11-16.「時すでに遅し」
ということで――。
これでようやく話は冒頭に戻ってくるわけだ。
ゼノンはいま、大そうブスくれていた。
どうやら自分はまたもいっぱい食わされたらしいと、そのことに気付かされて。
「まぁまぁ、そんなに気を悪くしないで。ヘソを曲げずとも良いじゃないか。こちらだって悪気があってやったわけじゃあ……ぶふっ」
そんな感じにテグシーが宥めてくるが、まともに取り合わない。
取り合うものか。
悪気がないだって?
よくも言ってくれたものだ。
そんなにもニヤニヤ、今にも吹きだしそうになっておきながら。
「るせぇ……」
故にムスッとしたままぶっきらぼうに、それだけを短い返事とするゼノンだった。芝のうえにかいた胡坐に頬杖を付き、ついでにジト目もくれてやりながら――。
どういうことか。話はいたって簡単だ。
ついさっきまでゼノンは、どうやってミレイシアを厄介払いするかの算段をあれこれと練っていたわけだが。
つまりはこの墓参りこそが、そのための罠だったらしい。
謀ったのだ。
どうせそんなことでしょうと、こちらの腹積もりを見越したミレイシアが。
これ以上自分に、ムダな抵抗を諦めさせるために。
『くそ、そういうことか……!? 冗談じゃねぇ……!』
やられた。
そうと気付くなり、ゼノンは立ち上がった。
まだその場に当人の姿こそ見えなかったものの、逃げようとする。
このまま、まんまとハメられて堪るかと。
だがそこで『やめておいた方がいい』と制止をかけたのがテグシーだ。
やけに悠長にしているので何かと思ったら、『どうせもう逃げられない』のあとに彼女は続ける。遠目に見える建物、その屋上付近を指さしながら『ウソだと思うなら、あそこを見てごらんよ』と。
いったいどういうことか。
『あぁ!?』と見やれば、そのテラス的なところに捉えたのが2つほどの人影だ。
遠目にも分かった。
それがリオナ・コロッセオにライカン・オーレリーという、セレスディア屈指の実力を誇る魔女と魔女狩りのものであることに。しかもこれがまた、とても面白いものでも眺めるようにシゲシゲニヤニヤしていて。
『……マジかよ』
ガックリきた。
テグシー1人だけならなんとかなるかと突破口を探っていたところ、まさかその両名まで加担しているとは。
いくらなんでも突破不可能な3人抜き。
その包囲網がすでに十全に完成されていることが判明し、ウゲェと苦虫を嚙み潰したような顔になるゼノンだった。
それだけでもう、十分だ。
こちらから逃走の意志を刈り取るには余りある。
だというのに。
もはや性格的な底意地の悪さだろう。
テグシーの追い打ちはそこで終わらなかった。
『ちなみに』と、もう1つ投下される。
すでに「もういいやめてくれ」みたいな顔つきとなっているゼノンに、その最後のダメ押しが。
『さっきキミはアリシアを使ってどうこうと、なけなしの算段を立てようとしていたようだが。純粋な親切心から先に教えておいてやろう。その手ももう、使えない』
いや、トドメの一撃が淡々と畳みかけられて。
そのときだ。あらぬ方向から、強烈な閃光がピカーとなったのは。
いったい何の演出か。
ともかくそれは、上空に向かって打ち上げられた強大な光。
だけどもう意外なことなんて1つもない。
たぶんそうじゃないかとたった今、その予感が過ぎったばかりだから。
よってゼノンは「ですよねー」みたいな、やる気ゼロの顔付きとなってそれを見上げる。
ほげーと、どこまでも呆然と見送っていた。
その『光』を。
相も変わらず、バカげた威力の魔力砲を。
『まさかそんな見え透いた言い逃れを、彼女が見落とすはずもないだろう?』
そう、すでに手遅れだったのだ。
何もかも。時すでに遅し。
何せ、さっきゼノンがブツブツと唱えていた目論見。
それを成立させるために、まずもって引き合わせてはならなかった2人――ミレイシア・オーレリーとアリシア・アリステリアの両名がすでに。
(片や「もう逃げられないわよ」と宣言するように堂々、自信満々に腕組みし。片や「違うんですゼノンさんこれには事情がありまして」みたいな申し訳なさそうな顔つきをしつつ、できれば隠れたそうにソワソワしている。)
『あぁ……』
きっちり顔合わせまで済ませてそうな雰囲気で、そこに並び立っていたのだから。




