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【完結】「森に住まうこわ〜い魔女」のフリをしていた私、ボッチの最強魔女狩りに拾われる ~助けてもらったので、なるべく恩返しできるよう頑張りたいと思います~  作者: あなたのはレヴィオサー
10.グランソニア城(決戦編)

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10-14.「魔力砲」


 杖先に『光』を溜めて、ズドンと撃ち出す魔力砲。


 少し前までは杖先ではなく枝先だったけれど、ともかく。

 それが私の一番得意とする魔法だ。

 ちなみに初めてできたのは、私があの森にとらわれてまだ間もなかった頃。


 当時の私はいろいろと大変だった。

 というかパニックになっていた。


 自分が魔女だと知ったばかりで、頼るあてもないままどうにか辿り着いたのがあの森とおうちで。ひとまず屋根のある生活を取り戻せたのは良かったけれど、この先どうしていいかなんてまるで分からない。そのうえ気付いたときには、森からも出られなくなっていて。


 本当にもう、何が何だか分からなくなっていた。

 そうこうしている内に、森に魔女が住み着いたとウワサを聞きつけた人たちが我先にとやって来てしまう。


 最初のうちはどうにかやり過ごすこともできたのだ。

 でもだんだん、そうもいかなくなった。

 最終的には私を探して、大勢の人が来てしまって。


『そんな……』


 いけない、このままではおうちの場所も見つかってしまう。

 付近のしげみに身を隠しながらそんな不安がよぎったとき、私は気が気でいられなかった。どうにかして追い払わないといけないと、それだけで頭の中がいっぱいになる。


 でも、どう考えたってかないっこないのだ。

 相手は複数人で、みんな大人で、武器だって持っているのに。


『でも、このままじゃ……。早く何とかしないと……』


 そのときだ。

 ふいにそのやり方が頭に浮かんだのは。


 どうしてそんなことが思いついたのかはよく分からない。

 でもとにかく気付いたときにはもう、私は近くに落ちていた木の枝・・・を手に取っていて。


『ダメ、そっち行っちゃ……! 帰ってええーッ!!!』


 思いっきり振り下ろしたところ、ズオオンとなった。

 雷みたいに強くて大きな光がズガガと屈折しながら地面をひぐって、気付いたときにはヒィコラなりながら、その人たちも逃げていて。


『……へっ?』


 体勢はそのまま、私もただただ呆気に取られるしかなかった。

 とまぁ、大体そんな感じだろうか。

 私がこの魔力砲を体得した経緯は。


 余談はある。

 そうやって難を逃れたは良いものの、同じような人が後を絶たなかったのだ。やってきては追い払い、またやってきては追い払いの繰り返しだった。しかも、なかには再挑戦してくる人までいて……。


 どうしたらもう来ないでくれるんだろう?

 私は一生懸命、考えた。


 そうして絵本を参考に、怖い魔女のフリをするようになったのである。

 それがご存知、光芒の魔女『イルミナ』の始まりなわけで。


 ともかくそれから私にとって魔力砲は最後の切り札、頼みの綱となっている。

 たくさんの窮地をそれで逃れてきたものだ。と言っても結構危ないので、使うとしてもいざというとき、ここぞという場面だけとは決めているけれど。




 ――とまぁ、そんな話はさておき現在。


「あの人、敵であってますか!?」

「えっ……? う、うん……たぶんそうだと……」

「ですよね! リオナさん、離れてくださいっ!」


 ヨルズさんはやや言いきれなそうにしていたものの、状況からしてほぼ確定だろう。今がその使いどころだと間髪入れず、私は声を張り上げる。


 でもさすが、そうするまでもなくリオナさんはもう動いていた。

 私が呼びかけるが早いか、「ちぃ……っ!」とすでに戦線を離脱して。


 「アリシア!?」とアニタさんが驚いたように振り返り、同じく「アリっち!?」とルーシエさんも埋もれた瓦礫の中から体を起こす。「おおっと……?」と意外そうな反応を示しているのは岩人形(ジーラさん)だ。


 驚いたようにしているライカンさんやミレイシアさんも含め、その頃には私が起きていることに全員が気付いていた。そして――。せめて嫌がらせになればくらいの気持ちで、私はズドンと撃ち込んだのだけれど。


「へっ……?」


 なんとまぁ肩透かしなことか。

 これがちっとも効いていないのである。


 威力はいつも通りだし、手ごたえもあった。

 でも土埃が晴れてみればその人は平然と立ったまま、片手をあげているだけだ。たぶん別の魔法で相殺されたのだと思うけれど、とにかくぜんぜん平気そうにしていて。


「うそ……」


 正直、ショックだった。

 だって今までこれを受けて倒せなかったのは、それこそさっき膝の皿や側頭に直撃させても倒れなかったリリーラさんくらいのものだ。


 あのときもビックリしたのに、こんな短時間でまたもだなんて。

 いや、でもそうだ。当たり前じゃないか。リオナさんたちがたばになっても苦戦しているような相手に、私なんかが紛れ込んだところで足しになるわけがない。


 むしろなんで役に立てると思ったのだろう。

 今となってはそっちの方がナゾでひぇええとなる。


「バカ、すっこんでろ! おまえがどうこうできる相手じゃねぇ!」

「ごめんなさぁいっ!」

「ルーシエ、ジーラ! いつまで寝てやがんだ、早く起きろ!」

「うーん、直接見えないと中々ねぇ。やっぱり今からでも、私もそっちに行こうかな」

「なんでこう揃いも揃って、ウサギ使いってものが荒いんすかねぇ。もうちょい動物愛護法ってやつを尊重してほしいところっすが」


 そうしてまた4対1の攻勢へと戻っていく。

 私なんかじゃ嫌がらせもできないレベルの、別次元の戦闘が目のまえで繰り広げられて。


 だけどもう、みんなとっくにボロボロだった。

 今は何とか持ちこたえられているけれど、たぶんそう長くは続かない。


 何か手を打たなければ。私はそう思った。

 でも魔力砲はたったいま片手で防がれてしまったばかりだし、他にできることなんてなくて。


「どうしたら……!」


 頭を抱えかけたそのとき、ハッとする。

 そうだと思い至る。あるではないか。

 やれたではないかと。


 違ったのだ。あのとき――。

 散々はじかれたあと、リリーラさんをノックアウトできた最後の一撃のときだけは明らかに。いつもとこう、なんか手から伝わる感覚みたいなものが。


 うまく言えないけれど……。

 あのときだけは何と言うか、リミッターみたいなものが外れていたような気がする。


 もしかしたらまぐれ当たりとか、リリーラさんの打ち所が偶然すごく悪かったとか、そういうのも込み込みの幸運ミラクルなのかもしれないけれど。


 あれくらいの出力をもう一度出せれば、あるいは……?

 そう思った。けれど、分からない。

 どうやったらあれをもう一度できるのか、その肝心なやり方が。


 あのときはウィンリィを助けるためにとにかく必死で、無我夢中だった。

 あとはちょっと怒ってもいた。だってリリーラさんがあんまり我がままで、周りの人たちをみんな振り回してばかりだったから。


「怒り……?」


 また思い出す。

 そういえば前にテグシーさんが言っていた。


 魔法を強くするのは感情、即ち『願い』の力だと。

 確かそうしたいと強く願ったとき、魔女は思わぬ形でそれが発現したり、魔力が高まったりすると教えてもらった。


 だとしたら合点がてんはいくような気がする。

 魔力砲を初めて身に着けたときはとにかく家に踏み込ませたくないと気持ちでいっぱいだったし、さっきはウィンリィを助けたいとその一心だったから。


 だったら――!

 私は強く、強く、イメージを重ねる。


 あれをもう一度できる自分を。

 今までで一番強い力を発揮している、自分の姿を。


 ちなみに『願い』にもっとも近い感情は『怒り』や『悲しみ』と、残念ながらマイナス方面のソレだそうだ。だからそういうことをできるだけいっぱい、たくさん思い出すようにして。


 でもきっと、それだけではダメだと思った。

 いくら「私はいまとても怒ってるー!」とか「悲しんでるー!」とか言い聞かせたところで、感情が間に合ってくれない。それならば――。


 私はいったん心を静かにする。

 私ではない別の誰かをイメージし、その人に成りきるために。


 そしてそういう誰かに成りきるなら、はまる役は1つしかなかった。

 怒ってるだけならリリーラさんでもいいのかもしれないけれど、私はそれ以上に適任の人を知っている。


 あの人だ。

 争いの絶えないこの世をはかなみ、いつだって深い怒りと悲しみ、何よりどうしようもないやりきれなさに満ちている彼女。


 ――そう。

 私の大好きな絵本に出てくる、こわい魔女。


 とても久しぶりのことにはなるけれど。

 大丈夫、ちゃんと覚えてる。

 できそうだ。


 だから私は、そういう冷めた感情で心をいっぱいにした。

 その役に成りきって、しっかり演じきるために。



「――ねぇちょっと、あんまり調子に乗らないでくれる?」



 声に出すと、ちょっと懐かしい。

 こうなったらとことん成りきってやろうと思って、そういう口調を練習したこともあったから。


 けれど今はそんな感情も納めて、静かに立ち上がる。

 すっと腕を伸ばし、構えた杖先をまっすぐ、その人へと差し向けて。



「私いま、ものすごく機嫌が悪いのよ……!」



 ズドンと、視界いっぱいに光が満ちたのが次の瞬間だった。

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