11-7.「またもみょんみょん」
結局のところ、いったい何がどういうことだったのだろう。
一応は舞台にあがっていた役者の1人だったはずなのに、その辺りの事情とか背景的なところが未だにさっぱり見えないままナヨナヨ。どこか釈然としない気持ちで日々を送っている1人の魔女がいる。
たぶん、たとえるならアレだ。
なにか手違いがあって(存在自体を忘れられてたとか)とにかく1人だけ台本を貰えないまま、あなたの役はこれねと渡されたのが申し訳程度に葉っぱの付いた木の枝と、道端の木を描いたようなハリボテ衣装だった。
…………。
なにこれ……?
木……?
たくさんのテンテンテンを挟みつつ、マジマジとそれら小道具を凝視する。その意図を聞き返していいものかと迷う。迷っている間に、ほらもう始まるよ配置に付いて早く早くと急かされて。
で、とりあえずはそのまま「木」をやってたみたいな。
ビィーッとブザーが鳴って開演。あれ私ここに居ればいいであってるんだよね、と時おり気になったりもしたけれど、あまり深くは考えない。
いったいこれが何の演目なのか、どういうシーンなのかもよく分からないまま、一応は登場人物としてキャストイン。言われるがまま、なるべく存在感を出さないよう注意は払いつつ、その場に呆然と佇んでいた。みたいな……?
とまぁそんな具合に終始、付いて回った置いてけぼり感が彼女――ウル・オラリオンの、あの騒動における実直な感想と立ち位置の振り返りになる。
混乱の収まった直後はなかなか、それを確かめるどころではなかったのだ。
なにせいきなりアリシアが行方不明になったというから。
一生懸命、探した。
いよいよ探すところがなくなって、もうセレスディアにはいない可能性が高いとなってもウルは1人、城を彷徨い歩くようにしてアリシアを探し続けていた。
『やっぱり、いない……』
すでに再三に渡って確かめた業務用ゴミ箱。
そのフタをカポリと開け、また空っぽの底がおまみえしては肩を落とす。
そんな日々が続いて、夜も気になってなかなか寝付くことができなかった。
まぁそこはいったん解決している。
『無事に見つかったそうよ』とアニタが教えに来てくれたときは、心底ホッとしたものだ。これでようやく、胸のつかえも取れてくれると。
『良かった……』
胸に手を置き、そう安堵の息も零したが。
そんな一大事があいだに挟まったものだから、聞き出すタイミングをすっかりを逸してしまって……。
ちなみにこういうとき、大抵ウルは静かなところで思い悩むものだ。
たとえば自室とか。(アリシアのときがそうだったように。)
ベッドやイスに腰かけ、言葉もなくジッと俯いている様子はさながら大切な人を失ったばかりの未亡人のように映るかもしれない。でもそれがウルにとっての、れっきとした『考える人』ポーズであることをここに断っておく。
考えごとが行き詰まったなら、たまにはふらっと散歩にも出かけよう。
ただそれはそれで同じところを行ったり来たりするので、ハタから見ると心ここにあらずと徘徊しているようにしか見えず、仲間の魔女たちから心配されてしまうこともしばしばだったりするが、さておき。
残念ながら今回、そうはできなかった。
なにせ自分の部屋が無くなってしまったからだ。
よく分からないけれど。
例のプリズンブレイク騒動のとき、リリーラが何かを殴り飛ばしたらしい。
レーザーみたいにピュオンとなったそれがものの見事にウルの部屋を貫通、斜めに突き抜けたとかで。
『…………ひどい』
いろいろと木端微塵となった自室の惨状を目の当たりとしたときは、そこそこもの悲しくなったものだ。ようやく住み慣れてきたところだったのになと、そんなことを思いつつシュンとなる。
それでも使えなくもなさそうだったので、しばらくは半壊した部屋の片隅に腰を下ろして居座ったりもしていた。でもついには後からやってきた修繕工事のオジサンたち(図面を持ってヘルメットも被ってたからたぶんそうだろう。)に「あっち行ってて」されてしまって。
「…………」
でまぁ行き場を失くしつつ、最終的に行きついたのが今いるこの場所だった。
そこはグランソニア城の敷地内。
だだっ広い緑の景観のなかにポツネンと佇む木、その木陰である。
どこか落ち着けそうな場所はないかと、行ったことのないエリアまで足を延ばし、フラフラと彷徨い歩くことしばらく、ようやく見つけた穴場スポットがそこだった。
岩谷暮らしが長かったもので、できれば屋内が良かったけれど。
いまや城域内はかつてないほど人の出入りが多くなっていて、あちこちでズガガガとかトンテンカンと騒がしくなっているので諦めるしかない。
ともかく――。
そんなこんなでようやく、話は出だしのところに戻ってくるわけだ。
吹いた風にザァと草原が波立ち、いい感じに揺らめく木漏れ日をぼんやりと見上げながら、ウルは考えていた。結局あれは、いったい何がどういうことだったのかと。
とりわけ気になるのは、プリズンブレイクが起こるより前のクダリだ。
アリシア奪還プロジェクト。
そんなものが持ち上がることになった諸々(もろもろ)の事情とか背景的なところはひと通り、ミレイシアから共有を受けているが。
そもそもよく分からない。
なんでゼノンが嫌われ者なのかとか、どうしてあんなにもミレイシアが一生懸命だったのかとか、その辺りのたぶんかなり根本的なところが。
全部終わって落ち着いたら、改めて誰かに聞いてみようとは思っていた。
でもさっきのバタバタで乗り遅れて、ちょっと今さら感が否めない。
そんなこんなでまたも、ウルの日々はみょんみょんと過ぎ去っているところだった。
いつ誰に尋ねに行ったものかと思い悩む。
だがそんなナヨナヨタイムも、間もなく解消されることになるのだ。
騒動から1週間。
リオナがフルボッコにしたと聞いていたとはいえ、あんなことがあった直後なのだ。きっと思うところもあるだろうからそっとしておこう。
そんな気遣いもそろそろ潮時か、もう放ってはおけないと内内で示し合わせたジーラとルーシエが励ましの声がけに向かったことによって。
なんでいきなりやってきた2人からやけに明るく振る舞われたり、元気を出して的に肩ポンされたりしたのか。
「…………ん?」
イマイチその所以が分からないまま無表情にクリン、小首をかしげるウルだった。
でもまぁ、おかげでようやくキッカケを得る。
とくにルーシエはミレイシアと仲が良く、一緒に居ることも多かったとかで色々知っていたみたいだ。
聞いた感じ、どうやら『ドカっち』というのがゼノンのことらしいけれど。(後から「ワーイ何してるのー!?」とやってきてしまったチビッ子たちの相手は、ジーラが岩人形を起こしてほれほれと務めつつ。)
それはウルが聞いた、ダイジェスト版のあれこれだ。
つまり、まとめると。
ゼノンにはちょっとした隠し事がある。
いや、あった。
それを最初に見抜いたのがミレイシアだ。
何でも、危ないところを助けられたとかで、お礼をしようとミレイシアの方から彼の自宅を訪れたらしいが。
その結果「あーっ、やっぱり! そういうことだったのね!?」となって。
まぁそんなこんなでゼノンとミレイシアの交流は始まったわけだ。ゼノンが魔女狩りとなってからは、一緒にいる頻度もグンと増えて。
なるほどそういうことだったのかとふむふむなる。
「…………で?」
「その先のことは、アッシもよぅ分からんす」
肝心なところは結局分からず仕舞い。
ちょっと尻切れトンボな感じではあったけれど。




