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【完結】「森に住まうこわ〜い魔女」のフリをしていた私、ボッチの最強魔女狩りに拾われる ~助けてもらったので、なるべく恩返しできるよう頑張りたいと思います~  作者: あなたのはレヴィオサー
10.グランソニア城(決戦編)

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10-13.「寝過ごした感」


 何だか、とても――。

 とても長い時間、眠っていたような気がする。


 そう、例えるならアレだ。

 朝に寝坊してしまったときの、不自然なまでのグッスリ感。

 いつもはまだ寝てたいのにピピピっとアラーム音が残酷な現実を突きつけてきて、うーんとなりながら体を起こすのだけれど。(寒い季節なんかはとくにそう。)


 その日だけやけに自然な目覚めで、なんかたっぷり眠ったぞというのがもう体感で分かってしまうのだ。そしてポヤんとしたまま体を起こせば、大体そのまさか。目覚まし時計の裏切りが発覚し、「ええっ、なんでっ!?」となって飛び起きる。


 それで一気に目が冴え「なんでよもう~っ!」となりながらてんやわんや、バタバタ慌ててパジャマから着替えてと……。


 何の話をしてるんだろう?

 まぁともかく言いたいのは、それくらい今の私は寝過ごした感がすごかったということだ。


 でも、何かおかしいのである。

 もっと早く起きなくちゃいけなかったはずなのに、全然そうできなかったと。

 そんなとても好ましくない予感をもって、私は薄ぼんやりと目を開けたはずなのに。


「…………」


 まだひどく、頭がぼーっとするのだ。

 たくさん寝たはずなのに視界がにじんで、なかなか意識もハッキリしてこない。

 いつまで経っても、うつらうつらとしている。


 分からなかった。

 いま自分がどこにいるのか。

 どんな体勢でいるのか。


 遠くから何か聞こえている。人の声だ。

 でもお喋りしてるとかではなくて、もっとこう呼びつけるような、荒荒しい喧騒けんそう。それに加えて何かをぶつけたり叩いたりするような物音も、絶え間なく。


 分からない。

 ここが何処なのか。

 あの人たちが何をしているのか。


 そんなことより、眠かった。

 眠いなぁ。まだ寝てたいなぁ。


 誘惑に勝てなくて、トロンとまたまぶたが落ちてくる。

 そのまままた眠りに意識を手放してしまいそうだった、そのときだ。


「パパっ!?」

「えっ……?」


 ドゴォンと間近で聞こえた破砕音と、悲鳴のような叫び声にハッとしたのは。

 途端にパッチリ、私は目が醒めた。


「えっ? ええっ!? えええーっ!??」


 それからしきりに辺りを見回し、大いに慌てふためく。

 訳が分からない……というか、状況がまったく読めなかったからだ。


 まず最初の「えっ?」は「あれ、私何してたんだっけ? というか此処どこ!?」の意からオドオド始まり。直後の「ええっ!?」は向かって正面のところがすごい物騒なことになっていると気付いたからになる。


 やけに騒がしいと思ったら、それもそのはずだった。

 遠巻きではあるものの、バチバチの戦闘が繰り広げられているのだから。


 しかもよく見れば、渦中にいるのはリオナさん、ルーシエさん、アニタさんと見知った人ばかりではないか。その場に姿は見えないけれど、とりわけ大柄な岩人形ロックゴーレムがジーラさんの魔法だともすぐに理解が及んで。


 とにかく今、リオナさんたちは4対1の攻勢で何かと戦っているところだった。集中砲火を浴びている包囲網の中央が霧に覆われていて(たぶんアニタさんの魔法だろう)、何と戦っているのかはよく分からなかったけれど。


 そして最後の「えええーっ!??」は、後ろにいたもう1人に気付いたからになる。本当にビックリした。なんか体勢が不安定だし(下から支えられているような感じ)、背中が柔らかくて温かいなと思っていたら。


 なんとその誰かさんの膝上に抱っこされている恰好なことに、そのときようやく気付いたからだ。しかもしっかと腕のシートベルトまでつけてもらって、まるで小さな子どもみたいに。


「ご、ごめんなさい! 私……!」

「あっダメ……!」


 慌ててどこうとしたら、上からぎゅっと押さえつけられた。

 コテンとまた倒され、期せずしてその人を見上げる形となる。

 パッチリと目が合ってしまう。


「あ……」


 するとその人はどこか恥ずかしそうに目線を泳がせてから、プイと逸らして。

 女の人だった。とても綺麗な黒髪の。というか――。


「ヨルズさん!?」

「えっ?」


 一瞬、人違いかと思ったけれど、全然そんなことはない。


「ヨルズさんですよね!? なんでここに……!? あっ……」


 ガバリと起き上がって(今度は成功)そう尋ねるも、そこで失態に気付いた。

 思わずそう呼んでしまったが、それはただの魔女コードで彼女の本当の名前ではないからだ。慌てて口をつぐむけれど、どう呼び直すべきか分からない。


「すみません、私……。ヨルズさんの本当の名前、分からなくて」

「覚えてるの……?」


 確認しようと思ったら、出し抜けにそんなことを聞かれた。

 驚いたように目をパチクリと瞬かせ、すごいキョトンとしながら。


「私のこと、覚えて……?」


 ヨルズさんはそう聞いてくる。

 もちろん覚えてるというか、私が会った初めてのほかの魔女さんだから忘れるわけがないのだけれど。(何なら思い入れがあるくらいで、またいつかどこかで会えたらいいなとはずっと思っていた。)


 それを伝えると、ヨルズさんはやっぱりキョトンとしていた。

 沈黙に沈黙を重ね、マジマジと私を見つめてから。


「……そう」


 俯き加減になって、彼女は言う。


「それは良かった……。とても……」


 ずっと抱えていた心配ごとからようやく解放されたような、それはとても安堵に満ちた表情だった。


「あの……?」


 いまいちその所以ゆえんを察せれなくて、私も反応に困ってしまったけれど。ともかく、できればそこで互いに自己紹介だけでも交わして、今の状況なんかについて詳しく聞ければ良かったのだ。


 なにせ私の最後の記憶と現状とでは、場所も展開もあまりに食い違い過ぎている。いや、そもそも何があったのかさえ、ハッキリ思い出せることは少なかった。


 というのも直前の私は、ちょっとそれどころじゃなくなっていたからだ。

 腰を抜かして、逃げることもできなくなってて。途中でリィゼルちゃんとウィンリィが助けにきてくれたけれど、その先のことは……。


 それこそ思い出せるのは、意識を失う直前くらいのことだった。

 操られたリリーラさんに、呼吸もままならなくなるくらい強い力で握りしめられてしまって――。


 いったいあれから、何がどうなったのだろう。

 見回しても、誰もいなかった。

 リリーラさんも、リィゼルちゃんも、探しに行ったルゥちゃんも。


 かろうじて今も一緒なのはウィンリィだけだ。

 それにしたってボロボロで、力を使い果たしたためか抱っこサイズまで縮んでしまっている。

 かと思えば。


「パパ、大丈夫!? しっかり……!」

「ぬぅ……」


 そんな声がして見やれば、少し離れたところにライカンさんも見つけて。

 そういえば起きる直前にすごい音がしていたけれど、どうやらあれはライカンさんが戦場から弾き出されてのものだったらしい。


 知らない女の人(今度こそそのはず)も一緒だった。

 支え起こしたライカンさんに、あれはなんだろう……?

 とにかく見たことのない魔法をあてがい、介抱している。


「ライカンさん……! 良かった、無事だったんだ」


 果たしてあれを無事と言っていいのかは分からないが。

 少なくとも最悪のことになってなくて良かったと、ホッと安堵の息を零す私だった。


 というか、パパ……?

 じゃああの人、ライカンさんの娘さん……?


 とか思った直後のことだ。

 リオナさんたちを取り巻く戦況が大きく変化したのは。


 真空波、とでも言えばいいのだろうか。

 キュインと何やら甲高い物音がしたあと、こちらまで届くもの凄い風圧が巻き起こったのである。


 直撃を受けたのは至近にいたルーシエさんと岩人形ジーラさんだ。

 振りかざしたハンマーや岩の拳ごと、挟み撃ちを押し開くように両サイドに吹き飛ばされて。


 そして風は同様に、常に戦場の中央に滞っていた霧のドームをもかき消していた。いったい5人が何と戦っていたのか、私が初めてその姿を捉えたのがそのときだ。


 たぶん……女の人だった。

 顔はフードに覆われてよく見えないけれど。

 赤い装束をゆったり、その身に纏っている。


 うまく言えないけれど、ひと目で分かろうものだ。

 あれがとても危なくて、不安定な存在であるとは。


 でもそれ以上に……。

 いや、考えている場合ではない!

 私はとっさに切り替え、まずもって杖を取り出す。


「あの、すみません! ヨルズさん、じゃなくて……! ええと、とにかく!」

「えっ……?」


 本当の名前が分からなくて、いまだにヨルズさん呼びとなってしまうのは本当に申し訳ないのだけれど。でもきっと今はそれどころじゃないと思うから。ギュインと向けた杖先にすでに『光』は溜めておきつつ、私は念押しの確認を取るのだった。


「あの人、敵であってますか!?」

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