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1.「それからの話をしよう」


 それからのことについて話していければと思う。


 まずはリリーラさんのことだ。

 結局、何がどういうことだったのかは正直、あまりピンと来ていないのだけれど。とにかくつむがれたあの光景シーンは、リリーラさんにとってとても大切な思い出だったらしい。


 たちまちオイオイと泣き出してしまったもので、しばらく1人にしといてあげようとテグシーさんの促しもあってそっと部屋を後にする。「あの様子では今日はもう」と言われ、「そうですね」と私もオイトマしようとしたのだけれど。


 本当にビックリした。

 城門でみんなから見送りを受けていたらズシン、ズシンと誰のものか分かりきった足音がだんだん近づいてきて。


「り、リリーラさん……?」


 無言で見下ろされる。

 そのまま腰を下ろし、両手でそっと掬い取られたかと思ったら。


「あり、がとな……」


 グズグズとまだ泣き腫らした目と声で、リリーラさんがそんなことを。


 かなり珍しいことだそうだ。

 リリーラさんが泣いているのも、誰かに面と向かってそんな謝礼の言葉を口にするのも。だからみんな驚いて、呆気に取られて、私も尻餅をついたままどうしていいか分からなくなる。


 あっそうだ次にリリーラさんとお話するときは今度こそといろいろ決めてきたことがあるのを咄嗟に思い出して(こっちから謝ることもそうだけどウィンリィへのごめんなさいだけは絶対譲れない飼い主としてそこはちゃんと申し立てなくちゃ!)ワタワタもしたのだけれど。


「またウチ、遊び来いよ……」


 涙目でグスンと言われて、それも引っ込んでしまった。

 思う。思ってしまう。

 まぁいっか。いいよね、また今度でと。


 だから私もお返事した。

 はいありがとうございますの後に、にっこり笑顔で。


「また来ますね!」


 ちなみにその夜、ウィンリィとも作戦会議したのだけれど。

 どうしよっかと聞いたら、静かに首を横振り。

 こないだ思いっきり噛みついてやったからもういい。

 気は済んだとのこと。


 確かにあのときリリーラさん、思いっきりガブっといかれてたんだよね。

 血もボタボタ出てて、ケガとしてはそこそこ深そうだったし。

 とくに仕返しとかもなく、そのまま行ってしまって。


 ――それに。


「それに? まだ何かあるの?」

「――――」



 ごめん……。

 ごめんなぁ……。

 痛かったよなぁ……。



 そのときウィンリィが何を思ったのかは、私には分からない。

 でもとにかく、もういいとのことだ。


 悩ましいところだったけれど。

 ウィンリィがそう言うなら良いのかなと結局、申し立てもしないことに。


「ウィンリィ、えらいね! とってもお利口さんだね!」


 その代わりにいっぱい抱きしめ、毛並みをワシャワシャワシャ〜っとお腹をまさぐる。いっぱい、いっぱい撫でてあげる。(ウィンリィも尻尾をフリフリしながらハッハッハと息を弾ませ、期待の眼差しを向けてきたので。)


「もうすっごく、えら~いっ!」


 誉めそやしてやると、体をクの字にクネクネしながら床上でバッタンゴロン。

 嬉しそうにゴロゴロダンスを披露するウィンリィだった。


 ――アンっ!




 リィゼルちゃんのことも良かった。

 そんなに悪い処分ことにはならないそうで安心している。


 まだ子どもだったとか、何とかしようとずっと1人で頑張ってたとミレイシアさんたちの証言もあって酌量しゃくりょうの余地ありと判断。しばらくはグランソニア城で保護観察処分みたいな感じになるそうだ。


 それがいいと思う。

 あそこにはリィゼルちゃんと年の近い子もいっぱいいるから友だちもできるだろうし、私やルゥちゃんも気軽に遊びに……じゃなくて面会に行ける。あと最近ではエンジニア業でももっぱらみんなから頼りにされているとかで。


「ほえ~、器用なもんっすねぇ」


 最初は「可愛げのないチビッ子っすね」といつも通りマウントを取りにいっていたルーシエさんも(もはや習性のように初対面の(かつ自分より弱そうな)相手には必ずそうする)ちょっと見せてみろと言われるままハンマーをカチャカチャとチューニングしてもらってからすっかり「さすがゼルっちっす!」みたくなったし。(ちなみに最初は「リゼっち」だったけどなんか嫌いな人の名前に似ててイヤだったとかでそっちが採用になったらしい。あとさっそくと試し振りしたところガッシャーンとなって数日後に「ルゥウウシエエエーッ!」とお呼びたてをもらう。)


「ここに来てボクっ子かぁ。ウチにはもうオレっ子がいるんだけどね。ああいう風になっちゃダメだぞ?」


 リィゼルあそぼーっ!とやってくる同年代との付き合い方が分からなくて木陰に座り込んでいたリィゼルちゃんに「何してるんだい少年?」と声をかけてからスキを付いてゴーレムで捕縛し「いってらっしゃ~い」とその輪のなかに強制連行してから放り込んだり(もみくちゃにされる)「もしかして鬼ごっこがしたいんじゃないかな」とか「ひょっとして今日はかくれんぼ中かな?」と勝手にそういうことにしてテキトウに炊きつけた子どもたちを「それ行け」と差し向けたりと(やっぱりもみくちゃにされる)良くも悪くも小慣こなれているジーラさんからも、たまに押収した魔道具の解析とか鑑識作業をお願いされていて。


 あとはグランソニア城の壊れてた機能の修繕やメンテナンスとかもちょくちょく。

 そんなこんなでともかく、だんだん馴染めてきてはいるみたいだ。


 で、たまにその報酬というか、おこぼれに預かっている。

 交換した古い部品やネジで気になるパーツを見つけては、テテテと許可をもらいに行くのがアニタさんのところだ。


「なぁアニタ、これ貰ってもいいか?」

「え? えぇ、構わないけれど。何に使うの?」

「ちょっとな。サンキュー」


 またテテテとそれを持ち帰ってしまったリィゼルちゃんに、ハテとルーシエさんが小首をかしげる。「最近なんかよくあんな感じでいろいろ持ち帰ってるっすよね何してるんすかね」と問いかけて、アニタさんも「何かしらね。何かおかしなものを造ったりしてないといいけれど」と気遣わしげにする。


 でもジーラさんだけはその理由を知っていた。

 だから「まぁそんなに心配は要らないと思うよ」と、首を横振りして。


 ――そう。

 答えはリィゼルちゃんの部屋の奥に、ひっそりと安置されている人型だ。


 もう壊れてしまった、かつての愛用機。フルメイル。

 だけどいつかきっと直して、また乗り込める日を夢見て。


「待っててくれよな、相棒」


 見上げた『ヘンゼル』に、リィゼルちゃんはそう笑いかける。

 それはとても無邪気で、年相応なニッカリ笑顔なのだった。




 リクニさんとルゥちゃんはまぁ、相変わらず仲良くやっている。

 なんというか相性バッチリだ。


 ようやく退院できたリクニさん(利き腕の骨折だけまだ残っているものの、それ以外はほぼ完治)を、最近ではルゥちゃんがいろいろ先回りしてサポートしてあげているみたいだけれど。


「いいよ、ルゥ。これくらい自分でやるから」


 とリクニさんが遠慮しようとすると、すかさずルゥちゃんがそこに待ったをかけるとのことだ。リクニはまだケガが治ってないでしょいいから座って待ってて私がやるからとなってプンスカ、むくれてしまうらしい。


 それでもリクニさんが手を伸ばそうとすると、ルゥちゃんがいよいよ「くらー」となって怒りの赤色灯ランプをブンブン振り回すとかそんな感じとのこと。でも結局リクニさんは、そういうルゥちゃんが可愛くて見たくてワザとやっているので思うツボだったりもするのだ。


 それにしても、こんな風に僕を気遣ってくれるだなんて。

 ルゥも大人になったんだなぁ……。


 なんて成長を感じてシミジミしたりもしつつ。

 一方で手を焼かされることも増えた。

 主に再開したお遣いクエストの、難易度的な問題で。


 どうももっと難しいのにチャレンジしたいらしい。

 そう。ルゥちゃんも少しずつ、自立心的なオトナの階段を昇っているのだ。

 それを見守り、根気強く付き合ってあげるのもまた大人の務めというもの。


「ねぇ、ルゥ~」


 これでいいじゃんよぉとご機嫌を伺いつつなだめようとしたところ、ヤッ!と断固拒否のプイをされる。挙句にはやっぱり赤ランプの杖先でほっぺをグリグリされて。


 取り付く島もなしとトホホ、カックリ肩を落とすリクニさんだった。

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