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9-21.「ガキョン」


 それからも、あと少しだけワチャワチャとあった。


 とにかくアリシアの身柄を早く取り戻せないと、いろいろとかなりまずいことになるのに、肝心のテグシーがグランソニア城の結界だかバリアのせいで手出しできないと来ているらしい。


「そこでキミの技量ならあるいは、何とかならないだろうかと……」

「何とかって言われてもなぁ」


 だいぶ切羽詰まった様相でそんな相談を受けたので、とりあえず見に行ってみたがダメだった。結界はかなり強力なもので、外側からじゃどうにもならないと結論に至る。その経緯でアリシアの救出作戦にはひとまず(渋々)、組み込まれてやることになったわけだが。


 うーんどうしたものかと悩んでいるテグシーの傍ら、ふいにリィゼルが待てよとなったのは、1つだけこれを突破できる手段――というか人物に心当たりが浮かばなくもなかったからだ。


 いやでもさすがにと独り言ちたところ、何でもいい言ってみてくれとテグシーからせがまれたのでやむなく明かす。それで呼ばれたのが、アリシアを除けばもう一人、リィゼルが唯一セレスディアで知己ちきと呼べる魔女にして、頭の形のきれいな赤毛の少女。


「…………」


 杖を手に、ポカンと口を開けているルーテシア・レイスだった。



 ところでこれは、少しまえの話になるが――。

 たいへん迷惑なことに、魔女狩り試験が終わってからというもの彼女から毎日のように付きまとわれている。


 筆談・・したところによれば、唯一の友だちだったアリシアが病院で缶詰にあっているせいで遊び相手がいないらしい。いやだからってこっち来んなよと文句も言いたくなるというかなんでボクがここに居るって分かったんだと思ったら、これまたウィンリィの鼻を借りて突き止めたそうだ。


 無論のことながら、取り合うつもりなんかなくて、ボクは忙しいんだあっちいけとシッシしてやったわけだが。ちょっとそこで、かなり想定外のことが起きた。


 あんまりおざなりに扱ったものだから機嫌を損ねたか、むぅうとプックリむくれたルーテシアがテテテと向かったのは『ヘンゼル』の背後。すなわち出入り口となるハッチの正面である。


 何をするつもりかなんておよそ検討は付き、やれやれとリィゼルはため息を零した。どうせそっちがその気ならと短気を起こし、無理やり中に押し入ってやるつもりでいるのだろうが。


 残念、それは不可能というものだ。

 なにせそこのセキュリティは最近、新しく付け替えたばかりなのだから。

 だいぶまえにゼノンに力づくで壊されて以来、長いことパカパカしたままだったが。


 その教訓を経て、今度は物理ではなく魔術式による最新鋭ロックを導入したのである。

 かなり難解にしたから、次にゼノンが無理やり引きずり出そうとしてきたとき、やーいとしてやるのをひそかに楽しみにしていたりもした。


 だから押せど引けど、そう簡単に破れるはずもなくて。

 ガキョン。


「――えっ?」


 思考の停滞を経て、グルンとリィゼルは座席ごと振り返る。

 そこにいたのはハッチを開け、よいせと普通に中に入ってくるルーテシアだった。

 杖を手に、どうだやってやったぞみたいな顔つきでフンスとしている。


 最初はロック自体をかけ忘れてたのかとも思ったが。

 そんなことはなく、そんなはずもない。


「じゃあ、なんでだ……? てかおい、ちょっと待て……」


 魔術式ごと消えてるんだが……。

 ルーテシアが帰ってから改めて調べてみたところで、そんな怪奇現象を目の当たりにした。


 だがきっと何かこちらが手違いか、勘違いをしていたのだろう。

 そうとしか説明が付かないから、しかしなんでだまぁいいかと首を傾げながらもまたロックをかけ直す。その翌日またもやってきたルーテシアに今度こそ、やれるもんならやってみろとヘラヘラしていたわけだが。


 ガキョン。


「――えっ?」


 同じことの繰り返しだった。


 とまぁ、そんなことがあったもので。

 どうやらそういう系・・・・・が得意であるらしい彼女を、あるいはと呼び立ててみたわけだが。


 なんで自分が呼ばれたのか分からなそうに最初はオドオドしていたルーテシアも、テグシーから事情を明かされるなり顔付きが変わり、やる気に満ち溢れた表情をする。


 いったい何を見ているのか、何もないようにしか見えないところをじっくりと見定めてから、えいや。身の丈ほどもある杖先で空間を小突いたわけだが。バチバチバチとエフェクトこそ凄まじくておおおとなったものの、シュウウゥとなって結局ダメだった。


 しかし考えてみれば当たり前のことだ。

 魔女や囚人たちの出入りを厳しく制限するためのバリアが、それこそ魔女の手で破られてしまったら意味がない。


 そりゃそうか気にすんなと肩ポンしてやったところ、ルーテシアはシュンとしていた。



 ◆



 しかし、そこで安易に呼びつけてしまったのが良くなかったのだろう。

 表立ってではなくサポート的な立ち位置ならいったん良しと作戦参加は了承したものの、そうと知ったルーテシアが自分もと言って聞かなくなってしまったのだから。


 だが実際、『ヘンゼル』をいろいろ調整するのに手伝いがほしいのも事実だった。テグシーの提案もあって、致し方なく乗せてやることにする。


 ペット禁止、ノーと再三に渡って突きつけたにも関わらず、我が物顔で乗り込むウィンリィも加わって結成された救援ユニットだったとは、まったくもって余談にはなるが――。


 しかしまさか、それがこんな顛末てんまつを迎えようとは。

 ガシャン、ガシャンと着実に近づいてくる踏み鳴らすかのような足音に、リィゼルは奮い立つ。


 これまで数えきれないほど魔道具を自作し、手掛けてきたリィゼルがまさか見紛みまがうはずもないのだ。あの身の毛もよだつ魔人たちの三つ巴で、最後の局面に現れた無骨ぶこつな騎士甲冑。


 外見にこそかなり悪趣味な改造がほどこされていたが。

 それが他でもない、リィゼルがずっと行方を追い続けていた『グレーテル』であることは。


 やはり跡形もなくなんてウソだったのだ。

 中から聞こえてきた呵々大笑かかたいしょうとしわがれた声もまた、紛れもないリコッチのものに他ならなくて。


 それにしたって収監されていたはずの彼が、なぜまたグレーテルに搭乗して意気揚々と現れたのか、委細は不明だが。そんなのはどうだっていい。


 重要なのはいま目のまえに奴がいるということ。それだけだ。

 リコッチを視界に捉えたその瞬間、リィゼルのすべきことはたった1つに定められたのだから。


 ずっと待っていたのだ、このときを。

 ウズウズしていたくらいだ。


 さっきは驚いただの、見覚えのあるガラクタがどうだのと。

 ガシャガシャこちらに歩み寄りながら好き勝手、実に愉快そうにのたまっていたリコッチだが。


 いよいよ返す言葉も見つからず、リィゼルがくれてやったのは失笑だ。


「はっ、笑わせんな。ゴミ掃除だ? 寝ぼけたこと言ってんじゃねぇぞ、このクソボケジジィ。ボクはソイツを造ってやった張本人様だろうが。ソイツの恐ろしさを誰より知ってるこのボクが、ただ丸腰で此処にいるとでも思うのか?」

「カハハ! 口の悪さと威勢だけは相も変わらず、いっちょう前のようだが。何か奇策でもあるというのか?」

「奇策なんてチンケなもんじゃねぇよ。ずっとバカみてぇに準備してきたんだからな、このときのために。確実にテメェを仕留めるために」

「なに……?」

「せいぜい今の内に余裕ぶっこいてやがれ……!」


 そう啖呵を切るなり『ヘンゼル』のハッチを開け、外へ飛び出していくリィゼルだった。まさかいきなり生身で躍り出てくるとは思わなかったか、リコッチは『グレーテル』の身で大いに首を傾げていたが――。


 次の瞬間、バラバラと。

 リィゼルの手から中空に放られたのは、両手いっぱいに抱えられたカプセル状の球体である。




 ――そう、分かりきっていることだ。


 『ヘンゼル』と『グレーテル』のスペック差は、用いられている魔石や装甲の材質からしても火を見るより明らか。正面から挑んだところで太刀打ちどころか、まったく相手にもならないだろう。秒で叩き潰されてしまう。


 だからこそ、準備してきたのではないか。

 回収した魔道具を分解し、その中から使える部品だけを取り出し、再構築することによって。設計から逆算し、『グレーテル』を打倒できるだけの兵力を十全なまでに揃えた。


 一度は危うくゼノンに壊されかけてしまったそれらを、いま満を持してすべて起動する。


「ぶっ壊されんのはテメェの方なんだからなッ!!!」


 その号を合図とするように散りばめられた球体の1つ1つが発光、蓄積された魔力をありったけ解放し――。


「頼む……!」


 都合、十数基からなる規格も形態も様々な魔動機ロイド兵団が、その場に展開されるのだった。

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