表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/110

8-3.「なんか就任しました」


 というわけで。

 特技は手のひら返し、趣味は後輩いびりとなかなかのトンデモ自己紹介から名乗りをあげたルーシエさんだけれど。


 まぁ結論から言って、全然そんなイジワルな人ではなかった。

 どうやらあれは、ルーシエさんなりのノリとか通過儀礼的な何かだったらしい。

 とにかく初対面でめられないようにと、格付けチェックしときたかっただけだそうな。


「ほら、畜生共もよくやってるじゃないすか。羽を広げてバタバタしたり、口を広げあってどっちが大きいか勝負したり。要はアレっすよ。従えるには己をより大きく見せ、へりくだるにはすぐにコロっといって己をマメ粒大まで小さく見せなくちゃダメなんす。これ自然界で生き抜くための極意ごくいっすから、覚えといて損はないっすよ」


 などと、うさ耳をピョコピョコさせながらしたり顔で言っていた。

 要はマウントを取りたかっただけなんですねとは、ひとまず聞き返さないでおいたけれど。ちなみに私を一目見て気に入ったとか言っていたのは本当らしくて、その理由も間もなく明らかになる。


「うらーおチビども~、集まるっすよー! 新参者を紹介するっす!」


 外へ案内されてからパンパンとそんな呼びかけとともに集まってきたのが、このワンパクもさかりの子どもたちだったのだ。みんな魔女と聞いたときは驚いたけれど、ともかくこの子たちの面倒を長らくルーシエさん一人で見てきたらしい。


 そこからガックと膝をついて、おおんと展開されたのは独白みたいな苦労話だった。


「もう一時期はほんとに大変だったんすよ……。リリっちがあーなのはもう仕方ないとして、人手なんかぜんぜん足りてないのにミルっちが次から次へどんどんチビッ子どもを連れてくるし、リオっちは元よりジラっちもアニタっちも最近はあんまり手伝ってくれないっす。本当はもう1人、ウルっちもいるんすけど……。ありゃもうお子ちゃまっていうか、他人にまったく無関心って感じっすね。まぁある意味、一番魔女らしいっちゃらしいっすが」


 だからさっき、私を一目見てピンときたらしい。

 なにこの子むっちゃ子どもウケ良さそうな顔してるじゃないっすかこういう人材を求めてたんすよみたいな感じで。なんかあまり褒められているとも取れなかったけれど。


 でもちょっと気の毒で、同情はしておいた。

 大変だったんですね、と。


 理解を示してもらえたのがよほど嬉しかったのか、泣かないでルーシエどうしたのと子どもたちからもなぐさめられたことに感極まってか。


 ぶええと感涙するルーシエさんだった。



 ◇



 とまぁ、そんな感じで。

 ルーシエさんはぜんぜん怖そうな人じゃなかったし、リリーラさんもあれっきり姿を見せずでひとまず危機的状況は脱している様子。それでようやく私はおずおずながら、いろいろ状況を確かめることができた。


 此処はいったいどこなのかとか、なんで連れて来られたのかとか。

 子どもたちの手前、いきなり紹介されてなし崩し的に「よろしくお願いします」とか言ってしまったけれど。今なお自分の置かれた状況がイマイチ分かっていないのである。


 ルーシエさんもてっきり、私がぜんぶ分かっているものだと思って話を進めていたそうで。


「えっ、リリっちからなんも聞いてないんすか?」


 きょとんとされてしまった。

 そのうえで「じゃあなんでここにいるんすか」とか聞き返されてしまって、ちょっとややこしくなっていたのだが。


「まさかと思って来てみたら、そのまさかかよ」


 そこにシュタリと、向かって斜め上から軽い身のこなし人影が着地してきたのがそのときだ。いったい何事かと最初は驚いたけれど、願ってもない。


 その辺りの事情に精通してくれている、魔女で唯一の相手ひとがそこに。


「遊びに来たってわけじゃなさそうだな」

「り、リオナさんっ!」


 あれリオっちと知り合いなんすかと、ルーシエさんが意外そうに視線を行き来させていた。



 ◇



 それからまぁ私は、カクカクシカジカとこうなるまでの経緯をリオナさんにお話しする。ちなみにその間、すごい遠くから物寂しそうな目を向けてくるのは、リオナさんの指図さしずを受けていったん退場を余儀なくされたルーシエさんだ。


 何だか気の毒になって、さすがにあんなに遠ざけなくてもいいのではとお伺い立ててみたけれど。聞けば、このくらい離さないとダメらしい。


「アイツ、耳だけはムダにいいからな」


 その実、微かな音でも何とか拾おうとするみたいに。

 ルーシエさんのウサ耳が、せわしなくレーダーみたいに揺れ動いていた。


 ともかく。

 差し当たってリオナさんが教えてくれたのは、此処があのグランソニア城ということだ。まぁこの広さだし、リリーラさんがいる時点でそれしかないよなぁとは思っていたけれど。


 いつもセレスディアの中央に遠目に見えていて、こないだリオナさんから遊びに来いよとお誘いももらっていた城塞キャッスル。どうやらいま、私はその内部に居るとのことで。


 でも結局、それ以外の詳しいことはリオナさんにも分からなかった。

 あの野郎いったいどういう風の吹きまわしだといぶかしんでいたのは、それくらいこれがイレギュラーな状況だからだろう。


 だって私は、リリーラさんからいたく不興ふきょうを買っているのだ。

 理由はまぁ、ちょっと色々ある。


 まず背景的なところから話すと、リリーラさんはテグシーさんと同じく、セレスディア全土でみてもかなり珍しい女性の魔女狩り・・・・・・・だ。今でこそそうだけど、子どもの頃はかなり偏見へんけんの目とか差別にさらされてきたみたいで、とにかく男性全般に強い憎しみをいだいている。


 だから基本的に、男性そっち側にくみする魔女のことをあまり良く思っていないのだ。それに加えて、なんかリリーラさんはゼノンさんのことが特にキライらしい。詳しいことは教えてもらえなかったけど、なにか過去にトラブル……?とかがあったらしくて、とにかく目のかたきにされている。


 だからまぁ『アリス』のことも当初から、かなり鼻持ちならない感じだったそうだ。テグシーさん曰く、なんだあのアリスってやつあんな奴の肩持ちやがってみたくなっていた。それが魔女狩り試験なんかに出てきたものだから、ことさら刺激してしまって。


 そんなこんなで、リリーラさんは『アリス』のことも嫌いなのである。

 大そうお気に召していない。それは魔女狩り試験の三次審査で、鬼門とされるリオナさんをぶつけてきたことからも明白なことだった。だからこそアリシア=『アリス』の方程式ひみつは、リリーラさんにだけは絶対バレちゃいけないと細心の注意を払っていたわけで……。


 それだから今、この状況がちょっとおかしいのだ。

 そんなアリスをこうして、リリーラさんが手ずから自身の領地テリトリー内に招き入れるだなんて。(と言っても、ほぼ誘拐だけれど。)


 しかも何の制裁を加えるでもなく、無傷だ。

 こうしている今も、信じられないことだった。


「いったい、どういうことなんでしょう……? どうしてリリーラさんは私を……?」

「さぁな。ルーシエに任せたってことは一応、面倒みる気はあるってことだろうが」

「面倒?」

「おまえをここの一員として迎え入れるってことだろ、たぶん。なぁ、もっかい聞くがほんとにバレたのか? おまえがその、『アリス』の正体だって」

「……はい、間違いないですよ。私のことそう呼んでましたし、誤魔化そうとしたらヘタな嘘付くなって怒鳴られちゃって……」

「さっきのはそれか……。てっきりまたルーシエがなんかやったのかと思ってたが」


 どうやらその怒鳴り声が、リオナさんのところにも届いていたらしいことはさておき。

 だから私が『アリス』と見抜かれていることだけは確定なのだ。

 疑いの余地はない。


「じゃあ、後はなんだ……?」


 首を捻りながら、リオナさんも一生懸命にほかの可能性を模索してくれたが。

 いよいよ何にも行き当らなかったのだろう。

 苦しげに問いを重ねられる。


「なんかなかったのか? ババァに気に入られるようなことでもしたとか。そうでもなくちゃ説明つかねぇぞ」

「な、ないですよ……。だって私、リリーラさんと直接お話ししたのだってさっきが初めてなんですよ? そんなのあるわけ――リオナさん?」

「……いや、なんでもねぇ」


 そのときのリオナさんは、何か深く考え込んでいるような様子だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ