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3-2.「たらい回しにあいまして」


 だけど本当に大変だったのはそれからになる。

 立ち寄った市街は入り組んだ町工場まちこうばみたいなところで、魔道具店を求めてスタスタと迷いなく細い路地を進んでいくゼノンさんに私もトタトタと付いていくばかりだったのだけれど。


 まず1軒目。

 すすめられた杖をえいと試しぶりしたら、書類だらけの事務机が丸ごとひっくり返ってしまった。


 2軒目。

 杖を手にした途端にボゥンと火花が散って、杖が芯から焼け落ちてしまった。


 3軒目。

 店内に飾られていた観葉植物たちが、みるみるうちに生いしげってしまった。


 まったく無反応なこともあれば、天井を吹き飛ばしてしまうこともあって。

 お店から追い出されては次、またその次と回っていく。


「おい、一応聞くがイルミナ……。わざとやってんじゃねぇよな?」

「はい……。むしろ何もしないように心がけていると言いますか」

「そうか」


 だんだんお通夜つやみたいな雰囲気になってきたところで、「やれ」と言われたので目をしょぼつかせながらもまたやってみる。すると途端に真空派みたいな風がキュインとなり、パリパリパリンと店内の窓ガラスも何もかもを吹き飛ばしてしまって。


 二度と来んじゃねぇええと店主さんのクレームを負い目に、トボトボと最後の店を後にする私たちだった。


「今さらだけどよ。とんだじゃじゃ馬だな、おまえ」

「ごめんなさい……」


 わざとじゃないんですと申し開くことで精一杯だった。



 ◇



 これならやっぱり、木の枝のほうがマシなんじゃないか。

 あまりにも慘憺さんさんたる結果が続いたもので再度おうかがいを立ててみたら、かなり悩まれたあとに「保留」の判決が下される。


 どうやらもう1つだけ、ゼノンさんには心当たりがあったらしい。

 できれば使いたくなかったカードだがこうなったらやむを得ねぇかと、どこか渋々(しぶしぶ)そうだったけれど。


 ともあれ私たちが足を向けたのは、いったん町工場を離れてから山奥だった。

 こんなところに人なんて住んでいるのか、なんて不可思議に思った辺りで「あれだ」と見えてきたのはひっそりと佇む1軒の山小屋。


 なんとなくだけど、山姥やまんばでも住んでいそうなおどろおどろしい雰囲気が漂っている。するとゼノンさんは断りもなくガラリ、ズカズカとその中に踏み込んでいって。


「ちょっとゼノンさん、人の家なんですからノックくらいは……」


 あまりの無遠慮さを見咎みとがめ、そうたしなめようとしたときだ。

 (軽くブーメラン。)


 ギラリと、暗闇の中で何かがにぶく光る。

 それがゼノンさんの首元に目掛けて、背後から勢いよく振り落とされて。


「ゼ……!」

「よぉ元気そうだな、リィゼル・・・・


 息を呑んだ瞬間、ジャリンと鋭く鉄鎖の音が響く。

 すると小屋の壁を突き破り、物々しい勢いで屋外まで弾き出されてきたのは何やら小岩のように大きな人影だった。


「え、えええっ!?」


 いったい何事かと目を見張れば、それはたくましいがたいの全身武装フルメイルではないか。しかも手には常人では持ち上げるのもやっとそうな戦斧せんぶがずっしりとたずさえられていて、再び無言の構えを取っている。


 先ほどゼノンさんのウナジの辺りに光って見えたのはあれだろうか。

 すると――。


「済まないが帰ってくれないか。ボクはもう魔道具を作るのは辞めたんだ」


 鎧の中から聞こえたのは、そんな単調でくぐもった声だった。


「あ、帰れだぁ? てめぇ何言って」

「済まないが帰ってくれないか」


 さらにゼノンさんの言葉をさえぎるように、フルメイルさんは繰り返す。

 再び姿勢を低くし、チャキっと構えて。


「ボクはもう魔道具を作るのは辞めたんだ」


 そのままドシドシと突貫し、問答無用とばかりに両者の打ち合いが始まってしまった。


「……おいリィゼル。挨拶代わりにしちゃずいぶん念入りじゃねぇか。どういうつもりだ、テメェ」

「済まないが帰ってくれないか。僕はもう――なっ、ちょっと待て! その声、まさかゼノンか!? なんでおまえがここに……! いつ来たんだ!?」

「今だ」

「すまん、勢い余った! ちょっと待ってろ、いま止める・・・・・から!」


 いろいろと不可解だった。

 まるで自動音声のように繰り返されていた単調なセリフがブツリと途切れたかと思えば、打って変わって慌てふためいたような声がしたし。(まるで自動音声が流れてた途中で慌てて本人がマイクを取ったときみたい。)


 勢い余ったと言うわりに、ガギンゴギンと今も打ち合いは続いているではないか。

 いったい何がどうなっているのやら。


 だけどそれも長くは続かなかった。

 しびれを切らしたか、たちまちゼノンさんがフルメイルをがんじがらめにして身動きを取れなくしてしまったからだ。やや遅めの降参を申し出るその頭部をガンと踏みつけ、ゼノンさんは眉間にシワを寄せて見下ろす。


「止まった! いま止めたぞ、もう大丈夫だ!」

「遅ぇよ。つーかテメェ、まさかどさくさに紛れて不意打ちでも狙ったんじゃねぇだろうな」

「バカ言え、不意打ちだって!? おまえを相手にそんな無謀むぼうなことするわけないだろ! 自動操縦に切り替えてて気づくのが遅れたんだ!」

「自動操縦だぁ!? 相手が誰かも分からねぇで切りかかったってのか!?」

「切りかかってなんかない、ちゃんとミネ打ちで設定してたはずだ! それにこんなとこ、普通に考えて誰も来ないだろう!? 警戒して当然と思わないか!?」


 実にうさん臭そうなジト目をゼノンさんが送り、「信じてくれぇ!」とあたふたフルメイルの人が切羽詰まった声で訴えている。


 そんなやり取りの傍らで、私はどうしていいか分からずにオヨオヨしていた。

 ただ気のせいだろうか、いつになくゼノンさんのやり方が乱暴に思えて。


 なにせ鎖の締め付けがすごいきつそうで、今もミシミシとフルメイルがきしんでいるのだ。いくら鎧越しでも、あれではさすがに苦しそうで。


「ゼノンさん、そんなに締め付けたらさすがに痛いんじゃないですか。もう少しだけゆるめてあげたほうが……」


 恐る恐るとそう伺い立ててみると、ゼノンさんは吐き捨てるように言う。


「そりゃ、こいつの中身がまともに詰まってればの話だろうが」

「……えっ?」

「ったく」


 するとゼノンさんはフルメイルのうえをまたぐようにして馬乗りになり、何やらカチャカチャと背中の辺りをいじり始めた。


「お、おい! ちょっと待てゼノン、何する気だ!?」

「何って本人確認だよ。おまえのことだ、下手したら中身だけすり抜けて実は此処にはいねぇ、なんてこともありそうだしな」

「はぁっ!? 何言ってるんだそんなことあるわけないだろう!? ボクはちゃんと此処にいる!」

「だから今からそれを確かめてやんだろうが。そうでなくとも久方ぶりなんだ、ツラぐらいおがませやがれ」

「だからって、こんな……! 分かった、後でちゃんと顔は見せるから! それでいいだろう!?」

「……ダメだ。今、おまえがこっちに出てこい」

「はぁあっ!?」


 中の人はとても嫌がっていた。

 どうも部外者である私に顔とか素性を知られたくないみたいで必死にジタバタしているけれど、ゼノンさんもかたくなにどかず乱暴にガチャガチャする。


「バ、バカやめろ! 本当に何のつもりだ!? 約束の時間・・・・・だってまだ残ってるはずだろう!? しかもそいつ誰だよ、見るからに田舎臭そうなやつだな! あぁちょっと待て! さっきのでハッチが壊れたみたいだ! ちゃんと内側から確認するから……!」


 ベキンと、なんとも取り返しのつかなそうな物音が響いたのがそのときだ。(ついでに中の人の絶叫している。)そのうえでギギギと開かれた暗闇のなかにジャラリと鎖が伸び、そこからサルベージされたのは――。


「……えっ?」


 くぅうと、とても恨めしそうな顔でゼノンさんを睨みつける、小さな女の子・・・・・・

 体格的な意味合いで外身と中身がまったく釣り合っていないこともそうだが、何より驚いたのはその少女の年頃だ。少なくとも、私よりも3つか4つは年下に見える。


「ええと……。ゼノンさん、その子は……?」


 大人気なく、ヘンと勝ち誇ったような顔つきになってからゼノンさんは紹介へと移るのだった。


「こいつはリィゼル。リィゼル・ラティアット。カタギのなかでもかなり珍しい、魔女の魔道具職人だよ」

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