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【完結】「森に住まうこわ〜い魔女」のフリをしていた私、ボッチの最強魔女狩りに拾われる ~助けてもらったので、なるべく恩返しできるよう頑張りたいと思います~  作者: あなたのはレヴィオサー
9.グランソニア城(プリズンブレイク編)

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9-38.「そうだね」


 いずれも致命的クリティカルとまではいかず、ささやかなものではあるが。

 事を成すにあたって、ルーテシアのこうむった誤算は大きく2つある。


 1つはミレイシアがバッチリ付いてきてしまったことだ。

 ルーテシアのお願いはあくまで、自分を回復させてちゃんと自力で立てるようにしてほしいというところまで。そのあいだに彼女には逃げてもらって、助けを呼んできてもらおうと算段でいたのだが。


「だって私がいないと、ルゥちゃん1人じゃあそこへの行き方分からないだろうし。それにリクニさんに作戦を伝えるのだって時間かかっちゃうでしょ?」


 そんな指摘があって、確かにとなる。

 ちなみにルーテシアが行きたいのは、さっきミレイシアが飛び降りてきたあの尖塔せんとうの上だ。あそこからならタイミングを見計らって、最高の不意打ちを仕掛けられると考えてのことだが。


 そこまでの道順については、ミレイシアが直接案内してくれた方が何かと手っ取り早くて済むのは事実。それにルーテシアの声はリクニに届かないから、いまミレイシアに話したことをまたイチから説明し直すのも大変だ。


 筆談してる余裕なんてないだろうから、こちらが戻って来た意図もまったく伝わらなくて逆に大ピンチにおちいる可能性すら否定できない。


 以上を踏まえ、戻るなら2人でと制約は外せそうになかった。

 それでもどうにかならないかと考えていたところ、彼女はよいせとまたいきなりルーテシアを抱えあげてから言うのだ。


「それにこっちの方がずっと早いじゃない?」


 そうニッコリ微笑んで、ついでに治癒キュアの魔法をルーテシアにあてがってくれながら。まったくもって負んぶに抱っこ状態だし、なんかとても情けない体勢にはなるけれど。


 悩んでいる時間はない。

 どこにどんな悪者がひそんでいるかも分からないという城の状況を踏まえ、2人で戻ることに決める。絶対に失敗はできないと覚悟を決めていざ、尖塔せんとうの上には立てたわけだが。そこでプチアクシデントの2つ目に見舞われる。


 状況からしてリクニは大ピンチ。

 戻ってきて大正解とはすぐに分かって、うつ伏せ状態からいけないと、すぐにもルーテシアは立ち上がったわけだが。そうしたらまさか、すぐにもリクニに気付かれてしまったのだ。


 なんでそこにいるのルゥみたいな、見るからに青ざめた表情を彼は浮かべていた。リクニはとても心配症だから、こうなるとちょっと何をしでかすか分からない。


 だから更なるアクシデントが重なるまえに、ルーテシアは決行に踏み切る。

 まさかそんなことする気じゃないよねと戦々恐々となってるだろうリクニの心配をよそに、やや引き返してから軽く助走をつけ、コツンと杖をついての棒高跳び。ピョンと虚空のなかに飛び出して。


 着地はまぁ、何とかなるだろう。

 風の魔法は得意だから、落ちる寸前に思いきりビュウとやればある程度、衝撃は緩和できるはずだ。


 だからルーテシアはそっちに集中した。

 ぎゅっと握りしめた杖先に、『浄化パージ』の魔力をそっと静かにまとわせて。


 ――まったくもう、リクニは。


 自由落下に身を任せ、地上が急速に近づいてくるなかで、ルーテシアはやや嘆息をつく。できればもう少しだけ、心の準備とかをさせてほしかったのだ。


 ミレイシアが自分のためにやったのと同じこととはいえ、この高さはちょっとやそっとじゃ踏ん切りなんて付かない、なかなかの絶叫レベル。深呼吸をしてとか、タイミングを見計らってとか、いろいろ儀式的なことをやりたかった。


 でもあんまりリクニが早く見つけてしまうものだから、もう勢いで飛び出すしかなくなってしまったではないか。


 だけど仕方ないのかなとも思う。思い直す。

 だってこの杖は、リクニがくれたものだから。


 まだっちゃくて、声も届かなくて。

 そんな自分が迷子になってもすぐに見つけられるようにって、リクニが贈ってくれた特別大きいやつだから。


 だったら仕方ない。大目に見てあげるとしよう。

 なんて言うか、そういう今じゃないでしょっての悪さも含めてとてもリクニらしいし。でもやっぱりちゃんと見つけてくれたんだねって、そう思うと嬉しくて何だかほっこりしてしまうから。


 そんなリクニが目のまえで、また無茶をした。

 たぶん男の注意をらすために、わざとやったのだろうけれど。


 許さない……!

 ことさら強く杖を握りしめ、ルーテシアは最後の特大チャージを終える。

 てやーといくら張り上げても届かない声の代わりに、これでもかと光をピカーとほとばしらせた。


 そうして最後は気付かせてやらなければ、ちゃんとピンポイントで狙えないからだ。

 男の額に変わらず見えている淀み、その一点を。もう思いっきり広範囲にやってやるから、もしかしたらあまり関係ないかもしれないけれど。


「むっ……!?」


 でも幸い男は気付いて、その無防備なオデコをさらしてくれた。

 だからあとはその杖先を力の限り、思いっきり振り下ろすだけ。


 寸前、ルーテシアは思った。

 さっきはごめんね。

 それからありがとうと、リクニに。


『帰ろう……?』


 自分にケガをさせないようにとさっき、一生懸命がんばってくれてたリクニの辛そうだった表情が、とても強く記憶に残っていたから。


 いっぱい心配をかけてしまったみたいだ。

 謝らなければならないこともたくさんある。

 少し遅くなっちゃうかもしれないけれど、それもこれも後でぜんぶ書いて伝えるから。


 今はただあのとき、ちゃんとしてあげられなかった返事を。


「うん、そうだね」


 そうしよう。

 こんなの早く終わらせて。


 安心して。

 もう前みたく「フン!」とかやって、困らせたりしないから。

 だってもう探し物は、ちゃんと見つけたんだ。


 だから――。


 パコン。

 『浄化パージ』の魔力を宿した杖先が、そのとき淀みの一点を撃ち砕く。


「帰ろう、リクニ」


 そこを起点として次の瞬間、またもまばゆいまでの極光ひかりが辺り一帯に拡がるのだった。



 ◆



 それから間もなく。

 ミレイシアは一人、いくつも折り返す階段をトタトタと、やや慌ただしげに駆け下りていた。


 小さな頃から運動などはあまり得意なほうではなく、一段飛ばしとかやんちゃなこともしてこなかった。だから両手をあげながらとその足運びは、慎重というより覚束おぼつかないものではあったが。


 それでも当人としては、精一杯に先を急いでのことになる。

 本当はいけないことなのだ。こんな風に階段を駆け下りるのはとても危ないことで、時おりこらダメでしょいつも言ってるじゃないと注意喚起している子どもたちにも示しが付かなくなってしまうから。


 でも今ばかりはと、ミレイシアはそれを自分に許容する。

 というのも、いつになくはやっていたからだ。

 もっと一大事な理由は他にあるにせよ、そこには少なからず、まだ冷めやらぬ興奮のような熱も含まれていて。


 というのも、すべてが上手くいったからである。

 それはさっきミレイシアが、確かにこの目で捉えた一部始終になるが。


 すごかった。

 自分が言えたことでないのはさておき、あんなに高いところから飛び降りたルーテシアが見事、『浄化パージ』の光で男の眉間を穿うがったことから反撃の狼煙のろしはあがる。


 目もくらむほどのとてつもない閃光が収まり、明らかに様子を豹変させて苦しみだした大男。それを見たミレイシアもすかさず「リクニさーんッ!」と今日一番の大声を張り上げ、その意図を彼に伝えた。


「ルゥちゃんの光を浴びると回復できなくなるみたいなの! きっと今ならやっつけられるはずだから、お願い!」


 たったそれだけでは、状況も何も分かったものではなかったと思うが。

 リクニは冷静だった。間髪入れずにビビビっとやった指先で方陣を結び、苦しみもだえる男に鮮烈な決まり手をくれてやったのである。


 それこそ『星詠みの君スターゲイザー』なんて呼び名がピッタリの(本人は嫌がっているみたいだけれど)、実にみやびきらびやかな一撃を。


 そうして男が倒れ、ついに動かなくなったときは思わずミレイシアもやったと飛び跳ねてしまったものだ。すごいすごいよ2人ともー!と遠巻きながら拍手を送ったほどで。


 だからいま、ミレイシアはこんなにも足を急がせている。

 最後までしかとこの目で見届けた作戦成功、誰一人欠けても掴めなかった勝利。そのよろこびと達成感を早く、下にいる2人と合流して、分かち合いたくて。


 とくにリクニの方のケガがひどいそうなので、早く自分が行って治してあげなければいけなかった。そのくらい役に立たなければ、いよいよお荷物になってしまうから。


 それにしても本当にみんなよくやった、すごいすごいよと感極まるものがあって、えいや。最後の一段だけ飛ばし、ささやかなショートカットを成功させるミレイシアだった。


 ウズウズして、いてもたってもいられない。

 2人と再会したら、第一声は何にしようかと今からワクワクする。


 うまくいったねルゥちゃんすごいとか、さすがリクニさん格好良かったよとか、いろいろ浮かんだ。早くこの口で直接伝えたい。イエーイと3人でハイタッチを交わしたい。


 そんな高揚とともに、カツン。

 最後のステップに着地し、息を整える時間すらも惜しいとドアを押し開け。


「見てたよ、2人とも! やった、ね……?」


 そう溌剌はつらつと外に飛び出したが。

 途端、そこに垣間見た思いがけない光景に、思考が白く染まった。


 真っ先に捉えたのは、会いたかった2人だ。

 リクニとルーテシアがそこにいる。


 だけど、なんでだろうか。

 2人とも、とても顔付きがけわしいのだ。

 まるでリクニを庇うみたいに、ルーテシアが前に立って。

 こっちに来るなと言わんばかりに、杖先を何かに向けている。


「え……?」


 そのときミレイシアはもう1つ、視界の端に影が佇んでいることに気付いた。

 まるで子どものイタズラ書きをクレヨンで黒く塗りつぶしたみたいな、得体の知れない異物。だけどかろうじて人影と言える輪郭を保った、異形の何かだ。


 まさかと、世界がスローモーションになる。

 そんなと、言葉を失う。自分が来てしまったことに気付いた二人が血相を変え、その焼けこげたような人影もまたガクンと、体ごと傾けるように視界をこちらに向けてから、クヒリとわらう。


「ミレイシア、来ちゃダメだ! 逃げろッ!」


 リクニがそう叫んだのも束の間、あまりに不気味な闊歩ステップで、それはこちらに躍りかかってくるのだった。ビチャビチャと血を、いや――。


「ミレイ、シアァアアアアーッ!!!!?」


 ズチャズチャと、もはや血肉をまき散らしながら喜色満面。

 まるで自分の大好きな何かを見つけ、我慢しきれないまま駆け寄り、飛びつこうとする園児のように。


 その瞳を爛々(らんらん)と、どこまでも無垢むくに輝かせて――。

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