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【完結】「森に住まうこわ〜い魔女」のフリをしていた私、ボッチの最強魔女狩りに拾われる ~助けてもらったので、なるべく恩返しできるよう頑張りたいと思います~  作者: あなたのはレヴィオサー
8.グランソニア城(脱出編)

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8-2.「脱兎のごとく」


「アリシア、おっはよー! 朝だよーっ!」

「今日は何して遊ぶのー!?」

「ねぇアリシア、アリシアってばーっ!」

「いつまで寝てるのー! 早く起きてー!」


 ここ数日、私の1日の始まり方といえば安定してそんな感じだ。

 朝を迎えるが早いか、バタンとドアから突入を仕掛けてきたチビッ子たちからもう待ちきれないとばかりにユサユサ、ベッドごと体を揺さぶられる。


 今朝だって、もう少し眠らせてほしかった。

 なにせ昨日もほとんど丸1日付き合わされて、まだ疲れなんて抜けきっていないのに。だからもう少しだけ寝かせてぇと恩情を求めつつ、温い布団にくるまろうとしたけれど。


「てやー!」


 そうは問屋がおろさんと、一人が舞台役者みたいな立ち振る舞いでそれをぎにかかる。たちまち他の子が加勢に出て、私の腕を左右からグイグイ引っ張り、ウンウン言いながら背中までも押してくるのだ。


 一人の力は小さくても、みんなで力を合わせれば。

 そんな大切な学びの教材にされるまま。


「「「やったー!」」」


 ついに無理やり起こすことに成功した私を取り囲んで上げられるのは、実に達成感に満ちた七色の歓声だ。本当はここで偉いねぇとかすごいすごいとか、褒めてあげるのが年長者としてのあるべき姿とか、大人の対応だとは思うけれど。何分そこまでヒトができていなくて。


「もう少しぃ……」


 まだ眠たい目をしょぼつかせながら、首をカックリと落とす私だった。

 ではそもそも、なんでこんなことになったのかだけれど――。



 ◇



 ことの発端は無論、数日前のアレだ。

 ゼノンさんからまだしばらく帰れそうにないと連絡があって、今日からルゥちゃんでお泊りだ~とルンルン音符付きでお泊りセットを用意していたときに、ちょうど届いた一通の封書。


 差出人のところに『魔女狩り協会』とあって、宛先もアリスの偽名になっていたので何かと思ったら。どうやらそれが先日受けた魔女狩り試験の合否通知と見受けられて、迷った末に開封したのである。

 

 どうせ目を引くようなことは何も書いてないだろうしと、軽い気持ちでビリビリした。だけどそれが、とてつもなくいけなかったらしい。というか、罠だった。ブービートラップ。


 開くと同時に待っていたのは(それはまばゆいまでの光がピカーンとなる)、いきなり見知らぬところに飛ばされてしかもそこにリリーラ・グランソニアさんがすごい形相で待ち構えているという衝撃展開だった。しかも私のことを『アリス』と、はっきりそう呼んで……。


 これは諸々、後から発覚したことだけれど。

 つまるところリリーラさんも、リオナさんと同じだったらしい。

 魔女狩り試験の最中、『アリス』の違和感に気付いてしまった一人だった。


 だからそれを確かめるために、強制転移させる魔術式を私宛に送り込んだとのことだ。ちなみにあの封書には、試験に出場した本人しか開封できないよう術式もほどこされていたそうで。


 そうとも知らず、咄嗟に申し開こうとした私の言動はついにリリーラさんの逆鱗に触れてしまった。屋内にも関わらず、いきなり雷がバァンとなって。


「ヘタな嘘つくんじゃないよ! アタシを誰だと思ってるんだいッ!?」


 一喝。

 それはもう、修羅のような形相でギロリと睨まれる。


 今までだって誰かにお叱りを受けたことはあれど、断言しよう。

 そのどれと比べても、このときが一番怖かったと。

 ダントツに恐ろしい。


 声1つ出せないまま、私は腰を抜かすみたいにその場にへたり込むしかなかった。いったいこれからどうなるのかと、恐ろしさでいっぱいになっていると。


「ルーシエーッ! どこだいっ、来なーッ!!!」


 これまた大きな声で、怒鳴りつけるみたいに誰かが呼ばれる。

 するとものの数秒で、ダダダダダとものすごい足音が近づいてきて。


「す、すんませんっしたーっ!!!」


 バンとすごい勢いで開かれたドアの向こうから、息を切らして飛び込んできたのは透き通った水色の髪をした女の人だ。


 頭に上でぴょこぴょこ揺れているあれは、なんだろう。

 ウサギの耳……みたく見えるけれど。


 ともかく息を切らして駆け込んできたその人はギュオーンと、まるでレーシングカーがコーナーを曲がるみたいに脱兎のごとく駆けつけてきて、その勢いのままズザーと土下座するみたいにひれ伏す。


 そして、何べんも謝る。

 すんませんすんませんホントにすんませんと、ゴンゴン地面に額を打ち付けながら。


「なにをそんなに謝ってんだい、さっきから。あんたまさか、また何かしでかして」

「ぎょえー! なんすかリリっち、今日むっちゃ怖いんすけどー! いや違いますって! だってついさっきあんなデカイ音がしたんすもん、その直後にご指名頂いたとあらば、そりゃこのくらいは当然っていうかとりあえず謝っとけってなりません!? さしものアッシもたまらず防衛本能むき出しっていうか、ムリもねぇって奴っす……よっ?」


 手振り身振りであたふたしながら最後が疑問形だったのは、腰を抜かしている私とふいに目が合ったからだろう。頭をグシグシしてから、ハテと首を傾げられる。


「見ない顔っすね、どちら様っすか?」

「新入りだよ。今日からあんたが面倒見な」

「ほぅほぅそれはそれは。ってええっ、新人ッ!?」


 そこからやいのやいのと、よく分からない会話が始まった。

 これ以上はダメって言われたじゃないっすかウルっちのときでさえあんな揉めたのに魔女狩り協会だって今回ばかりはもう黙ってないっすよとウサ耳の人が何やら説得するのだけれど、知ったことじゃないみたくリリーラさんがそれを跳ね付けて。


「んもー、しょうがないっすねぇ。一度言ったら聞かないんすから、リリっちは。まぁ今に始まったことじゃないっすけど」

「そんなに心配ならあんたが抜けるかい?」

「またまたぁ、そんな心にもないことを〜……ってあああーっ、ウソウソっ! ストップ、ストッープっす!」


 さらに軽口で応じようとしたところ、見るからにゴゴゴゴとなったリリーラさんが無言のグーを持ち上げたもので(修羅の形相)、アワアワ必死にお許しを求めていた。調子に乗りすぎましたごめんなさいの意で全身全霊のハハァをして、そんなこんな。


「もう分かったっすよ、ひとまずはアッシが面倒見るっす……。増員の件は、またテグっさんが何とかしてくれることに賭けるしかないっすね……」

「……。ふん、頼んだよ」

「あいさー」


 最後はそんな感じで、話がまとまったらしかった。

 やがてリリーラさんがズシズシと部屋の向こうに姿を消せば、私とオヨオヨしながら一応は敬礼ポーズでいた女の人(ルーシエさん?)だけが取り残される。


 何が何だか分からずにいると。


「さーてと」


 気を取り直したようにきびすを返し、ルーシエさんが近づいてくるのだ。

 つい今しがたまでしおれた感じだったのに、打って変わって拳をパキポキ鳴らしながらいまだ足腰立たない私のまえに仁王立ち。これ見よがしに、フッとほくそ笑んで。


「良い表情っす」


 ワルの顔で言われた。


「え……?」

「い~表情だっつったんすよ、新入り。可哀そうに、よっぽどリリっちが怖かったんすね。汗びっしょりじゃないっすか。心中察するに余りあるっすが――まぁ安心するっす、少なくともアッシはウヌが気に入ったっすからね」


 ヤンキー風に座り込んで、頭をポンポンしながらルーシエさんは笑顔で続けた。


「その恐怖に引きつった表情が何ともたまらないっす。なかなかできるもんじゃないっすよ、そんな猛獣を前にした小動物みたいに怯え切った顔つきは。完全に腰抜かして今にもチビリそうってのが、顔に瞳にありありと浮かんでるじゃないっすか。これは久々に見込みありそうなのが入ってきたって、もう一目で分かったっすよ。そういう素直な顔ができる人材を苦節ウン十年は言い過ぎにしても、もうとにかくずーっと待ってたんす。だから歓迎するっすよ!」


「…………」


「ここは言わば魔女の監獄。一度入ったら二度と出られない、スーパー恐ろしいところっす。とくに入ったばかりの新人とかマジで人権ないっすから、そこんとこよーく覚悟しとくっすよ。きっと胃液出し切って胃が痛くなってもまだ吐きたくなるくらいゲロゲロする毎日が待ってるっすけど、まぁ差し当たって先輩から1つアドバイスをくれてやるとしたら、よく寝ることっす。人間寝れば大抵のことは何とかなるっすからね、ありがたく頂戴するっすよ。あとはー……あってか自己紹介がまだでしたね。こいつは失敬、アッシはルーシエ・ハルハット。偉大なる大先輩として、この名を末代まであがうやまたてまつるっすよ。ちなみに特技は手のひら返し。人によって態度を変えるなんて日常茶飯事、息吸うみたいにやってのけるんでよろしくっす」


「えっ、あの……えっと……」


「いや、だってそりゃそうっすよ。たとえ話、ウサちゃん食い殺したオオカミちんが続いて百十の王ライオン様に襲い掛かりますかって、そんなわけないじゃないっすか。余裕でへりくだるし尻尾巻いて逃げるっすよ。自然界じゃ常識ってか掟みたいなものなんすから、そこんとこ責めないでほしいっすよね。つーか何なら分をわきまえてるまであると思うんすが。いさぎよいの間違いじゃないすかって、常日頃からツッコミたいところでして。あとわ~、趣味わ~」


 何が何だか分からない。

 分からないけれどとにかく、ぺちゃくちゃと気前良くしゃべりながら最後、恥じらう乙女みたいにやけに声をつやっぽくさせたルーシエさん。


 打って変わって、べっと舌を出してウインク。

 ぶりっ子風チャーミングを演じたかったのは、何となく伝わったけれど。


「後輩いびり?」


 ちょっとというか、だいぶヘタッピだった。

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