2-12.「ということで、いざ旅路は再開す」
魔女のヨルズさん(結局、本当の名前を尋ねる機会はなかった)を迎えに行ったら、指名手配されていた元魔女狩りさんがそこに潜伏していて思わぬ捕物騒動となってしまった。
ざっくりいうとそんな感じだった今回の一件なのだが、そこで判明した思わぬ事実がある。どうやらゼノンさんは魔女狩りさんたちの中でも相当、腕が経つことで知られるかなり有名な人だったらしい。
よく分からないけれど、ゼノンさんの魔法は相手の魔法を無効化したり無力化したりできるという、魔女狩り稼業にはとても打ってつけな力だそうだ。
後から増援にかけつけた魔女狩りさんたちが、ゼノンさんを見るなりぎょっとしたり、やけに恐れ多そうにしていたので何かと思ったら。「実はね~」と人差し指を立てながら快く教えてくれたのが、その中にいたゼノンさんのお友だち――リクニさんだった。
余計なこと吹き込むんじゃねぇよと、本人は少し迷惑そうにしていたけれど。
そんな一幕を経て、話題は私の方へと移る。
「ところでゼノン、この子はどうしたんだい? まだ子どもみたいだけれど、魔女だよね」
「あぁこいつか。偶然拾ったんでな。これから王都に連れ帰るところだ」
「拾ったって、どこで?」
「ロマールから来たそうだが、もう使ってなかった俺ん家に勝手に巣食ってやがったんだよ」
「ええっと……どゆこと??」
それからゼノンさんが口にしたのは、孤児院を出たあとに私も経由したことのある別の地名だった。どうやらそこにもゼノンさんがたまに使う拠点みたいなところがあるそうで、私が巣食っ……仮住まいさせてもらっていたお家をそっちということにしようとは、事前にゼノンさんと打ち合わせていたことになる。
それで時系列的にもギリギリ矛盾はなくなるし、事実の歪曲も最小限で済むからと。だから私もそれに話しを合わせ、へツラ笑いを浮かべながらコクコクと頷いていた。私が『イルミナ』だとバレないように、便宜を図ってくれているゼノンさんのご厚意にあずかって。
「なるほど、そういうことか。いやしかしこれは、なるほど……」
するとマジマジ、すごく不可解そうな視線を私に送ってくるリクニさんだった。
ふむふむと呟きながら、あらゆる角度から観察される。
とても落ち着かない時間が過ぎ、心なしかゼノンさんの顔付きにも少し焦りが見えて。
「金の卵じゃないか!」
「へっ?」
するとすごくキラキラした顔付きで、リクニさんから下されたのがそんな評定だった。
「すごいよゼノン、この子はかなりの有望株だ! あと2,3年もしたらぜったい化けるね! 僕が言うんだから間違いない!」
「お、おう……。よく分からない自信だがまぁ、確かにそうかもな。魔力操作さえ覚えれば多少はマシに」
「ぜったい美人さんになるよ!」
「ざけんな」
間髪入れずにジャリンと鎖がウィップし、リクニさんがふぎゃあとなる。
とても痛そうに腰をサスサスしていて。
「ひどいよゼノン、軽い冗談なのに」
「あぁ、まともに答えた俺がバカだった」
ちなみに後で分かったことだが、リクニさんは魔女狩りのなかでもすごく女性人気が高い人らしい。とても顔立ちの整ったイケメンさんだ。
ゼノンさんとは長い付き合いで、普段はお茶目な人柄のようだが。
そこからは真面目な口ぶりで『イルミナ』というワードも出てくる。
「…………」
気まずい。
あっそれって私が聞かない方がいい話ですよね~あっちいってますねぇと空気を読むフリをしながらウフフ、そろそろとフェードアウトしていく私だった。
◇
ともあれ色々あったが、後のことをリクニさんたちに任せ、旅路を再開した私たちである。
ところで――。
ここで1つ、哀しいお別れの報告がある。
「あううぅ……」
荒野を歩きながら視線を落とし、深い悲しみに暮れている。
そんな私の手の中にあったのは、愛用していた魔法の杖――もとい木の枝だ。
しかし、昨日までの元気な姿はそこにない。
半ばからバッキリ折れ、完全にご臨終してしまっていた。
なんだか今朝から調子が悪い感じがして、なんか変だなぁと試し振りをしていたのだけれど。そしたらさっき、バキンといきなりこうなってしまったのだ。
なんでぇと弱々しく訴えていたところ、ゼノンさんが言う。
「だから言ったろうが。あまり強い魔力を込めすぎると壊れるから、加減しろよって」
「えぇ、そうでしたっけ……? まったく覚えが……」
「言ったっつの。そいつに魔力回路をこじあけてやったときだ。聞いてなかったのかよ」
そういえばと思い出す。
確かにあのとき、ゼノンさんは何か注意事項みたいなことを補足していた気がする。
でも途中で魔力のコントロールが効かなくなって、それどころではなくなってしまったのだ。
「でも、ゼノンさんが言ったんじゃないですか……。全力でやれって」
「…………言ったっけか」
「言いましたよねっ!?」
ギャイギャイとなる。
さしものゼノンさんも、こればかりは言ってねぇとはできなかったのだろう。
これで過失割合は五分五分で、ゼノンさんもミスった風に頭をガリガリやっていたわけだが。
とはいえ時間の問題だったとのことだ。
どこまでいっても、これはただの木の枝。
遅かれ早かれこうなっていただろうと。
言われてしまえば「そんなぁ……」となるしかない。
壊れてしまったものはもう戻らない。
住み慣れた我が家といい、このところこんなお別ればかりだった。
ぶえええとなって、涙が止まらなくなる。
「私の杖……私の杖がぁ……」
「何が杖だよ、その辺に落ちてた木の枝だろうが」
「杖ですよぉ。これがあったから私は今日まで……」
「そうかよ。なんでもいいが、とっととその辺に捨てちまえ。いつまでもメソメソしてんな」
ぐすんとなりながら、その亡骸をリュックに納める私だった。
誰に何と言われようとこの杖は私の大切な思い出で、あの森で一緒に戦った仲間なのだ。捨てたりなんかしない。
ありがとう、杖さん。ゆっくり眠ってね。
そんな哀悼をささげてから、俯き加減になって道を歩いていたときだった。
「あっ」
ふいに荒野の向こうに、私はそれを見つける。見つけてしまう。
少し曲がっているけれど、それは実に手ごろそうな木の枝だった。
すかさずタタタと拾いに行って、帰ってくる。
とても胡散臭そうなジト目で、ゼノンさんが私を見下ろしていた。
「おい、イルミナ。一応聞くが、そいつをどうする気だ?」
「私の新しい杖にします」
「捨てろ」
「いやです」
きっぱりと私はお断りした。
もう決めたのだ。この子をお迎えすると。
すると深いため息とともに、ゼノンさんは歩みを再開してしまって。
「ゼノンさん、あれやってください! こないだのメキィってやつ」
「やなこった」
「お願いします!」
「絶対やらん」
お願いします、お願いします!
ねぇやってよおおおーっ!
そんな切実な訴えとともに、王都へ向けた私たちの旅路は再開するのだった。
パート2はここまでです。
次話からパート3に入ります。
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