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【完結】「森に住まうこわ〜い魔女」のフリをしていた私、ボッチの最強魔女狩りに拾われる ~助けてもらったので、なるべく恩返しできるよう頑張りたいと思います~  作者: あなたのはレヴィオサー
8.グランソニア城(脱出編)

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8-25.「ただ、それだけ」


「じゃあ私たち、もう行くね。元気でね、狼さん」


 ようやく少女らが出立していったのが、それから数日後のことになる。

 黙っていなくなればいいものを、律儀に別れの挨拶あいさつにまで来たらしい。


「またねー、狼さーん! 元気でねーっ!」


 少女は見えなくなる最後まで、こちらに向かって大手を振っていた。

 そうして少女が同じ方向に立ち去っていくのを何度も見てきたためか、しばらくが経ってもいまいち現実味は湧かなかったが。


 でも、そうか。

 本当に行ってしまったのか。


 そう考えると急に、森全体が静かになったように思える。

 ざぁと木々のざわめくなか、ぽつんと取り残されている自分の姿に気付いて――。


 ハッとした。何をと。

 まさか寂しいとでも言うつもりか。


 そんなはずはないだろう。

 むしろ、せいせいしたくらいだ。

 あのちょこまかしたのがやっと居なくなってくれて。


 これでようやく日々の平穏を取り戻せるというものではないか。

 第一、孤高なる光狼獣ライロウルフにそんな感情はない。

 あるわけがない。――だというのに。


『良かった、狼さん。元気になったんだね』


 気付けばまた、あのときのことを思い返していた。

 たちまち葛藤かっとうさいなまれる。


 実はちょっと想定外だったのだ。

 あの少女に下心があったとは、今でこそ思っていないが。

 それでも多少なり、あわよくば『契約』がどうこうみたいな話はいずれ持ちかけられるだろうと思っていたから。


 ちなみにいくつかある精霊獣との『契約』方法のなかで、もっとも簡易シンプルなのは下された命名を受諾じゅだくすることなのだが。もし仮にあの少女がそれを試みたなら、まぁ聞き入れてやらんでもなかった。


 さすがに『狼さん・・・』はないにしろ、よほど奇抜なものでなければ。

 かつ、どうか切にと食い下がってくるならば。一応救われた恩義もあることだし、大義であった的な振舞いで良しとしてやったかもしれない。


 ところが、どうだ。

 少女は最後までそんな素振りの片鱗へんりんも見せず、あっさり行ってしまったのである。


 まったくもっておろかかしいことだった。

 自分と契約できたかもしれない千載一遇せんざいいちぐうの機を、みすみす逃してしまったのだから。


 なんて勿体ない。

 ダメ元でもやってみればいいものを。

 グチか文句か分からないものをいろいろ、心の中で吐き捨てていた。


 耳も尻尾も力なく垂らし、鼻からはクゥンとあらぬがあがっている。

 ついでにあんまり動かずにいたものだから、小鳥が鼻先でチュンチュンしていると、そんな自身の有様にはついぞ気づかぬまま。


 それからしばらく、長いこと。

 光狼獣ライロウルフは悩んでいた。


 どうしたものかとウンウンと迷っていた。

 そうして、やがて思い立つ。

 ヨシと。


 もう一度だけ、あの少女にチャンスを与えるのだ。

 思えば無理もなかったのである。何分、最初はぞんざいに扱ってしまったものだから、まさかこちらにその気があ……なくもないなどとは夢にも思わなかったのだろう。


 なぜこちらがそこまでとは無論のこと、思ったが。

 まぁそのくらいは大目に見てやることにして、すっくと立ちあがった。


 そう、すっくと立ちあがったのだ。

 実はもう何日もまえにすっかり完治していた、その足で。

 臭いを辿りながら颯爽さっそうと森を駆け抜ければ、追いつくまでにそう時間もかからない。


 しかし、本当に大変だったのはそこからである。

 追いついたは良いものの、どう少女と接触したものか。

 さすがに人里も近いようで、大きいままでは目立って仕方がない。


 あれこれ策をろうするが、そのたびに光狼獣ライロウルフの誇りみたいなものに遮られる。しかも最後は、命名までさせなければならないとは。


 雨に打たれ、風にさらされ。

 2人のまったく露知らぬところで、光狼獣ライロウルフ奮闘ふんとうは続いていた。

 そうしてついに、待ちわびたその瞬間が訪れることになる。


「――ウィンリィ、なんてどうかな?」


 ぶっちゃけ思っていた展開とは全然違ったのだ。

 なにせ少女はそれをただの野良ワンコだと思い込み、精霊獣がどうとか『契約』についての知識も一切ないまま、飼うお許しすら後付けする算段で先に名付けだけ済ませてしまったのだから。


 だけどもう何でもよかった。

 これでやっと……。

 やっと『契約』が、成立する。


 結局のところ、その光狼獣ライロウルフがここまで奔走してきた理由はただ1つ。

 また少女アリシアに撫でてもらいたかった、と。


 ――アンっ!


 ただ、それだけだったのだから。



 ◆



 それから今日まで、光狼獣ウィンリィは本当に多くの時間を主人アリシアとともに過ごした。


 ただでさえ魔女であるアリシアが、精霊獣まで付けているとなるとさすがに目立ってしまう。そんなゼノンの懸案もあって、何かと留守番させられることは多かったが。


『あぁどうしよう、ウィンリィ。私、緊張してきた。魔女登録の面談ってどんなこと聞かれるのかな。将来の夢とか、そういうの……? 人に言えるような立派な目標なんて、私まだ持ってないよ……』


『ごめんね、ウィンリィ。今日からしばらく会えないんだって。ちゃんと迎えに来るから、ゼノンさんのところでお留守番しててね。良い子にしてるんだよ?』


『ねぇ聞いて、ウィンリィ! 新しい友だちができたの、それも魔女の! ルゥちゃんっていう子でね。ちょっと恥ずかしがり屋さんなんだけど、とっても可愛いらしくて優しい子なんだ!』


『あのね、ウィンリィ。私も今日、初めて知ったんだけどね。なんか皆、ゼノンさんのことあまりよく思ってないみたいなの。セレスディアでヘンな噂が流れてるって、さっきリクニさんが教えてくれて……。ひどいよね。ゼノンさん、全然そんな危ない人なんかじゃないのに……。私に何か、できることないかな……?』


『ウィンリィ、私決めたよ。あれからいろいろ、考え直してみたんだけど……。やっぱり私、魔女狩り試験に出てみようと思うんだ。ゼノンさんからはダメって言われちゃったけど、このままじっとしてることなんてできないよ……。意味なんてほとんどないかもしれないし、もしかしたら散々な結果で終わっちゃうかもしれないけれど。でも私、頑張るから。応援、してくれる……?』


 歓喜も、不安も、決意も、悲しみも。

 事あるごとにアリシアは、包み隠さぬ胸の内を明かしてくれた。


 実際に力になってやれることはもどかしいほど少なかったし、声援や励ましを言葉としてかけてやることもできない。それでも、伝えられるメッセージはあった。


 たとえアリシアがどんな選択を取ったとしても、自分はそれを肯定する。

 いつだって自分はアリシアの味方だよ、と。

 彼女のかたわらに寄り添い、親愛を込めて鼻先をスリ付かせて。


『――ありがとう、ウィンリィ。私、頑張るね!』


 また、にこりと。

 花咲くような笑顔をアリシアが取り戻してくれること。


 それが何より、光狼獣ウィンリィには嬉しかったのだ。

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