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【完結】「森に住まうこわ〜い魔女」のフリをしていた私、ボッチの最強魔女狩りに拾われる ~助けてもらったので、なるべく恩返しできるよう頑張りたいと思います~  作者: あなたのはレヴィオサー
9.グランソニア城(プリズンブレイク編)

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9-47.「呼び出され追い出され」


 ともかく。

 そんな経緯があって、ウルの誤魔化しスキルはワンフレーズ限定ながら急成長を遂げることになる。はたから見ればいったい何のためにやっているのか、不可解も過ぎる構図であったことには違いないが。


 しかし、それもこれも無駄とはならなかった。

 なにせリオナの抱いた懸案は、まさしくそのままの形となって的中することになるのだから。


 ――ギャオオオーっ!!!


 相変わらずリリーラは声が大きかった。

 そんな大声を出さずとも聞こえるのに、呼びだされたと思ったら大気がビリビリ震えるほどの大音量で、がなり散らすように言われるものだからたまらない。


 ともかくゼノンとか妙なガキとかワードは拾えたので、その巨体を見上げながら耳を塞ぎ、ウルは眉1つ動かさずに応じる。


「…………? 何のこと?」


 一定の間を置いてから、首をコテンと傾げてよどみなく。

 それは以前までのウルでは絶対にできない、とても自然な素知らぬフリだった。


 だがおそらくリリーラも、リオナと同じでかなり確信的なところ、あと一歩というところまで迫っているのだろう。本当かいよく思い出しなぁヘタな嘘付いたら承知しないよと剣幕で詰め寄られる。


 しかし何度聞かれても同じだった。


「…………? 何のこと?」


 ウルはひたすらにその所作とフレーズを繰り返して。

 正直ところどころにおかしな使いどころもあって、多用しすぎな面は否めなかったのだ。ここに第三者が居合わせていたなら、もはや見ていられないほどのヒヤヒヤものだっただろう。


 だが幸い、リリーラもそこそこ騙されやすい性格をしていた。

 よってギリギリのラインながらやり取りは成立し、逃げ切ることができて。


「本当に見てないんだね……?」

「うん、見てない。ほかに魔女なんていなかった」

「本当に……っ!?」

「うん」

「…………そうかい。なら、もう帰っていいよ」


 一時はむんずと掴まれニギニギ、リリーラの頭上より高く持ち上げられていたところだが、ゆっくりと下ろされる。圧迫感から解放されて、ふぅと息をついて。


 帰っていいよと言われたので、じゃあねと静々、そのまま帰ろうとしたのだけれど。


「…………」

「なんだい?」


 そこで足が止まったのは、実はこちらからも聞いてみたいことがあったのをふと思い出したからになる。ちなみにそれはウルがこの城にきて、リリーラに初めて対面したときからずっと抱いていた疑念だった。


 いつか聞いてみたいとは思っていたのだ。

 でもなかなか会う機会も用事もなくて今日まできてしまった。

 だからこの際、聞いても良いものかと迷い、無言でリリーラの巨体をジッと見上げていたわけだが。


「なんだい!? 言いたいことがあんならハッキリいいなぁッ!?」


 風魔法でも使ってるのかというくらいビューと風をもらいながら、ウルはそれをこころよい許諾と受け取る。


 基本的にウルの思考は単純だ。

 それこそ何か込み入った事情や制約でもない限り、そうと言われたら、あっ言っていいんだとなって口にする。


「どうして……」

「ああん!?」


 たとえそれがどんなに場違いなものだとしても。

 不用意に相手の核心を突いてしまうものであったとしても。


「――どうしていつも、そんなに怒ったフリをしてるの?」



 ◆



 その問いかけのいったい何がまずかったのかは、結局いまも分からないままだ。

 ウルとしてはただ不思議に思ったから尋ねてみただけなのだが、どうやらそれはリリーラのご機嫌を損ねる問いかけだったらしい。


「ウル、あんた……。なに寝ぼけたこと言ってんだい……?」


 さすがに二度も三度もやられると、体が覚えて反応するものだ。

 もしまたむんずと掴まれるようなら、優先すべきはバンザイして両手の自由を確保しておくことだが。(いつでも耳を塞げるように。)


 それには及ばないようで、ウルはすぐにも耳を塞いだ。


「アタシのどこが怒ってないってぇえええーッ!??」


 ギャオオと怪獣じみた怒号が、城の全域に響き渡る。

 ポテンと尻餅をついてしまったのは、恐ろしさのあまり腰が抜けたとかではなく、単に風力に押されてのことだったが。


 耳を塞いだままでも声は十分すぎるほど聞こえるし、座ったままのほうがまた風に押し倒される心配もなくて安全そうだ。暴風災害に備える心境でそう思い、ウルはそのままの体勢で続けた。


 ヘンな話、「怒ってるでしょ?」と尋ねて、尋ねられた側がムキになって「怒ってないよ」とプイする展開はありがちというか定番だが。その先でウルとリリーラ間で交わされたやり取りは、その真逆パターンのものとなる。


「だって、怒ってないでしょ?」


 そう率直な疑問を口にするウルに、そんなわけないこんなに怒ってるとリリーラが躍起になって主張していた。


 怒ってないでしょ?

 怒ってる!

 怒ってないよ?

 いいや怒ってる!


 そんな栓ない論争がしばし繰り広げられたあとで、ウルとしてもちょっと困ったことになってしまう。リリーラが本当に怒り始めたからだ。それでだんだん話がややこしくなってきたもので。


「うん、そうだね。いまはちゃんと怒ってるみたい」


 補正を加えたところ、リリーラの青筋がピッキィと浮き立った。

 体が大きいとこんなに分かりやすいんだと関心する間もない。


「さっきから何をゴチャゴチャ言ってんだいッ!?」


 ドシドシ迫られたので、あっまずいとなってすかさずバンザイしたが。


「用が済んだならさっさと出ていきなあぁッ!!!」


 そのまま部屋の外にポイされてしまった。

 リリーラが出入りできるほど大きなドア、それがバタンと勢いよく閉められるとまた風がビュオオとなって、煽られる。


 なぜ放り出されてしまったのか。

 そして何がそこまで彼女の怒りを買ってしまったのかも、ちっとも心当たりがないままそれを見上げ、いつも通りポヤんと眠たげな顔付きでウルはポツリと呟くのだった。


「済んでないのに……」


 ちなみに――。


「ふぅ、ようやく収まったかい? それにしても、今日のはまた一段と大きかったね」

「ほんとにもう、ルーシエったら……。今度は何をやったのかしら……」


 こんな風にリリーラを怒らせるのなんて1人しかいないと城中の魔女、全会一致であらぬ誤解を受けたルーシエだが「いやいや、アッシじゃないっすよ!?」と当人がそれを全面否定。アリバイもあったもので。


「じゃあ、いったい誰が……?」


 それは未だ、謎のままだったりした。



 ◆



 ともあれリリーラの追求を危なげながらもかわしきったウルである。


 もしそういうことがあったら教えてくれとは言われていたので後日、一応リオナには伝えにいった。決して同調関係にあるわけではなかったが、リオナもあれ以来、踏み込んだことは聞いてこないのでそれくらいは良しとする。


「やっぱ来やがったか……。それでどうだ、ちゃんと誤魔化しきれたか?」

「誤魔化すも何も、私は何も知らないから答えようがない。知らないことをただ素直に知らないって答えただけ」

「あぁ、そういやそういうスタンスだったな。めんどくせぇ……。分かったよ。練習通りにちゃんとやれたかって聞いてんだ」

「それは……たぶんできた、と思う」

「よし、今やってみろ」

「…………? なんのこと?」

「大丈夫そうだな」


 そんな抜き打ちチェックもあって、審査も通過したが。


「ただ……」

「あ、ただ……?」


 そこで言い淀んでしまったのは、なぜかリリーラを怒らせてしまったあのことについて、話すべきなのかどうか迷ったからになる。どんなことを聞かれたかと聞かれ、詳細について話すなか、他に何か変わったことはなかったかと最後に尋ねられてのことになるが。


「…………」


 ウルは停滞してしまった。

 でもまぁ大したことではなかったし、話す必要もないかと保留する。

 その間、またも長い長い沈黙をもって。


「なんでもない」

「話せ」

「必要ない」

「いいから話せ」

「…………? なんのこと?」

「おまえな……」


 無理があるしホントに大丈夫だったんだろうなと額に手をやってパチリ、先を思いやられたように嘆息するリオナだった。

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