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8-23.「救援ユニット」


 最初は何が起きたのかもよく分かっていなかった。


 想定していたよりもずっと早くリリーラさんに追いつかれてしまって、ライカンさんも体に無理をきかせてまで頑張ってくれたけれど、出口なんてまるで見えてこなくて。


 とにかくもうこれ以上はライカンさんの命が危ないと、止めようとした矢先のことだ。


「来てもらえて助かった、後を頼む! 受け取れぇえいッ!!!」


 勢いそのまま、背負い投げの要領で思いっきりぶん投げられたのは。


 本日、2度目。

 「ふええええーっ!??」と素っ頓狂な悲鳴をあげながら、射出されるまま慣性に身を任せるしかない私である。


 だが思いもよらない事態に見舞われたのが、その直後。

 投げ出されひっくり返った体が背中から、何か狭いところをくぐり抜けたかと思えば、突然パッと視界が切り替わったのだ。


 今まで走ってきた無限回廊は、石造りのトンネルのように変わり映えのない景観がずっと続いていたのに、その前後で打って変わって明るくなって。


 気づけばボフンと、私は全身を何かに受け止められていた。

 エアバッグ感があったけど、なんだろう。

 とてもフワフワして柔らかい。

 あとなんか、温かいけれど……?


 かと思えば間髪入れず、正面から駆け寄ってきた誰かにガバリと抱き着かれる。

 取り落とされた大きな杖がカランカランと床に音を立てて、いったい何事かと目をパチクリさせていたら。


「へっ、ルゥちゃん!? それにウィンリィも!?」


 それがルゥちゃんで、後ろの生暖かい毛並みの正体が大型犬サイズのウィンリィであることにも遅れて気付いた。ウィンリィからはお帰りみたいな感じにベロりと顔を舐められて、それが親愛を込めてのものとは分かるけれどちょっと状況が読めない。


 なんで2人が此処にいるのか。

 「というかまず此処どこ!?」から慌てて確かめようとして。


「ったく、相変わらず騒がしい奴だな。もう少しくらいやつれてんのかと思ったらなんだよ、全然元気そうじゃねぇか」


 また聞き覚えのある第三者の声が、ぐるんと座席の回転する音とともに。

 それで分かった。

 あちこちゴウンゴウンしてるし、どこか見覚えのある間取りだと思ったら。


「心配して損したぜ」

「リィゼルちゃん!?」


 やれやれ風に肩をすくめながら、ヘンと足を組んで社長座りしている彼女がそこに。


 つまり此処はリィゼルちゃんが拠点としている機動ラボ、『ヘンゼル』の内部であるらしかった。



 ◇



 片手でウィンリィをよしよし、もう片手でルゥちゃんをよしよしと、奇妙な両手の塞がり方をしながら。ヘンゼルを自動操縦に切り替えたうえで、リィゼルちゃんは何がどうしてこうなったかをザックリながら話してくれる。


 どうやらテグシーさん主導の今作戦には、アニタさんたちやライカンさんだけでなく、有事の際のサポートメンバーとしてリィゼルちゃんたちも動員されていたらしい。


 きっかけはリリーラさんがグランソニア城に張ったという、対テグシーさん結界だ。それをどうにか除去できないかと、テグシーさんがリィゼルちゃんを尋ねに行ったのが始まりとのことで。


 さらっと言われてしまったが、私はそこで「うん?」となる。 

 だってリィゼルちゃんは魔女登録を受けるのがイヤで、セレスディアに来たのも私たちに付いてしれっと密入国みたいな感じだったはずだ。


 それなのに、なんでテグシーさんがリィゼルちゃんのことを知っているのかと。

 でも聞いてみたら「そこはまぁ、いろいろあったんだよ……」とのこと。


 あまり聞かれたくなさそうにしていたので、深くは踏み込まないでおいた。

 とにかくその流れで、補助メンバーとしての動員ならばと了承したのだという。


 でそうと聞いたルゥちゃんが、だったら私もとなって。

 ウィンリィについては文字通り、言葉もなく。


 そんな経緯で、出番がないなら一番と出口でテグシーさんと一緒に待機していた2人と1匹である。だが作戦開始直後、想定より早く魔女チームが突破されてしまったと旨の連絡がジーラさんからテグシーさん宛てに伝えられた。


 それで急遽、出口側からもリィゼルちゃんたちが応援に駆け付けたのだそうだ。

 私の運び役さえリィゼルちゃんたちにたくせれば、今度は打って変わってライカンさんがリリーラさんの足止め役に徹することができるから。


 きっとライカンさんも、それを見越していたのだろう。

 だからあんなにボロボロになっても、かたくなに足を止めようとはしてくれなくて。


「ライカンさん……」


 最後の瞬間こそ、リリーラさんを圧倒していた。

 ありったけの魔力を込め、あの大きな体を押しつぶして動けなくして。


 でもあんな出力、いつまでも持つとは思えない。

 持ちこたえられなくなったとき、ただでさえ男性嫌いなリリーラさんがライカンさんをどうするのか。それだけが気がかりだった。


 ひとまずアニタさんたちはみんな無事で、強いていうならルーシエさんがノックアウトされてるくらいらしい。今はそんなルーシエさんを叩き起こして、リオナさんを背負って入口からも追いかけているところだそうだ。それがライカンさんに追いついてくれるのを祈るばかりだった。


「いつまで辛気臭ぇ顔してんだ。おまえがしょぼくれてたってどうにもならねぇだろ」

「そうだけど……」




 憂い事の止まないまま、つかの間の休息――。

 それからまた少し時間が経って、出口まであと少しだとリィゼルちゃんが教えてくれた直後のことだった。


「なんだっ!?」


 何かが起こると、先に気付いた様子を見せたのは耳をピクリとさせたウィンリィだけ。次の瞬間、ズォオンと地響きのような物音を伴って、ラボ全体が大きく揺らぐ。


 ビビビッとけたたましいアラーム音が鳴り響き、室内が赤色灯せきしょくとうのランプで仄暗く照らされるなか。水平を失った室内を這いあがるようにして、何とかコックピッドにたどり着いたのはリィゼルちゃんだ。


 一体何がどうなってんだと毒づきながらも、どうにかカメラを切り替えたのだろう。

 バチンと叩きつけるようなパネル操作1つで、暗転していたメインモニターが切り替わるのだが。そこに映し出された光景に、私たちの誰も言葉を発せなかった。


 まだ距離こそ離れているが。

 紛れもない彼女、リリーラさんの姿がそこに映り込んでいたからだ。


「そんな……! じゃあライカンさんは……!?」

「人の心配なんざあとにしろ! だが、どういうことだ!? あんな離れたとこから何を……」


 でも答え合わせは間もなく、悪夢のような光景から明らかになる。

 グッと足を延ばし、何やらフォームのような仕草を取ったリリーラさん。


 その手のうちに握り込まれているのは、彼女にとって砲丸サイズの大岩だ。

 つまり私たち常人サイズから見たときの、いわおのような巨岩。

 それをグッと握りしめ、全身をバネとするように大きく振りかぶる。


「はっ、バカ言ってんな。冗談だろ……? そんな距離から届くわけ……」


 そんな常識も嘲笑うかのように、ブォンと。

 怒りにまみれた形相で投げ出されたそれが、豪風をまとう勢いで飛来してきて――。



 ◇



「うううぅ、があああああーーーーッ!!!!!」


 地鳴りのような足音や野獣じみた咆哮とともに、たけり狂ったリリーラさんがドシドシと猛追を仕掛けてくる。それは1発目の投石をヘンゼルに命中させ、続く2発目をぶん投げたのとほぼ同時のことだった。


 モニター越しにやけに遠くからリリーラさんが何かを振り被るような仕草を見せたときは、リィゼルちゃんを筆頭に目を疑ったものだ。だがそれが疑いなく届くと分かるまで秒とかからず、主に私の絶叫が満ちる。


 そんななかで唯一、冷静でいてくれたのはリィゼルちゃんだけだ。

 投擲とうてきされてから着弾までの僅かな時間で。


「ざっけんなあああっ!??」


 ピコピコとコマンドを撃ち込んで最後にバチン、ヘンゼルを再発進させなかったら、今ごろ本当に直撃していただろう。かろうじてけることができた。


 だがそれでも、被弾した1発目が損傷なしとはいかなかったらしい。

 この作戦のために、わざわざブースターを外付けしてくれたというヘンゼルは速かったが、明らかに出力が落ちている。


 そうでなければあるいは拮抗きっこうできたのかも定かでないが。

 地響きのような足音と濁った咆哮はみるみる、肌で感じるほどに近づいてきて。


「こうなったら私が……!」

「バカ、おまえが出てってどうすんだ!?」

「でもだからって、このままじゃ……!」


 やってみる価値はあると思った。

 確かにさっき私の魔力砲は効かなかったけど、ライカンさんの足止めもあってだろう。


 もうリリーラさんはボロボロだ。

 相当に疲労困憊ひろうこんぱいしているはず。


 あるいはまた足を狙って、転ばせることだけでもできれば――。

 そんな勝ち筋で、ヘンゼルの外に出ようとしたときだった。

 思い立った私より早く、たっと外に飛び出していく小さな影が視界の端を横切ったのは。




 ――アンっ!

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