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2.「その魔女には秘密がある」


 さて、残りは私周りの話になる。


 ……のまえに、一応もう1人だけ。

 名前にやたら伸ばし棒の多い、その名の冠する通りポットデの誰かさんについて、ちょっぴりだけ話しておこう。


 結局あの人が、どこでどう私の真相ことを知り及んだかはさておき。

 テグシーさん曰く、もう放っておいても問題ないそうだ。


 グランソニア城に魔樹ガガイアを呼び込み、プリズンブレイクという大混乱を引き起こした戦犯としてあの人の置かれた立場はすでにそれどころではなくなっている。仮に釈放されたとしても、もはやオオカミ少年的な扱いは避けられないだろうとのことで。


 ちょっと複雑な気持ちがないでもなかったけれど(今回に限ってはウソを言っているわけではないし、ガガイアが押し寄せたのもわざとではなかっただろうから)、まぁ今まで散々ホラを吹いてきたので気にしないことにする。(私もリィゼルちゃんもちゃんとやめろって言ったもんね。身から出たサビということで。)


 ということで、これで私も安泰。

 私が『イルミナ』という秘密を知るのはこれで永劫、ゼノンさんとテグシーさんの2人だけ。……かに、思われたのだけれど。


 実を言うとちょっと例外がいた。

 冷や汗がタラタラで止まらなかったものだ。

 直前まで本当に何気ないトークをしていただけなのに、いきなり「ところでよ」と話変わって。


「コイツ知ってるか?」


 リオナさんが『イルミナ』の手配書を見せてきたときは。

 一応、話しの流れとしては私が起きた直後。


『私いま、ものすごく機嫌が悪いのよ……!』


 と魔力砲をズドンとやった辺りで「あのときのおまえスゴかったなー」からの「いえそんなことないですよあのときはとにかく無我夢中で」と軽く照れていたのだが。


 急転直下。

 目が飛び出そうになる。

 ぎぃやあああと色んな意味で心がムンクになっていた。


 あぁ、そうだ……。

 そういえばあのとき、リオナさんだけ……。


 目が泳ぐ。

 オドオドする。

 一応、誤魔化しはしたのだ。


 「どなたでしょうか……」とか「リオナさんのお知り合いの方なんですか……」とかも一応やった。ひどく狼狽うろたえながらオロオロと。震え声で。


 でもリオナさんはそうして私が何か答えるたびに「へぇ」とか「ほぉ」とか、すんごいニヤニヤしながら面白そうにしていて。


「ま、そういうことにしといてやるよ」


 で結局、最後はそんな感じだった。

 最後まで詰め切らないまま宙ぶらりんにして、口笛をピュイピュイ。

 勝手に何かを収穫していったかのような足取りの軽さで、気まぐれに切り上げてしまう。


 心臓に悪いことこの上ないが、ともかく。


「……絶対、バレてる」


 生殺しだった。




 しかもこれが、リオナさんだけにとどまらない。

 これまたギョッとしたものだ。


「そういえば、アリシアちゃん。あのときのアレ、なんだったの?」

「……え?」


 何食わぬ顔で、ミレイシアさんからそう尋ねられたときは。(変幻術の話をしていた。)

 立ち寄った喫茶店で、おいしそう~とスプーンにすくったデザートを今まさにパクッとしようとしていたのだけれど。(ルゥちゃんやウィンリィも一緒。)


 それがポロリと落ちる。

 見ていたのだと言う。


『早く行って……! 今のうちにリリーラを!』

『えっ……? は、はい……!』


 場面としてはこのとき。

 なんか私の背格好が、フードを被った女の人に変わってたとかで。

 幸い、『イルミナ』とは結び付いてなかったけれど。


「……なっちゃってました?」

「え? うん。なってたよ?」

「…………」


 もう封印しようと決めた。




 そして、さらに……。

 さらにもう1人、いたのだ。

 もっともそれはまだ疑惑で、確定したことではないけれど。


 疑惑の瞬間はあのときだ。

 リオナさんに見られたのと同じタイミング。


 私はあのときライカンさん、ミレイシアさん、ルーシエさん、ジーラさん(正確には岩人形)、アニタさんと順番に大丈夫そうなことを確かめていったけれど。(リオナさんだけよく確認できなかった。)


 もう他にいないよねと、当時のことをよくよく思い出していたら。


 カシャ。(……あっ)

 カシャ。(……ああっ!)

 カシャ。(……あああっ!?)


 と回想シーンの脳内切り抜きが起こって、昨晩は部屋で1人「ああああーっ!??」と声に出して絶叫したものだ。


 というのも居たからである。

 もう1人。しかも私の真後ろに!

 ウィンリィを抱いててくれてた……!


 ということで後日、探りを入れてみる。

 せっかく向こうも会いたいと言ってくれているみたいだったので、細心の注意を払いつつ、その人に。


「ところであのとき、その……。何か妙なものとか見ませんでした……?」

「…………? 妙な、もの……?」

「はい。その、たとえば……。私の辺りがなにか、ヘンだったとか」


 いろいろバタバタしてて、やっとこの日というかつい今しがた初めましてを交わせたばかり。そんな矢先に、早速さっそくのいきなりで申し訳ないのだけれど……。


 自分をマルっと指さしながら、二へっと笑顔で尋ねたのはヨル……じゃなくてやっとちゃんとお名前の分かったウル・オラリオンさんにだ。(というか聞き方ヘタか私!とセルフツッコミも入れつつ。)


 と言っても、疑惑はほぼ確定なのだ。

 だってリオナさんの位置からでも見えていたというのだから、真後ろにいたウルさんが見てなかったわけがなくて。


 だから今日はほとんど、どうか何卒なにとぞと陳情するつもりで来ていた。

 だけど。



「…………? 何のこと?」



 予想してなかったことに、受けたのがそんな聞き返しだった。

 首を傾げて、まったく何のことか分からなそうにウルさんがキョトンとしているものだから、私も拍子抜けしてしまって「あれっ?」となる。


「……見て、なかったんですか?」

「…………? 見るって、何を?」

「だから、その……。私の……」

「…………?」


 いけない。

 これ以上は墓穴だと、私もとっさに口をつぐんだ。


 でも確かに、よくよく考え直してみたらあり得るのかもしれない。

 あのときは光がとにかくバチバチなっててスゴかったし、真後ろだったからこそ顔を伏せてたとか、眩しくて逆行的な意味合いでもそもそもよく見えてなかったとか。


 考えてみるとだんだん、そっちの線の方が濃い気がしてきて。


 そっか……。

 そうだったんだ……。

 良かったぁ……。


 ホッと安堵の息を付き、胸を撫でおろす私だった。

 それから程なく、またお話しましょうねとウルさんとも別れる。

 良かった良かったと心を軽くし、ルン♪と鼻歌交じりにパタパタとかけ去って。



 そんなお気楽さでいるものだから、私はまったく気付いていない。



 ――良かった……。



 実はこのとき、ウルさんもまったく同じ心境でいたことに。

 パタパタ駆け去って行く私の背を見送り、静々(しずしず)と手を振りながら。


「上手く、できた……」


 その口元は、ほんの少しだけ微笑んでいるようにも見えるのだった。



 そして――。

一足先に・・この場を借りまして。

更新のたびにずっとスタンプを付けてくれていた方々へです。


いつ見捨てられるかとヒヤヒヤしてましたが、

まさかこんな長丁場に最後までお付き合いいただけるなんて……感無量です。


ずっとお礼を言いたかったのですが、それはそれでこれからもよろしくと求めてるみたいになるかなと思って控えてました。


どれほど心の支えになったことか知れません。

本当にありがとうございました。(握手したいくらい。)

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