった。


「まぁいい。どうせもう空き家にしてたし、使う予定もなかったからな」


 それは正直、すごくありがたい。


『じゃあこのお家、私にください! 大人になってお給料がもらえるようになったらローンもお支払いしますので!』


 すぐにでもそう申し出たかった。

 勝手に住み着いておいてなんだが、ここはもう我が家といって差し支えないほど愛着がある。住み心地だって最高だ。要らない使わないというなら、是非とももらい受けたい。


 でもそれ以前に、致命的な問題がまだ残っている。

 私の処分についてだ。


 私の生殺与奪の権については、いまだ魔女狩りさんのしかと握るところ。

 物騒なことにはならない的なことはさっき言ってもらえたようにも思うが。最悪なことはなくても魔女裁判とか、服役刑くらいにはなってしまうのか。そこははっきりさせておきたい。これ以上は心臓に悪い。


 ということでもう一度、私は意を決して口を開いた。


「あのそれで、私の処分とかはどうなるのでしょうか……?」


 ゴクリと生唾を呑み込みながら、どうかお慈悲をご寛大な処置をと神にも祈る気持ちで。


「そうだな。めんどくせぇが、仕方ねぇ」


 そして、審判は下される。


「動くなよ」


 すると魔女狩りさんは前触れもなく、手刀みたいにピンと伸ばした手を私に向かって振り下ろして。

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