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【完結】「森に住まうこわ〜い魔女」のフリをしていた私、ボッチの最強魔女狩りに拾われる ~助けてもらったので、なるべく恩返しできるよう頑張りたいと思います~  作者: あなたのはレヴィオサー
9.グランソニア城(プリズンブレイク編)

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9-46.「何のこと?」


 とまぁそんな感じにウルの、割りととんでもないレベルでの誤魔化しベタさが露見したわけだが。


 むしろメンド臭かったのはそこからになる。

 善意と実質問題からわざわざそれを指摘してやったというのに、当人ががんとしてそれを認めようとしないのだ。


 ちなみにリオナとしてはもう、ウルにどうこう問いただす気はさほどなかった。だって知りたかったアリシアのことは、もう本人の口から直接確かめた後だから。


 まぁそれでもちょっと気になるくらいはやっぱりあって、ちらっと振り出してしまったところはある。もちろんアリシアのときのようにもうネタはあがってんだよ風に詰め寄ったり、外堀から埋めてジワジワ追い詰めるようなことはしていない。


 あくまでそっと、まぁ一息付けやと、かなりやんわりめに引き出そうしただけなのに。(薄暗い取調べ室でカツ丼つきのイメージ。)もうそれだけでピキーンと過剰反応、すごいキビキビ動くようになってしまった。


 すっかり警戒モードの聞く耳持たずで、聞いてもないのに知らぬ存ぜぬの一点張りとなる。とにかくその場を振り切ろうと躍起になって。


「待てって! 分かった、もう何も聞かねぇからとにかく話を聞け! オレはただ忠告をしにきただけだ」

「忠告……? そんなの要らない。あなたと話すことなんてもう何もない」

「おまえのそれじゃマジでバレバレなんだよ、自覚しろ! クソっ、能面のうめん女だと思ったらとんだザルじゃねぇか! 余計なギャップ付けやがって!」

「なんのことか、分からない……っ! 私は何も、知ら、ない……っ!」

「もうそれでいいから、とにかく止まれっつのーっ!」


 かなり珍しい組み合わせでズリズリ、なんだか痴話げんかみたくなっていた。

 ともあれ、だいぶ余計な体力を使わされることにはなったが。


 長らく引きこもり状態にあったウルと、日ごろから城の内外問わずピョンピョン立体的に動き回っているリオナではそもそも体力面に大きな差がある。獅子とナマコを比べるようなものだ。


 言うまでもなく、軍配が上がるのはリオナの方だった。

 さほど時間をおかずに引きずり倒し、最後は尻に敷く形での決着と相成る。

 本当に、諦めない限り負けてないバリの往生際の悪さだったが。


 床にうつ伏せての馬乗り、両手もしっかり押さえてやれば成す術なしだ。

 耳も塞げないだろう。いつだかルーシエに同じようにしてやったとき、耳を畳まれてムカつきボコスカ殴ってやったときを思い出しつつ。


「ったく、やっと大人しくなりやがったか。余計な手間かけさせやがって」

「私は何も……知ら、ない……」

「あぁ、もうそれでいいから耳だけ貸しとけよ」


 そうやって悪あがきもできないようにしてから、やっと本題を切り出すリオナだった。

 てっきり能面鉄仮面かと思いきや、絶望的にウソの下手くそだったこの魔女が、次に同じ展開に出くわしたとき、またも同じ失態をやらかさないように。黙りこくったりしないように。


 ババァと言っても伝わらないかもしれないから、そのフルネームをもって警告を。


『何より気がかりなのは、あのとき――』

『あのとき、なんですか?』

『いや、いい。何でもねぇ』


 ちなみにそれは昼間アリシアに言いかけたものの、余計な不安をあおるのも良くないかと思い、差し控えておいたことでもあった。


「リリーラ・グランソニアに気を付けろ」



 ◆



 その後、ウルがリオナと交わしたやり取りは決して多くない。

 何分、ウルは何も知らない姿勢を一貫して崩さずにいたため、あまり詳しいところを聞き返せなかったのだ。ここで迂闊うかつに聞き返したりすれば、やっぱり知っていると自ら明かすようなものになってしまうので。


「……?」


 なんでそこでリリーラの名が出てくるのかといぶかしげに思いながらも、沈黙に徹した。ちなみにさっきリオナからウソが下手だと言われたのも、こちらを動揺させるための策略だろうと思っている。その手には乗らないと、尚のこと警戒心を強めて。


「分かったのか?」

「……分かるもなにも、さっきから言ってる通り、私はなにも」

「知らねぇんだろ。もうそれでいいから、いまオレの言ったことだけ聞けつってんだ。分かったのかよ?」

「…………」

 

 どう答えたものかとウルはしばし悩んだ。

 リオナの要求は、もしリリーラから同じことを聞かれてもその調子で知らんぷりを続けろとのことだが。なんでそれをリオナが頼んでくるのかが分からない。


 でもそれに頷くだけなら、今までと何も変わらないように思えた。

 彼らに不利になるようなことも、たぶん何もなくて。

 それを何度も、脳内シミュレーションを重ねて確かめてから。


「……知らないことを素直に知らないって答えればいいだけなら、分かった」

「そういう前置きの仕方からして、もうすげぇ不安になるんだよな。あといちいち黙ってる時間も長ぇんだよ」

「ほかに用は? 無いなら早くどいて、重い」

「へいへい」


 ようやく腰を上げられ、解放される。

 でも去り際までリオナはうるさかった。

 絶対言うなよとか、フリじゃねぇからなとか。


「とにかく図星のときに黙りこくんのだけは何とかしろ、練習しとけ」

「…………」

「おまえがヘマしたら、困るのはアイツらなんだからなー!」


 そんな苦言を背に、ようやく一人になれたところでウルは思う。


 アイツら……。

 アイツらとはやはり、ゼノンとあの少女のことを言っているのだろうかと。


 リオナはいったい彼らの何を知っている……?

 聞き返したい。でも聞き返せない。

 それはとても、とてももどかしいことだった。


 だからか。

 ようやく一人となれた自室への帰り道、ウルはハタと立ち止まる。

 ポツリと呟いてしまう。


 あの名前も分からない同族の少女を思い浮かべながら、またいつかと添えて。


「会いたい、な……」


 誰にも言えず、打ち明けられない。

 ポツリと吐露したその気持ちは、ウルのなかで日を追うごとに大きくなっていくばかりだった。



 ◆



 ちなみに、できればもう二度と関わってきてほしくないと願っていたリオナだが、とても残念なことに絡みはそれで終わりではなかった。その翌日にも「よっ!」と、珍しいドアノックに応じたところ彼女がそこにいて。


 いったい何の用かと思ったら、特訓を付けにきたとか言い出す。


「特訓……? 特訓って、なんの?」

「決まってんだろ。テメェの誤魔化しベタがちったぁマシになるようにだよ。オレが直々にカントクしてやる」

「……意味が分からない。帰って」


 秒で閉めようとしたらガンとなって阻まれた。


「まぁそう言うなって」


 そのまま強引に押し入ってくるなり、リオナは求めてもないリリーラ対策を勝手に展開し始めるのである。昨日のやり取りを踏まえ、自分のここがよくないとか、ここはもっとこう受け応えたほうが自然だったとか。


 ウルからすれば、それはひどく余計なお節介だった。

 だって自分はちゃんとやれたのだ。

 しっかりウソを付き通せたのだから、そんなの無くたって足りている。

 

 だけどその中にはいくつか……。

 ほんのいくつかだけど、言われてみれば確かにと思われるものも含まれていた。


「………………」


 吟味し、長く思考の空白を挟んだ末に思ってしまう。

 一理、ある……?と。


「いいから言われた通りにやってみろ。ババァからなんか聞かれたらこうだ。『何のこと?』」

「なん、の、こと……?」

「よしそうだ、今度はもっとスムーズに言ってみろ! 『何のこと?』」

「なんの、こと……?」


 そうして気づけば、よく分からない練習が始まっていた。

 リオナは次々と指摘をくり出しながら、マンツーマンでウルの所作に手直しを加えていく。


『なんかこうイントネーションがイマイチなんだよなぁ』『よしいいぞ、その調子だ。そうだな、次は首を傾けてみろ。コテンって感じだ。分かるか? そうだ、その角度を覚えとけ!』『表情はそのままでいいぞ。ヘタなことすっとお前の場合、逆効果だからな。その眠そうな顔をそのまま活かせ』『あとは答えるタイミングだな。早すぎても遅すぎても怪しまれる。テキトウに2,3秒だけ考えるフリをしてから答えろ。――早い早い! まだだ、もう少し待て』『今度は少し遅いな、もう少し早くしてみろ』


 そんな感じだった。

 もしこの場にアニタがいたら、何やってるのよもうヘンなこと教えないでと呆れられるだろう。ジーラなら何やってるんだかと首を横振りしつつ、しれっと悪乗りでアドバイスを加えるだろうか。まぁ生きてくには欠かせないスキルっすからと、ルーシエは自分事とも思わずに応援しそうだが、ともあれ。


「何のこと……?」

「まだちょっと早いな……。テン、テン、テン。『なんのこと?』だ。もっかい」

「……何のこと?」


 特訓は定期的に行われ、ウルのとぼけスキルは確実に上達していった。

 そして――。


「…………? 何のこと?」

「うっし、まぁ仕上がりとしちゃあ悪くねぇだろ」


 免許皆伝を言い渡される。

 感慨なんかないし、基準もさっぱり分からなかったが。

 ともかくこれでいいらしい。


 あとは本番に備えて、たまに復習しとけよとのことだった。

 と言っても、本当にあるかどうかも分からない機会の話なのだが。


 ちなみに、それからだ。

 人知れず、ウルの奇妙な習慣が始まったのは。

 決してリオナに信を寄せたわけではなかったが、仕草しぐさ自体にはどこかしっくりくるものがあって、少しだけ気に入ってもいた。


 だからその言いつけを律儀に守り、時おり実践していたのである。

 1人になったとき、付近に誰の目もないことを確かめてからそろそろと鏡や窓ガラスのまえに立ち、ふと首をコテンと傾けて。


「…………? 何のこと?」

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