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11-28.「光」


 そうだ。

 このままではいけない。


 自分がいつまでもこんなんじゃ、それこそマーレから叱られてしまうだろう。

 「こら何やってんだいまったくアンタって子はぁ!」から始まり、「今度ばかりはただじゃ置かないよ」とか「シャンとしなぁ」とか、とにかく箒でバシバシ、一喝ドヤされてしまうはずだ。


 そんな想いと、結局5連チャンだった配下たちの励まし(や挑発)も後押しとなって、リリーラは今一度と立ち上がる。


 もうクヨクヨしない。

 たくさん気遣わせてしまったテグシーやミレイシアにも、「心配かけたなでもアタシはもう大丈夫だからよ」と力こぶをパンパンやり、もうすっかり吹っ切れたぜ風をアピールして。


「…………」


 そう。

 言ってしまえば、それはあくまでただのアピール。

 空元気に過ぎなかった。

 本音を言えば、まだどこかに迷いは残っているのだ。


 本当はもう、自分にそんな資格はないのかもしれない。

 それこそ魔女狩り協会から受けている督促とくそくに従い、ただちに魔女狩りという立場から降り、あらゆる権限も放棄するべきなのかもしれないと。


 でもそれをしないで欲しいと、他ならないみんなが言ってくれたから。

 このまま終わったんじゃ、もしまた向こうで再会できたとき。

 最愛の彼女に顔向けすらできなくなってしまうから。



 ごめん、バァちゃん……。

 でも、アタシ……。



 教えてくれたのだ、テグシーが。

 間違えてはいけない。心から悔やんだというならすべきなのは、下を向くことでも立ち止まることでもなく。ちゃんと背負って前を向き、たとえ時間がかかってもまた歩き始めることだと。そうでなければ何も浮かばれないし、むくわれなくなってしまうから。


 そのうえでミレイシアも励ましてくれた。

 覚えてる?と問いかけ、思い出させてくれたのだ。

 重たい荷物はみんなで持とうねって、ずっとまえに交わした約束を。


 リリーラの手はとても大きいからたくさん持てるし、それでも零れそうだったり落ちちゃいそうなものは自分やテグシーが何とかする。それでもダメだったら、3人でまたカーペットでも広げようとも。


 だから――。

 ゴギャアアと空に向かって咆哮ハウルし、一方的でも伝える。

 届ける。マーレに。

 もう遅すぎるかもしれないけれど、やっぱりそれでも見ていてほしいのだと謝罪と決意を込めて。


 それが今のリリーラにできる最大限の決起だった。

 あとはもう、時間が解決してくれるのを待つしかなくて。


 口には出さずとも周囲もどことなくそれを察し、そっとしていた。

 (ウルだけちょっと危なっかしくて、リオナやジーラが止めていたけれど。)




 だが――。

 結論から言おう。

 そんなリリーラのために、彼女はちゃんとメッセージを残していたのである。




 あくる日のことだ。

 ちょっと来てくれないかとテグシーから呼び出しを受けたのは。

 何でも見せたいものがあるとかで。


「見せたいもの?」


 いったい何だろうと思いつつ、仕方ないねと重い腰をあげた。

 ちなみにそれは「自分らしさ」を演じてのことだ。


 この頃のリリーラはとくにそれを意識している。

 以前までの自分はどうだったかを思い返して、できるだけ遜色そんしょくのないように振る舞っているのだ。いろいろ気を遣わせてしまった配下たちに、もうこれ以上はと情けない姿をさらさないために。


 だから一応、振舞いとしては気だるげだった。

 ここはアタシん家だよったく見せたいものだが何だか知らないけどだったら家主を呼びつけるんじゃなくてそれをこっちに持ってくるのが筋ってもんじゃないのかい的な文句をブツクサと垂れながら、ズシズシと移動する。


 そうしておもむいたのはあそこだ。

 城の最奥部にあたる、地下の大空間。


 最後にマーレと相まみえた場所で、激しい戦闘の痕跡やまた片付いていない瓦礫がれきなんかもたくさん残っていたけれど。いったいこんなところで何をと思ったら。


「……ん?」


 足を止める。思いもよらず、たじろいでしまう。

 というのも「やぁリリィ待ってたよ」と手を振るそこには、テグシーだけではない。

 もう1人いたからだ。


 地面に大きく描かれた魔法陣の中央。

 瞼を下ろし、何やら祈るような姿勢で集中を高めている白髪の少女。

 アリシア・アリステリアの姿がそこに。


「なん、で……」


 そんな反応になってしまうのは、先日のことがあったからだ。

 せっかく対話をしにきてくれたアリシアを、リリーラは自己都合のために手ひどいやり方で裏切っている。


 謝らなければならない。

 そう思って、確かにテグシーにも相談はしていた。


 できればまた機会を設けてほしい。

 今度こそちゃんと面と向かって、自分の口からすべてを話すからと。


 でもまさかこんな不意打ちで来るなんて。

 だってまだ、心の準備が……。


「テグシぃ……」


 どうしていいか分からず、戸惑いを露わに助け舟を求めるリリーラだった。

 オドオドし、不安でいっぱいとなった顔つきは、まるで人見知りを発動した小さな子どものよう。その大きすぎる体のサイズともちっとも釣り合わないものだから、テグシーも少しだけおかしくなってしまったけれど。


 違うのだ。

 今回、テグシーがリリーラを呼び出したのは、そんなタチの悪いはかりごとのためではない。見せたいものがあるというのは本当の本当だ。


 だからクスリと微笑んでから、伝える。

 大丈夫だよと。


「見てて、リリィ」


 そのまま「いいよー」と、アリシアに手を振り合図を送って。




 ――そう、偶然だった。

 私がそのことに気付いたのは。


 キッカケはあれだ。

 この城にいくつも開いてしまったという『次元の裂け目』。

 その名残りがまだ城のどこかに残ってやしないかと、ルゥちゃんやウィンリィと探していたのである。


 それが私たちのミッションだった。

 実はまだ残ってたりして、これから入る工事の人たちが落ちちゃったりしたら大変だから。


 ちなみにお願いできないかと最初に声をかけられたのが、そういうのが得意のルゥちゃんだ。


 お遣いクエスト扱いでポイント稼ぎにもなるよと聞かされ、胸ポンで任せてとなったけれど、でもさすがに1人じゃ心配だよねといろんな意味でコミュニケーションの取りやすい私が付添い役として指名される。で、ウィンリィも鼻でクンクンぷらす番犬ごえい役で加わったとまぁ、そんな感じだ。


 実際にいくつか『裂け目』の名残りみたいなものが見つかって、探偵ごっこみたくなっているルゥちゃんがフムフムしてはなるほどここが怪しいですねうまく隠れたつもりかもしれませんがザンネン私の目は誤魔化せませんよ的にパコパコ潰していたのだけれど。


 その流れで、何やら不可解なものが見つかったのだ。

 ここが最後だねとやってきたこの場所で、何もなさそうなところを見上げながらクリンと小首を傾げているルゥちゃん。困ったような顔をしていたので何かと思ったら。


 そのときルゥちゃんが教えてくれたのだ。

 あの辺りから何かヘンな感じがすると。


『えっ? ヘンな感じ?』


 私も一緒になって見上げてみたら。


『……?』


 確かにそうだった。

 うまく言えないけれど、何かある気がする。

 ウィンリィもコクンと頷いていて、といっても『裂け目』のそれとも違いそうだが。

 というか、この空間のあちこちから……?


『あれ、でもこれって……?』


 とそこで1つだけ、私には思い当たる節があった。

 とりあえず消しちゃえばいっかと浄化パコンしかけたルゥちゃんに待ったをかけて、念のためテグシーさんにも相談してみる。


 確かめてもらったらやっぱり、その通りだったみたいで。


『でも、いったい誰が……? 何のためにやろうとしたんでしょう……?』

『そんな……でも、まさか……っ!』


 で、お願いされた。

 何か気付きのあったような反応を見せたテグシーさんから、何とかこれを再現・・することはできないかと。


 ちょっと難しそうだったけれど……。

 見た感じ、できなくもなさそうだった。

 そして今、やっとすべての準備が整ったところになる。


 テグシーさんが描いてくれた魔法陣の補助サポートありきにしろ。

 あとはありったけの魔力を込め、浮かび上がらせるだけだ。



 いったい誰が、何のために……?

 それは、私には分からないことだけれど。



 ただ、とても……。

 とても優しい想いの込められた魔法とだけは分かった。

 誰かが誰かを想っての『願い』であることだけは、ここに散りばめられている魔力の1つ1つから伝わってくる。だから――。


 いいよーとテグシーさんからの合図を待って、私はついに踏み切る。

 一度は発動しかけた痕跡のある、その魔法の再発動に。



 お願いしよう。

 この空間に散りばめられた『光』の粒子たちに。

 呼びかけに応えて。どうかもう一度だけ、集まってと。


 繋げよう。

 繋ぎ留めよう。囁きかけ、導き。

 途切れてしまった誰かの願いを、形ある魔法として届けるために。



「――いきます!」



 収束する。

 次の瞬間、あまねく『光』の粒子が空間に満ち溢れる。

 そして――。


 寄り集まったそれらにより、たちまち頭上に描き出された光景。

 はっきりとは見えないけれど、それは……。


 たぶん誰かが誰かの頭に手をやって、ポンポンとなだめ、なぐさめてあげている、そんな優しい記憶シーン。――過去の再上映だった。


 そう。

 今ここに、再び紡がれたその魔法の名は。



「――『空間の記憶を辿る魔法アルカディアス』」



 口にしたのはテグシーだ。

 見せたかったのはこれだよと示したうえで、問いかける。

 もう分かるだろう、と。これが誰の魔法か。

 凝然とそれを見上げ、言葉を失っているリリーラに。


 つまりはゼノンの言っていた通りだったのだろう。

 マーレにはまだ、自意識と呼べるものが残っていた。

 きっと最後の瞬間、マーレはちゃんとマーレだったのだ。


 そのうえで何かのメッセージを残したかった。

 誰に何を伝えたかったのか。

 その答えはもう、1つしかない。


「――泣かないで」

「…………」

「彼女はキミに、そう伝えたかったんじゃないだろうか」

「…………あぁ」


 ズンと両膝を付く。その場にくずおれる。

 リリーラはもうそれ以上、何も言わなかった。

 ボロボロとその目から大粒の涙を流しながら、あるいは祈るように。


「あぁあ……」


 その優しい光景を見上げ、いつまでも見送っていた。

最終パート リリーラ編 ー終ー


残すところエピローグのみとなりました。

長いので分割し、明日アップします。


残り3話で完結です。

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