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11-1.「ただいまってそっちじゃない」


 昔々、あるところに……。

 いやそんなに昔でもないけれど。


 じゃあ、どうなるんだろう? 今は今?

 いやそれはそれでちょっと違う気がする。まぁいいや。

 とにかくとても深い森の奥に、1人の魔女が住んでいました。


 魔女はとても怖くて、恐ろしいです。

 我こそはと勇敢な人たちが次々と立ち上がり魔女に挑みますが、みんな負けて追い返されてしまいます。でも魔女は決して戦いが好きとか、誰かを困らせたくてそうしているわけではありませんでした。


 実をいうとその魔女には、ある秘密があったのです。

 それは――。


「うーん……」


 なんかイマイチだなぁとなってムムム、そこでいったん思索を打ち切り、悩ましげに眉根を寄せる私だった。ちょっと時間を持て余していたもので、この身の上話を絵本チックに語り出すならどうなるのだろうと考えていたのだけれど。これがなかなか、うまくできない。


 もちろんこの先の展開は決まっているのだ。

 そこにめっぽう強い魔女狩りさんがやってきて、魔女は歯も立たずに負けてしまう。

 そしたらポンとなって、その魔女が抱えていたまさかの秘密が明らかとなるわけで。


 何といっても自分の話だからね。

 ちょっと脚色くらいはするかもしれないけれど、行き詰まるということはないだろう。


 でもなんかこう、話をうまくまとめられない。

 あくまで絵本だから、10~15ページくらいが読みやすくて良いと思うのだけれど。あちこち事情が複雑というか、どうにも小難しくって。


 どうにかカットして繋げられないかとクリンクリン、ああでもないこうでもないと散々考えあぐねてはみる。でもダメだった。


「だぁぁ……」


 最後には体を倒すようにしてバンザイ、懐かしい木目の天井・・・・・を見上げることになって。しかも最悪なのは、よしんば繋げられたとしてもオチがひどいことだ。


 少なくとも、このままでは――。

 だって、そうだろう。


 魔女はすき好んで人々と相争っていたわけではなかったのだ。

 そうと信じてくれた魔女狩りさんがせっかく、魔女を森から連れ出してくれたのに。

 いろいろなことに目をつむって、知らんぷりまでしてくれたのに。


 私は結局、またこの場所に戻ってきてしまったのだから。

 つまり、いったんめでたしめでたしっぽく終わった絵本の締めくくりはこうなる。


 『でも結局、魔女はまた同じ場所に戻ってきてしまったのです。』


 ……まんまじゃない!


「もう、なによそれーっ!!!」


 考えてたらだんだん腹が立ってきて、大の字のままクラーと手足を突き上げる私だった。抗議する。天井にニュルリと、大蛇のように巻き付いている太い木の根・・・・・に向かって。


 ――そう、これはあれだ。

 『ガガイア』とかいう品種の、かつて私を「逃がさないぞー!」としてきた魔樹の根っこ。本当にビックリした。


 夢かと思った。

 だって昨日起きたら、いきなりこんな場所にいるんだもん。

 そのときはまだ何処とも知れない森の奥としか分からなかったけれど。


 どういうこと?????って、いくら目を白黒させても足りないくらいチンプンカンプンで。でもこうなる直前のことを思い出して、へっへっへようやくお目覚めですかいお嬢さんみたいな感じで這い寄ってきたこの根っこを見て、ようやくピンときた。


 たぶん私は、またさらわれてしまったのだ。

 この根っこに。どっかの誰かさんのせいで一時、私が暮らしていたこの『霧の森』とグランソニア城が繋がっていたという事実から察して。


 詳しいことは分からないけれど……。

 たぶんまだどこかに抜け道みたいなのが残っていて、隙を付いてそこからコッソリ、私を置き引きしてきたのではないかと思う。……うん、状況からしてそれしか考えられない。


「もしかして、そういうこと?」


 確かめると根っこは「さぁてな」みたいな感じで、挑発的にクネクネしていた。

 なんかやけに距離が近いし、感情表現も豊かになってないかとツッコミも入れたくなりつつ。


 そこでクイと、気を取り直したように根っこは鎌首をもたげる。

 まぁ当然、そうなるだろう。どうしてこの魔樹がそんなにも私に執着しているのか、理由なんて1つしかないのだから。


 さっそく、ありつかせてもらうつもりのようだ。

 雰囲気的にはカエルに睨みを利かせるヘビと言ったところか。

 勝手に吹きだしを付けさせてもらうと「ずっとこのときを待ってたんだ」とか「言っとくが叫んだってムダだぜ、泣こうが喚こうがどうせ誰も来やしねぇ」とか、たぶんそんなありきたりなセリフをいま言っている。そして――。


 またチューチューさせてもらうぜぇえええ、みたいな感じで飛び掛かってきて。

 でも残念、そうはならなかった。太い樹根に腰からグルりと巻き付かれるけれど、ガガイアもすぐに「なにっ!?」となって、その異変に気付いたに違いない。


 吸えないのだ。

 例えるならあれだ、まだキンキンに冷えているアイスクリームシェイク。

 少し溶けるのを待ってからじゃないとなかなか吸えないよね。ストローで頑張っても全然吸い出せなくて、ほっぺがすぼまっただけとは誰しも経験のあることと思う。たぶん。


 今がそれと似たような状態だった。

 ドレインされかかるところを、そうはさせじと私が一生懸命、固めて引き戻しているのだ。


 おのれ小癪こしゃくなとガガイアも頑張ってはいたけれど、私はガンとして明け渡さない。中身タプタプの硬いヤシの実と化し、徹底して魔力を封じ込めて。


 だったら力づくでとばかりに、次にガガイアが乗り出してきたのが実力行使だ。

 巻き付いた触腕に力がこもり、グッとお腹を押し込まれる。

 どうやらそのまま締め上げようとしてるみたいだけど。


 それを黙って見ている私ではなかった。

 こらそんなことしたら苦しいでしょと、手に溜めこんだプチ魔力砲で根っこを部分破壊。えいやと振り解いて見せて。


 「なにおう!?」「負けないんだから!」とそんな攻防が続く。

 続いた末にカンカンカン、やがて鳴らされた勝者のゴングは私のものだった。

 アイムウィナーだ。


 ちくしょうどうなってやがんだだっておまえついこないだまでそんなに強くなかったじゃねぇかよとハァハァ、ガガイアが息切れしているけれど(イメージの話)。


 私からすると至極当然の結果だ。

 おかしなことなんて何もない。だって私がこの森で何も知らずにチューチューされていたときから、もうそれなりの月日も経っているのだから。


 なのでエッヘンと胸を張ってから、私はちょっと得意げにもなる。

 知らないなら教えてあげるよと指振りを交えながら、ふふん残念でしたと解説を入れてあげた。人は成長する生き物なんだよと。


 するとガガイアは認めねぇそんなの認めねぇぞとプルプル悔しそうに震えながら地団駄を踏んで、最後には覚えてやがれえええと捨て台詞とともに退散し――。


 ……いや、さすがにそこまでコミカルなことにはなってないけどまぁ、大筋は大体そんなところだ。まんざらでもない結果で格付けチェックを終えた私はルンルン、それからすぐにも森を発とうとした。


 こうしてはいられない時間はかかるかもしれないけれど何とかしてセレスディアに帰らなくてはと思い立って、じゃあね~と意気揚々にバイバイして。


 だが――。

 帰れないのである。前のときと一緒だ。

 少し進むと濃い『霧』が立ち込め、気付いたら元の場所に戻ってしまう。


 ちょっといい加減にしてよ私もう帰るんだからと、トボトボ控え目に付いてきていた『ガガイア』に私はすぐにもクレームを入れた。まだ懲りないのこれ以上しつこくするならホントに許さないからねと剣幕をもって詰め寄る。ところが返ってきたのがまさか、オドオド首を横振りしながら「お、俺じゃねぇよ……!」みたいな反応。


「そんなわけないでしょ! だったらなんで……!?」


 言いかけて、ハッとなる。

 そういえばと思い出したのだ。まえにゼノンさんが言っていたことを。

 確かこの『霧』は、この森――というか土地自体が持っている性質みたいなものだとか何とか。


 いわば森全体が食虫植物みたいなもので、一度捉えた栄養源をなかなか外に出さないようになっているのだと言う。それまでてっきり私はガガイアという魔樹の単独犯だと思っていたから、そこで複数犯だったことが判明して、そうだったんだとなって。


 つまりは、そういうことらしかった。

 成長した私は、ガガイアのドレインこそ振り払えたけれど。

 肝心の『霧』が突破できずに、いま再び帰路を阻まれている。


「そんな……」


 またこの森から、出られなくなっていて――。

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