5-2.「あれ私なにかしましたっけ?」
ところで『アリス』と偽名を使っている私が、本当は『アリシア』だと知っている人物は身近に4人ほどいる。
そのうち3人はゼノンさんやリクニさんを含めた、魔女狩りさんたちなのだが。
残るもう1人について、ここで紹介しておきたい。
その子は名前をルーテシア・レイスちゃん。
『ルゥちゃん』と呼ばせてもらっているのだけれど、実はその子も私と同じ、比較的最近セレスディアに来たばかりの魔女の子どもだったりする。
年ごろはリィゼルちゃんとそう変わらないくらいで、すごく恥ずかしがり屋。
口数もとても少ない女の子になる。
担当の魔女狩りさんはリクニさんで、そこにゼノンさんから引き渡されたばかりの私がやってきて紹介してもらったというのが知り合った経緯だ。
あまりコミュニケーションが得意ではないようで、些細なことでよくアワアワしているのだけれど。それも含めてすごく可愛くて、すぐに仲良くなれたセレスディアで初めての友だちだ。
でも私がゼノンさんのところに戻ったことで、今までのように簡単には会えなくなってしまって。ルゥちゃん今ごろどうしてるのかな、元気にしてるかなと心配していたある日のことだった。
ゼノンさん宅で『アリス』の姿に扮していた私のところに、リクニさんがルゥちゃんを連れてきてくれたのは。ちょっといろいろと事情があったもので、ルゥちゃんだけは例外として秘密を明かすことになったのである。
対面した瞬間、きゅっと胸を締め付けられるのを感じた。
今まで黙っててごめんねと、まずは釈明の言葉から始めようとしたのだけれど。
「……?」
何やら私を見るなりむつかしそうな顔をして、クリンと小首を傾げたルゥちゃんである。すると何を思ったのか、しっかと握った身の丈ほどもある杖でコツン。私の頭のうえ辺りにあった、空気の層を軽く小突いて。
――ポンっ!!
えっ、と呆気に取られたようにリクニさん。
おっ、と驚いたようにゼノンさん。
へっ、と何が起きたか分からず私。
ただ1つだけ確かなのはその瞬間、私の変幻術が解け、姿が『アリス』からアリシアに戻ってしまったこと。
とまぁこれが思いもよらず、打ち明けるまえに秘密を看破されてしまった経緯になる。パズルとか謎解きとか得意なのは知ってたけど、ものの見事に見破られてしまったのだ。
「あれ……? あれ解けてる!? なんでえええっ!?」
アワアワと慌てふためく私をよそに、すごく嬉しそう。
ここにいたんだねと伝えたそうに、にっこり笑顔を花咲かせるルゥちゃんだった。
◇
第六感とでも呼ぶべき才覚なのか。
どうやらルゥちゃんは、リクニさんたちが想像していたよりもずっと勘の鋭い子だったらしい。
「ごめんね、ルゥちゃん。騙そうとか、そういうつもりは全然なかったんだけれど」
ともあれ、そういう誤解をしないでくれたことが幸いだった。
私とまた会えたことをただ嬉しそうに、懐に顔をスリスリしてくれて。
よしよしと私はその赤みのかかった髪と、形のよい頭を撫でてやる。
「それにしても驚いたな。まさかルゥがアリシアちゃんの変幻術を見抜くとはね」
一方でリクニさんからそう褒められるなり、どうだ見抜いてやったぞとでも言いたげにふんすと胸をはり、どこかご満悦そうにもしているルゥちゃんだった。
確かに、思い返してみればいつだったか。
魔導仕掛けだという立体パズルで競争していたら、私がまだ悩んでいるうちにルゥちゃんだけパッパと完成させてしまったことがある。「どうやったの?」と聞いても、ルゥちゃん自身もどうやってるのか分かってなさそうにしていて。
聞けば今回は、私の頭上付近が何かモヤがかっているように見えたので、試しに叩いてみたとかそんな感じらしかった。つまるところ、なんとなく分かったが結論のようで。
「ったく、なんで魔女っていつもそうなんだ。何でもかんでも『なんとなく』で済ませやがって」
「本当ですよね」
リィゼルちゃん然りと深々と頷いていたところ、妙な沈黙。
どうしたのかと振り返ったら「どの口が言ってんだ」みたいなジト目があらん限り、なぜか私へと注がれていた。
「へ、私ですか?」
「ぶん殴んぞ」