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2-10.「薙ぎ払いビーム、改め」


「……ッ!?」


 いったい何が起きているのか。

 黒鉄くろがねの檻のなか、私はひっしと杖(本当は木の枝だけど)を握りしめて、通路の奥にある鉄扉を見据えていた。


 ゼノンさんがあの向こうに姿を消してから、もうどれくらいが経っただろう。

 激しい戦闘が始まったことは、魔力の気配と物音ですぐに分かった。

 しばらくそれが続いていたのだが、直後。


「――――!」


 聞こえてきたのは、悲鳴のような女の人の叫び声だ。

 それもここまで届くほど大きくて、けたたましいまでの。


 お願い、もうやめてと。

 泣き叫ぶようにして、その声は何度も助けを求めていた。


 それが何度も、何度も続いて。

 より一層大きな絶叫が響いたところで、私は耳をふさぐようにしてうずくまる。

 恐ろしくて、ただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。


 するとある時点から、急にそれが聞こえなくなったではないか。

 直前まであんなに激しかったはずの戦闘音も気づけば止んでいて、魔力の気配さえまったく感じられない。不自然なほどの静寂せいじゃくが数分も続き、いよいよ不安に駆られ始めたところで。


「いぎゃああああああああああああっ!?」


 今度響いたのは、さっきとはまた別の男の人の大絶叫だった。

 ゼノンさんのもの……ではないように思う。

 けれど私は祈るような気持ちでいっぱいだった。


 今すぐにでも駆けつけて、一目だけでいい。

 あの扉の向こうの様子を確認したい。


 でもゼノンさんとの約束があるし、物理的にも出られない。

 うーんとなって、ヤキモキする。


 でもゼノンさんは言っていた。

 このおりが変わらず堅牢けんろうである限り、自分は無事だから心配するなと。

 その言葉を信じて、待つしかなかった。


 どうかどうかと、目をつむりながらいっぱいお願いをしていて。


「大、丈夫……」

「ひゃぁっ!?」


 そこでガンとなった。

 ただでさえ不安だったところにいきなり知らない声がして、檻に背中から体当たりしてしまう。何事かとギョッとしていたら。


「ヨ、ルズさん……!?」


 まだかなり朦朧もうろうとしている様子だが、彼女がこちらに薄目を開いているではないか。すかさずワタワタと膝立ちで駆け寄り、安否確認とか自己紹介けん「私は敵じゃないよ」と説明を入れる。だがその最中、たちまち失態に気付いてハッとした。


「ご、ごめんなさい。私、ヨルズさんの本当の名前が分からなくて」


 今だにゼノンさんも私のことを『イルミナ』と魔女コードで呼ぶのだ。

 そんな名前じゃないのにと少しモヤッとしているのだけれど、なかなか機会がなくて言えずにいる。


 それと同じことをしてしまっていたことに気付いて(しかも連呼)、居ずまいを正した。でもヨルズさんはそんな私に、弱々しいながらも優しく微笑みかけてくれて。


「いい……。そんなこと……より、気を付けて……」

「え?」

「来そう、だから……」


 いったい何のことかと眉根を寄せかけたところで、ドゴォンとただならぬ破砕音がして振り返る。ガラガラと、どうやら石壁が突き破られたのだろうか。


 見れば通路の奥に土埃がモクモクとなっていた。

 その向こうで、ゆらりと人影が揺れて。


「ゼノ――!」


 待ちきれずそう呼びかけそうになったところでボフンと、煙を押しのけるようにして姿を現したのは。


「ぅぐ、あぁああああああああーーーーっ!」

「ひゃああああああああっ!?」


 どう形容すればいいのか、とにかく人の形をした何かだった。

 バチャバチャと水分を跳ね散らしながら、全身が泥と植物のツタにまみれた異形の何かがこちらに向かって走ってきている。


 両腕を突き出す姿はさながらゾンビのようで、私もたまらず悲鳴をあげた。

 また背中から檻に体当たりしてガンとなるが、それで同時に思い知らされる。


 ――に、逃げ場がないいいいいっ!


 どうしようこっちに来ると繰り返し、とパニックになっていたところ。


「平気……」

「え……?」

「狙いは……私の、はず……」


 一呼吸を置くのもしんどそうなのに、ヨルズさんがそう励ましてくれて。

 ということは、あれがケインという人なのだろうか。

 そしてそのとき、「そうだ……!」となって思い出す。


『――いいか、イルミナ。万が一ってこともあるかもしれねぇから、一応2つだけ伝えとくぞ』


 ゼノンさんから言われていたのだ。

 1つはもしこの先で想定外のことが起きた場合はこの檻を自壊させるので、そのときはなるべく遠くに逃げて増援の魔女狩りたちを待ち、合流すること。


 そして、もう1つは。


『さっきも言った通り、ケインは魔力を食う。分が悪くなったら俺を無視してヨルズを食いにこっちまで来るかもしれねぇ。だからいいか、そのときは――』


 その言葉を思い出し、怖がっている場合ではないと立ち上がる私だった。

 こんなときまで私の心配をしてくれているヨルズさんに、これ以上あの人を近づけさせてはならないと意を決して。


 その言いつけ通り、準備だけはしてあったのだ。

 もういつでも撃てるようにしてある。

 あとは集める・・・だけのこと。


 杖を構えれば、その先端にポワンと小さく『光』がともった。

 それが徐々に大きくなって、ギュインギュインと次第に強くなっていく。

 魔力エネルギーがチャージされていく。


 ちなむとこれがまだ森にいた頃、私がよく使っていた攻撃手段だ。

 ピンチのときは大体これを放って威嚇射撃、冒険者さんたちを追い返していた。


 薙ぎ払いビームと、私は今までそう呼んでいたけれど。

 ゼノンさんにならい、これからは『魔力砲』と呼ばせてもらうことにする。

 (こないだ誤爆したような小~中サイズの奴は『魔法ミサイル』。)


 本場の魔女狩り相手に、私の攻撃なんて効くのか。

 それこそバクバク食べられちゃわないのか。

 そんな疑問もあったけど、ゼノンさん曰く問題ないらしい。


 ゴリ押せばなんとかなるって。

 そういうものなのかなぁとも思うけれど、ともかく――。


『そのときは躊躇ちゅうちょするなよ。おまえにできる最大威力を奴にぶつけろ、全力でぶっ放せ』


 そんなゼノンさんの言葉を思い出しながら。

 そしてヨルズさんの体にあった無数の傷跡を思い返しながら。


 そんなこと、させない……!


 ズドンと思いっきり、私は私の持てる最大出力を発破はっぱするのだった。

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