8-31.「もう一人」
魔樹『ガガイア』の強襲により、更なる混乱の渦中に陥るグランソニア城だが――。
ここでまた刻は、僅かに遡る。
それはアリシア・アリステリアの放った超特大魔力砲が、リリーラ・グランソニアの巨体を吹き飛ばし、その意識を狩り取った直後のこと。
地鳴りを伴うほどあまりに強大な魔力の気配は、その発生源までは掴めずとも城内にいたすべての魔女が同時に気取ったところになる。
並みの魔女狩りであるならばいざ知らず、少なくとも魔女である彼女らにとってそれは、呼吸も同然に造作もない知覚だった。だが同じ領域内にただ一人、魔女ならざる身でそれに気づいた者がいる。
「……え?」
そのとき彼女は、隔離された塔の別室に一人きりでいた。
本当は今すぐにも飛び出して、いま外で起きていることをちょっとでも手伝いに向かいたいのだ。
でもそれはできなくて、歯がゆくても此処でただ祈るしかなかった。
友人らに、そして実の父親に、どうかお願いと。
そのうえで窓の外に目をやり、予定通りならそろそろ打ちあがるはずの成功の合図を待ちわびていて。ところがそんな折りに、いまの尋常ならざる魔力の気配である。
しかも、変調はそれだけに留まらない。
「そんな、なんで……!?」
フッと照明が落ちるみたいに、グランソニア城を覆っていた不可視の結界。それも突如として消え去ったのだ。
あり得ないことだった。
なにせその結界は、リリーラの意識とも同調していたもののはず。
まさか失神したとでもいうのか。
あのリリーラが?
そんなの想像も付かない、けれど――。
まさかとヒールの踵を返してコツコツ、向かったのは通路からじゃないと開けられないようになっていたはずのドア側だ。
おずおずと手をかけてみたところ、やっぱり。
ガチャリと押し開けられた。
外に出られそうなのだ。
躊躇いはあったが、迷っている場合ではない。
もし無断で外に出たなんて知られたら、後でまた怒られちゃうかもしれないけれど。
「ごめんね、リリーラ!」
気持ちそう詫び入れてから、えいやと外へ飛び出す。
境界線をわざわざジャンプして飛び越えたのは気合的なもので、意味はとくになかったが。
ともあれ外に出られたというなら、すべきことなんて決まっていた。
確かめにいくのだ、この目で。
いま外で、いったい何が起きているのか。
「よし……!」
コツコツと高いヒールの靴音を響かせ、その豊かな深緑色の髪をなびかせながら。
かくして彼女――ミレイシア・オーレリーは無人の回廊、その奥へと駆け出していくのだった。
待っててみんな、いま行くからねと。
今からでも自分にできることを求めて。
パート8はここまでです。
舞台は引き続きグランソニア城のまま、次話からパート9に入っていきます。




